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59章 お祭りはそれでも続行
834. 忘れられた影がひとつ
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地下牢から救い出した女性は神龍、エルフ、ラミア、ハルピュイアだった。彼女らの衰弱は激しく、一時しのぎではあるが魔力を与えて回復させる。子供達は彼女らの子ではないという。彼女らが捕らわれてしばらくしてから、子供が運ばれてきたため面倒をみたらしい。
確かに獣人系の種族がいないのに、セーレが連れてきた子供は狐獣人だった。獣王と称される神獣フェンリルが怖いのか怯えるため、現在はルキフェルが手を繋いでいる。
「不思議だね、僕が知る限り誘拐の届け出は出てない」
「私も届け出は見ていません」
記憶力は定評があるルキフェルとアスタロトの断言に、ベールが眉をひそめた。女性達は成人していればともかく、魔族は子供の保護に積極的だ。養子でも実子でも大切に育てるのが通例だった。他種族の子も養子にして育てる魔族が、いなくなった子供の保護届を出さないのはおかしい。
共通認識で、彼らは裏にある事件を嗅ぎ取った。まだ動けない女性達をルキフェルが魔法陣で包む。
「僕は先に帰るから。ベールはどうする?」
「一緒に行きましょう。彼女らの保護に関する手続きが必要ですから」
ひとまず魔王城の城下町ダークプレイスにある緊急用施設に保護し、その後家族を探して帰してやらなければならない。それは文官の仕事ではなく、魔王軍の役割だった。
汚れた床に、礼服の裾がつくのも気にせず屈んだベールが子供達を抱き上げる。狐獣人、ケットシーを両腕に抱き上げると、器用に魔熊の子も腕の中に収めた。子育てはルキフェルで慣れているベールは、整った顔に美しい笑みを浮かべた。
ケットシーは女の子だったらしく、顔を赤く染める。4人の女性達を魔法陣に乗せたルキフェルが先に転移し、後を追ったベールが2人と1匹の子供を連れて追った。静かになった地下牢を見回すアスタロトの視線は鋭い。
壁や床に滲んだ血の色と臭いが嫌悪感を強めた。この砦は最近できたはずで、これほど強く恨みが染みつくはずがない。それだけ子供も女性も繰り返し傷つけられた証拠だった。
「粉々に砕いてしまいましょうか」
人族の愚かさの象徴である建物の処分方法を決め、アスタロトは踵を返した。地上に出るとすでに生きた人族の姿はない。魔獣達により運ばれた人族の死体は食料となり、やがて魔の森の養分となる。彼らのように救いがない種族であっても、血肉がある以上何かの役には立つのだ。
「この場所は消滅させます」
アスタロトの宣言に、魔獣達が大急ぎで準備を始めた。足音もなく近づくフェンリルが、彼の前で伏せて敬意を示す。その鼻先を撫でながら子供を見つけた功績を褒めてやり、魔狼達の引き上げを手伝うよう指示した。
魔法陣をひとつ手のひらに呼び出す。大地の魔法はあまり得意ではないため、ルキフェルが作った魔法陣を多少弄ることにした。魔法文字のいくつかを変更し、足元に転写する。広がる魔法陣が輝きながら砦の敷地すべてを覆った。
ふわりと羽で舞い上がるアスタロトは安全を確認し、もうひとつ魔法陣を重ねる。生きている者がいたら、弾き出すための安全装置だった。魔力を探る限り魔族の生き残りはいないと思うが、安全策はいくらあっても問題ない。
広がった魔法陣に発動の魔力を注いだ。忌まわしい地下牢を壊し、傾いた砦や塀が足元から砂になっていく。さらさらと崩れる砂の上に建物が倒れ、やがてすべて砂になった。
「お疲れさまでした。掃討終了です」
アスタロトの宣言に、各魔獣達の遠吠えや鳴き声が返る。一時的に騒がしくなった森はすぐに静まり、あっという間に魔の森がせり出した。木を切り倒された空間に新たな芽が顔を出し、蔓がその手を伸ばす。数日もすれば、跡地は魔の森に飲み込まれて完全に消失するだろう。
己の仕事を終えたアスタロトは、魔王城へ向けて転移した。誰もいなくなった場所で、のそのそと砂の下から小さな影が這い出して来るのを……誰も知らぬまま。
確かに獣人系の種族がいないのに、セーレが連れてきた子供は狐獣人だった。獣王と称される神獣フェンリルが怖いのか怯えるため、現在はルキフェルが手を繋いでいる。
「不思議だね、僕が知る限り誘拐の届け出は出てない」
「私も届け出は見ていません」
記憶力は定評があるルキフェルとアスタロトの断言に、ベールが眉をひそめた。女性達は成人していればともかく、魔族は子供の保護に積極的だ。養子でも実子でも大切に育てるのが通例だった。他種族の子も養子にして育てる魔族が、いなくなった子供の保護届を出さないのはおかしい。
共通認識で、彼らは裏にある事件を嗅ぎ取った。まだ動けない女性達をルキフェルが魔法陣で包む。
「僕は先に帰るから。ベールはどうする?」
「一緒に行きましょう。彼女らの保護に関する手続きが必要ですから」
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汚れた床に、礼服の裾がつくのも気にせず屈んだベールが子供達を抱き上げる。狐獣人、ケットシーを両腕に抱き上げると、器用に魔熊の子も腕の中に収めた。子育てはルキフェルで慣れているベールは、整った顔に美しい笑みを浮かべた。
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「粉々に砕いてしまいましょうか」
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魔法陣をひとつ手のひらに呼び出す。大地の魔法はあまり得意ではないため、ルキフェルが作った魔法陣を多少弄ることにした。魔法文字のいくつかを変更し、足元に転写する。広がる魔法陣が輝きながら砦の敷地すべてを覆った。
ふわりと羽で舞い上がるアスタロトは安全を確認し、もうひとつ魔法陣を重ねる。生きている者がいたら、弾き出すための安全装置だった。魔力を探る限り魔族の生き残りはいないと思うが、安全策はいくらあっても問題ない。
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「お疲れさまでした。掃討終了です」
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己の仕事を終えたアスタロトは、魔王城へ向けて転移した。誰もいなくなった場所で、のそのそと砂の下から小さな影が這い出して来るのを……誰も知らぬまま。
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