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59章 お祭りはそれでも続行
829. やはり訳ありでした
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「……なんだろう、僕カッコ悪くないっすか?」
中途半端に砕けた口調でぼやくアベルは、両手を挙げたまま魔王と剣士の間に挟まれていた。剣士が警戒を解かないため、そのままの形で場所だけ移動したのだ。巨大なフェンリルのヤンは牙を剥いて威嚇するし、リリスの護衛イポスは剣の柄から手を離さない。
「いや、カッコいいぞ」
純白の魔王は慰めるように告げるが、アベルの眉がさらにシワを増やした。アスタロトは底の見えない笑みを張りつけ、剣士に話しかける。
「改めて、亡命の理由をお伺いします」
木陰の一角に通された剣士は、ぐるりと周囲を見回してから剣を下ろして鞘に納めた。それから90度に腰を折って頭を下げる。
「大変失礼な対応をしました。すみません」
捻られた腕を摩りながら、アベルが困惑顔で振り返った。剣士はアベルにも同様の謝罪を行ったため、怒りは拡散してしまう。
「もういいよ」
「そうだ。事情を聞かせてもらおう」
アベルとルシファーに言われ、用意された椅子に座るよう指示される。しかし彼は遠慮深い性格なのか、地面に直接座ってしまった。そうなるとヤンの上に乗るルシファーが気にして滑り降りる。慌てたヤンが尻尾で包んで、ルシファーの襟を爪で掴んだ。
「我が君、危険ですぞ」
「いや、見下ろしたら失礼だろう」
「ルシファー様、私が対応いたしますから」
ヤンとルシファーの会話に笑顔で「手を出すな」と釘を刺したアスタロトは、自らも椅子を使わずに立ったまま口を開いた。
「亡命希望者はあなただけですか?」
「いえ、おれの家族も一緒にお願いします。母と弟です」
許可が出れば連れに戻れるよう、魔の森に一番近い村で待たせているという。断られる可能性が高いのに、そこまで切羽詰まった行動を起こした彼の事情に興味がわく。
「魔族に対する人族の行いをご存じですか?」
「はい」
「なぜ、魔族があなた方を受け入れると思うのですか」
遠回しに拒絶の返答に近い言葉を選ぶ。きゅっと唇を噛んだが、剣士はひとつ大きく息を吐いた。興味津々の魔族が集まり、彼らの話し合いを遠巻きに眺めている。明らかに敵地と呼べる状況で、剣士は唯一身を護る武器を外して前に置いた。
剣帯ごと横向きに置き、剣士は数歩下がって座り直す。これで武器に手が届きにくくなった。怪訝そうな顔をしたが、アベルはすぐ近くに胡坐をかく。
「事情をすべてお話いたします」
そこから剣士は淡々とした他人事のような口調で、自分の置かれた境遇を話し始めた。元が子爵家だった実家は、父の代で財産を使い果たし没落した。直接的な原因はミヒャール国の滅亡だが、その後、教会によって寄付と称して金を奪われたのだ。先祖に申し訳ないと父は命を絶った。
今夜の食事すら困窮する状態で、母が病に倒れた。だが先祖伝来の領地も宝石も屋敷すら教会の物となっており、即時出ていくように命じられる。温情を求めた彼に与えらえたのは、銀のプレートだった。
「勇者一行の一員となり、魔王を倒して領土を奪ったら金も屋敷も返してやる……と」
そこで彼は気づいたのだ。井の中の蛙であろうと、自分はミヒャール国の最高剣士の栄誉を得ていた。これは家柄に関係なく、国王臨席の試合で勝ちぬいて得られる名誉だった。この肩書と実力欲しさに、父は嵌められたのではないか。
一度浮かんだ疑惑は、どんどん大きくなった。銀のプレートを一度受け取ったものの、出立間際に弟を教会が預かると言い出す。人質にされる――その恐怖に、家族を辺境へ逃がしたのだ。
語り終えたところで、剣士は首に下げた銀のプレートを外して地面に捨てた。
中途半端に砕けた口調でぼやくアベルは、両手を挙げたまま魔王と剣士の間に挟まれていた。剣士が警戒を解かないため、そのままの形で場所だけ移動したのだ。巨大なフェンリルのヤンは牙を剥いて威嚇するし、リリスの護衛イポスは剣の柄から手を離さない。
「いや、カッコいいぞ」
純白の魔王は慰めるように告げるが、アベルの眉がさらにシワを増やした。アスタロトは底の見えない笑みを張りつけ、剣士に話しかける。
「改めて、亡命の理由をお伺いします」
木陰の一角に通された剣士は、ぐるりと周囲を見回してから剣を下ろして鞘に納めた。それから90度に腰を折って頭を下げる。
「大変失礼な対応をしました。すみません」
捻られた腕を摩りながら、アベルが困惑顔で振り返った。剣士はアベルにも同様の謝罪を行ったため、怒りは拡散してしまう。
「もういいよ」
「そうだ。事情を聞かせてもらおう」
アベルとルシファーに言われ、用意された椅子に座るよう指示される。しかし彼は遠慮深い性格なのか、地面に直接座ってしまった。そうなるとヤンの上に乗るルシファーが気にして滑り降りる。慌てたヤンが尻尾で包んで、ルシファーの襟を爪で掴んだ。
「我が君、危険ですぞ」
「いや、見下ろしたら失礼だろう」
「ルシファー様、私が対応いたしますから」
ヤンとルシファーの会話に笑顔で「手を出すな」と釘を刺したアスタロトは、自らも椅子を使わずに立ったまま口を開いた。
「亡命希望者はあなただけですか?」
「いえ、おれの家族も一緒にお願いします。母と弟です」
許可が出れば連れに戻れるよう、魔の森に一番近い村で待たせているという。断られる可能性が高いのに、そこまで切羽詰まった行動を起こした彼の事情に興味がわく。
「魔族に対する人族の行いをご存じですか?」
「はい」
「なぜ、魔族があなた方を受け入れると思うのですか」
遠回しに拒絶の返答に近い言葉を選ぶ。きゅっと唇を噛んだが、剣士はひとつ大きく息を吐いた。興味津々の魔族が集まり、彼らの話し合いを遠巻きに眺めている。明らかに敵地と呼べる状況で、剣士は唯一身を護る武器を外して前に置いた。
剣帯ごと横向きに置き、剣士は数歩下がって座り直す。これで武器に手が届きにくくなった。怪訝そうな顔をしたが、アベルはすぐ近くに胡坐をかく。
「事情をすべてお話いたします」
そこから剣士は淡々とした他人事のような口調で、自分の置かれた境遇を話し始めた。元が子爵家だった実家は、父の代で財産を使い果たし没落した。直接的な原因はミヒャール国の滅亡だが、その後、教会によって寄付と称して金を奪われたのだ。先祖に申し訳ないと父は命を絶った。
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語り終えたところで、剣士は首に下げた銀のプレートを外して地面に捨てた。
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