821 / 1,397
58章 悪人成敗で咲く恋の花
816. 襲撃されたら反撃を
しおりを挟む
雷に似た閃光が走るが、雷ではなかった。魔力消費量が多く使い手を選ぶ雷魔法に似せた光は、前世界の知識を具現化したものだ。レーザー光線が近いかも知れない。光で物が切れる。その知識を応用した攻撃が茂みを切り裂いた。
「くそっ」
片腕に怪我をした竜人が飛び出す。後ろから武器を構えた神龍や獣人も現れた。混合チームの中に人族らしき人物も混じっている。
「……意外と使える」
魔法の威力に自分で驚くアベルが、手にした剣をマジマジと眺めた。魔力が増幅されたのは、剣のおかげだ。希少金属で作っただけの剣ではなさそうだった。アベルは読めないため装飾と判断したが、剣の柄や刃にも浮かぶ模様はすべて魔法文字なのだ。各属性の力を増幅し、跳ね返し、吸収して還元する輪が刻まれていた。
「来るぞ」
「あいよ」
イザヤの緊迫した声に応じたアベルが、飛びかかった男の爪を弾く。鋭く長い爪が剣の刃表面を走った。切り落とす勢いで振り払い、後ろのルーサルカへ叫ぶ。
「絶対に離れないで」
「……っ、わかったわ」
助けを呼ぼうとしたルーサルカに、ルーシアも駆け寄った。2人の少女と子狼を守る形で肩を並べる日本人が、ひとつ大きく息を吐く。居合いや剣術を習ったイザヤと、部活程度の付け焼き刃だが戦う気で武器を操るアベル。互いのタイミングと呼吸を合わせるのは、2年以上の経験がある。簡単に崩される気はなかった。
「手足の一本くらいしょうがねえ! やっちまえ」
後ろの神龍らしき男の一声に、獣人や竜人の表情が引き締まった。どうやら手加減されていたらしい。この時点で獲物認定が、アミーだけじゃないと気づいた。日本人も希少種であり、獣人とのハーフであるルーサルカ、精霊族の貴族令嬢であるルーシア、人狼の子狼アミーに至るまで。高額な獲物がぞろぞろ歩いていたのだ。狙われるのは確実だった。
「ふっ」
呼吸を詰めて、敵の剣を受け止めたイザヤが、鍔迫り合いとなる。吐息がかかる距離まで近づいた相手に、少し力のかかる方角を変えてやった。タタラを踏んで転んだ男の背に、大きく切りつける。派手に血飛沫をあげたが、傷は深くなかった。力を込める前に、相手が身体を伏せて逃げたのだ。
一瞬迷ったイザヤだが、まだ敵はいる。手傷を負った剣士をそのままに、頑強な鱗と爪を武器にかかってくる竜人と組み合った。向こうは5人、こちらは子狼まで入れて同じ人数なのだ。1人ずつじっくり相手をしていたら、回り込まれてしまう。
「あぉおおおおおん!」
目の覚めたアミーが大きな雄叫びを上げる。子狼特有の甲高い声だった。子供の悲鳴は音域が高く、遠くまで届くという。すぐに応じる遠吠えがあった。もしかしたら、ゲーデかも知れない。
舌打ちした獣人が距離をつめる。左右にフェイントを混ぜながら距離を縮め、爪を振りかざした。それを剣で防いだアベルだが、体格差で押し倒される。上からのし掛かる獣人の重さに剣が下り、必死に押し戻す彼の肩に獣人の牙が突き刺さった。
「ぐぁ……っ」
「アベル?!」
刃物で切るのとは違う。生きたまま餌を食らうように引き裂かれる肉から血が溢れ、剥き出しの神経に牙の先が刺さる。激痛に怒りが沸いた。やられてたまるか、その意地だけで手足を動かす。腹を蹴飛ばしたアベルの反撃に、獣人は悲鳴を上げて転がった。
ルーシアに子狼を預けたルーサルカが、土で作った棍棒を獣人の上に叩きつける。頭の脇に落ちた棍棒を魔法の起点として、硬い岩で獣人を拘束した。いわゆる簀巻状態である。縄ではなく岩なので、引っ張ろうが噛みつこうが取れる心配がない。怒りと恐怖で、魔力を込め過ぎたルーサルカが額に浮かんだ汗を拭った。
「大丈夫? ルカ」
「ええ、アベルの血を止めなくちゃ。それと今から」
お義父様を呼ぶ。そのための魔力を流そうと呼吸を整えた彼女に、忍び寄った男がナイフを突きつけた。背中から羽交い締めにする形で喉を押さえられ、ルーサルカは声が出せない。
「おい、その手を離せ」
背に傷を負った男は、見た目は人族のように特徴がない。さきほどイザヤと組み合った長剣を捨て、短剣の先をルーサルカの喉に這わせた。わずかに血が滲み、ひりひりした痛みに肌が怯える。ルーサルカは抵抗できずに、小刻みに震えた。
「くそっ」
片腕に怪我をした竜人が飛び出す。後ろから武器を構えた神龍や獣人も現れた。混合チームの中に人族らしき人物も混じっている。
「……意外と使える」
魔法の威力に自分で驚くアベルが、手にした剣をマジマジと眺めた。魔力が増幅されたのは、剣のおかげだ。希少金属で作っただけの剣ではなさそうだった。アベルは読めないため装飾と判断したが、剣の柄や刃にも浮かぶ模様はすべて魔法文字なのだ。各属性の力を増幅し、跳ね返し、吸収して還元する輪が刻まれていた。
「来るぞ」
「あいよ」
イザヤの緊迫した声に応じたアベルが、飛びかかった男の爪を弾く。鋭く長い爪が剣の刃表面を走った。切り落とす勢いで振り払い、後ろのルーサルカへ叫ぶ。
「絶対に離れないで」
「……っ、わかったわ」
助けを呼ぼうとしたルーサルカに、ルーシアも駆け寄った。2人の少女と子狼を守る形で肩を並べる日本人が、ひとつ大きく息を吐く。居合いや剣術を習ったイザヤと、部活程度の付け焼き刃だが戦う気で武器を操るアベル。互いのタイミングと呼吸を合わせるのは、2年以上の経験がある。簡単に崩される気はなかった。
「手足の一本くらいしょうがねえ! やっちまえ」
後ろの神龍らしき男の一声に、獣人や竜人の表情が引き締まった。どうやら手加減されていたらしい。この時点で獲物認定が、アミーだけじゃないと気づいた。日本人も希少種であり、獣人とのハーフであるルーサルカ、精霊族の貴族令嬢であるルーシア、人狼の子狼アミーに至るまで。高額な獲物がぞろぞろ歩いていたのだ。狙われるのは確実だった。
「ふっ」
呼吸を詰めて、敵の剣を受け止めたイザヤが、鍔迫り合いとなる。吐息がかかる距離まで近づいた相手に、少し力のかかる方角を変えてやった。タタラを踏んで転んだ男の背に、大きく切りつける。派手に血飛沫をあげたが、傷は深くなかった。力を込める前に、相手が身体を伏せて逃げたのだ。
一瞬迷ったイザヤだが、まだ敵はいる。手傷を負った剣士をそのままに、頑強な鱗と爪を武器にかかってくる竜人と組み合った。向こうは5人、こちらは子狼まで入れて同じ人数なのだ。1人ずつじっくり相手をしていたら、回り込まれてしまう。
「あぉおおおおおん!」
目の覚めたアミーが大きな雄叫びを上げる。子狼特有の甲高い声だった。子供の悲鳴は音域が高く、遠くまで届くという。すぐに応じる遠吠えがあった。もしかしたら、ゲーデかも知れない。
舌打ちした獣人が距離をつめる。左右にフェイントを混ぜながら距離を縮め、爪を振りかざした。それを剣で防いだアベルだが、体格差で押し倒される。上からのし掛かる獣人の重さに剣が下り、必死に押し戻す彼の肩に獣人の牙が突き刺さった。
「ぐぁ……っ」
「アベル?!」
刃物で切るのとは違う。生きたまま餌を食らうように引き裂かれる肉から血が溢れ、剥き出しの神経に牙の先が刺さる。激痛に怒りが沸いた。やられてたまるか、その意地だけで手足を動かす。腹を蹴飛ばしたアベルの反撃に、獣人は悲鳴を上げて転がった。
ルーシアに子狼を預けたルーサルカが、土で作った棍棒を獣人の上に叩きつける。頭の脇に落ちた棍棒を魔法の起点として、硬い岩で獣人を拘束した。いわゆる簀巻状態である。縄ではなく岩なので、引っ張ろうが噛みつこうが取れる心配がない。怒りと恐怖で、魔力を込め過ぎたルーサルカが額に浮かんだ汗を拭った。
「大丈夫? ルカ」
「ええ、アベルの血を止めなくちゃ。それと今から」
お義父様を呼ぶ。そのための魔力を流そうと呼吸を整えた彼女に、忍び寄った男がナイフを突きつけた。背中から羽交い締めにする形で喉を押さえられ、ルーサルカは声が出せない。
「おい、その手を離せ」
背に傷を負った男は、見た目は人族のように特徴がない。さきほどイザヤと組み合った長剣を捨て、短剣の先をルーサルカの喉に這わせた。わずかに血が滲み、ひりひりした痛みに肌が怯える。ルーサルカは抵抗できずに、小刻みに震えた。
20
お気に入りに追加
4,943
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる