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57章 魔族はお祭り優先
808. 誘い出されたゲーデ
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「……勝手に魔王城から出てすみません」
騒動の最中に、あてがわれた部屋を辞したのは申し訳ない。挨拶もしなかったと気に病む反面、幼い息子アミーが何か壊すのが怖かった。飾られていた皿を落とし、壺を割り、豪華なソファに穴をあける。魔王城の侍女や侍従は特に叱ることもなく片付けてくれた。壊した物を弁償しろとも言われない。
何も責められないことで逆に申し訳なさが募る。これ以上の迷惑はかけられないと思ったのが半分、残りは豪華すぎて落ち着かないことだった。質素な生活をしてきたゲーデにとって、豪華な客間は居心地が悪いのだ。
貴族の中に同じようなことを言い出した者がいるので、ルシファーは何となく事情を察してしまった。考えてみれば、普段と違う環境はそれだけで疲れるだろう。
あれこれと事件が立て続けに起きたため、目先の対処で手いっぱいになってしまった。自分の過失だとルシファーは素直に謝罪した。
「気を遣えなくて悪かった。それで、何かあったのか」
魔狼の幼子を置いて、自分だけ外出するタイプには見えない。グリフォンであった妻の忘れ形見を溺愛し、取り返そうと必死になった姿を知るルシファーは、彼が答えてくれるのを待った。根気強く……と表現するより早く、ゲーデが事情を口にする。
「俺の妹という女から連絡があって、会いたいと」
歯切れの悪い口調に、リリスとルシファーは顔を見合わせた。これは、彼が好んで会いたいという状況じゃなさそうだ。
「他に何と言われた」
「息子アミーが、人狼なら引き取りたい。でも俺は嫌だ」
断るつもりで宿を出たと聞き、ルシファーは眉をひそめた。嫌な予感がする。
「城を出ろと言われなかったか? 宿を取ってあるとか」
もしかしたら? そんな言葉に、ゲーデは目を見開き頷いた。鼻の部分が長い狼の口が話しづらそうに動く。驚いた声で、「どこかで見てたのか?」と呟いた。
その様子に、後ろに控えるルーシアが駆けだした。ルーサルカも一緒についていく。足の速いルーサルカが、ルーシアを抱き上げるようにして加速した。
「アミーはあの2人に任せよう」
「え?」
まだ状況がつかめないゲーデが首をかしげる。説明をするため、ルシファーは近所の家から1軒を選んでノックした。この家に住んでいるのは夫婦で、今夜の祭りに直接関係ない。
「はい?」
「ああ、悪いな。ちょっと部屋を貸してほしい」
にっこりと美貌で誑し込み、知り合いの家に入り込む。ここは城に仕える侍従のベリアルの実家だった。ベリアルの母親は驚いた顔をしたものの、快く部屋をひとつ提供してくれる。
「ありがとう、素敵なお部屋だわ」
リリスは花模様の可愛い部屋に目を輝かせてお礼を言う。すでに嫁いだベリアルの姉が使っていた部屋を、そのまま客間にしたのだと母親は教えてくれた。女性らしさがあふれた部屋のベッドにリリスが腰掛けたので、ルシファーが隣に陣取る。中央に置かれた木製の椅子にゲーデが座った。
イポスは護衛中なので立ったまま、小型犬サイズまで縮んだヤンは魔王の足元にお座りした。狼というより、飼い犬にしか見えない。足りない椅子を自らの収納から取り出したレライエが、翡翠竜を膝に乗せたところで、ルシファーが口を開いた。
「おそらくだが……城を出るように勧めた頃から、アミーは狙われていたと思う」
騒動の最中に、あてがわれた部屋を辞したのは申し訳ない。挨拶もしなかったと気に病む反面、幼い息子アミーが何か壊すのが怖かった。飾られていた皿を落とし、壺を割り、豪華なソファに穴をあける。魔王城の侍女や侍従は特に叱ることもなく片付けてくれた。壊した物を弁償しろとも言われない。
何も責められないことで逆に申し訳なさが募る。これ以上の迷惑はかけられないと思ったのが半分、残りは豪華すぎて落ち着かないことだった。質素な生活をしてきたゲーデにとって、豪華な客間は居心地が悪いのだ。
貴族の中に同じようなことを言い出した者がいるので、ルシファーは何となく事情を察してしまった。考えてみれば、普段と違う環境はそれだけで疲れるだろう。
あれこれと事件が立て続けに起きたため、目先の対処で手いっぱいになってしまった。自分の過失だとルシファーは素直に謝罪した。
「気を遣えなくて悪かった。それで、何かあったのか」
魔狼の幼子を置いて、自分だけ外出するタイプには見えない。グリフォンであった妻の忘れ形見を溺愛し、取り返そうと必死になった姿を知るルシファーは、彼が答えてくれるのを待った。根気強く……と表現するより早く、ゲーデが事情を口にする。
「俺の妹という女から連絡があって、会いたいと」
歯切れの悪い口調に、リリスとルシファーは顔を見合わせた。これは、彼が好んで会いたいという状況じゃなさそうだ。
「他に何と言われた」
「息子アミーが、人狼なら引き取りたい。でも俺は嫌だ」
断るつもりで宿を出たと聞き、ルシファーは眉をひそめた。嫌な予感がする。
「城を出ろと言われなかったか? 宿を取ってあるとか」
もしかしたら? そんな言葉に、ゲーデは目を見開き頷いた。鼻の部分が長い狼の口が話しづらそうに動く。驚いた声で、「どこかで見てたのか?」と呟いた。
その様子に、後ろに控えるルーシアが駆けだした。ルーサルカも一緒についていく。足の速いルーサルカが、ルーシアを抱き上げるようにして加速した。
「アミーはあの2人に任せよう」
「え?」
まだ状況がつかめないゲーデが首をかしげる。説明をするため、ルシファーは近所の家から1軒を選んでノックした。この家に住んでいるのは夫婦で、今夜の祭りに直接関係ない。
「はい?」
「ああ、悪いな。ちょっと部屋を貸してほしい」
にっこりと美貌で誑し込み、知り合いの家に入り込む。ここは城に仕える侍従のベリアルの実家だった。ベリアルの母親は驚いた顔をしたものの、快く部屋をひとつ提供してくれる。
「ありがとう、素敵なお部屋だわ」
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「おそらくだが……城を出るように勧めた頃から、アミーは狙われていたと思う」
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