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57章 魔族はお祭り優先
802. 仲裁は謝罪から始まる
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「まずは双方の言い分を聞こう。その間は互いに触れることを禁じる。よいな?」
魔王らしい口調でケンカの仲裁を始めた。魔族の上位貴族と呼ばれる、大公、公爵、侯爵までは、魔力や魔法が強い者が多い。彼らの義務として、魔族同士のトラブルを見かけたら首を突っ込んで解決する。無理そうなら魔王城へ連絡する、という役割があった。
魔の森は広すぎて、魔王城からすべてを把握するのは難しい。魔王軍にも限界はある。普段から街や集落と繋がりのある貴族を経由した方が、連絡が早く、遺恨を残す前に解決できるのが利点だった。
魔王城から城下町に向かう街道沿いだったこともあり、ここはルシファーが仲裁に乗り出して解決すべき場面なのだ。
「お嬢様方からどうぞ」
アベルが何か言いたそうな顔をしたが、リリスが唇に人差し指を当てて「しー」と無言を要求する。すると、目の前の女性達がもじもじしながら顔を見合わせた。
魔王チャレンジで優秀さを披露した魔族は、とにかくモテる。特に魔王ルシファーから何かを下賜されたり、褒められた者は引っ張りだこだった。彼女は自分たちの常識で、優秀な男性を婿にしようと追いかけまわしたのだが……今になると過熱しすぎていた気がする。悲鳴を上げて逃げる時点で、自分たちが婚約者候補として見られていなかった事実に行き当たった。
冷静になればわかるのだが、当時は他の女性の手前もあり頭に血が上っていたのだ。
「あの……申し訳ありませんでした。嫌がる殿方を追い回すなど、恥ずかしい行為でしたわ」
「魔王チャレンジで陛下から剣を賜ったのをみて、興奮してしまいましたの。ごめんなさい」
次々と女性達が謝罪を始めた。いくら婚姻相手として最高の逸材でも、意思を無視して襲っていい道理はない。ましてや人族で異世界から召喚された勇者は、魔族の常識が理解できなかった。彼の混乱ぶりに手を止める余裕があれば、このような事態にならずに済んだだろう。
謝罪を聞くうちに、大体の事情は飲み込めた。女性達はアベルの婚約者になりたい。アベルは恋人を探していたが、襲われたので怖くなり逃げた。
「アベルは?」
ここでようやく話を振られ、黙って聞いていたアベルは「えっと」と言い淀んだ。思っていたのと違う。激しい勢いで追いかけ回された上、手足を引っ張ったり全身を弄られたので怖くなったが、そもそも女性に囲まれる状況は理想的だった。
異世界の物語をたくさん読んだので、獣耳や尻尾、翼などの付属物も怖くない。鱗は少し躊躇うけど……。
ちらっと見た先で、お嬢様達は申し訳なさそうに俯いていた。金髪、黒髪、茶髪、赤毛と種類も豊富な適齢期のお嬢様達である。
「追いかけられて怖かったですが、反省してくれたのなら何もありません」
この答えが正解か、迷いながら顔を上げた。魔王妃リリスがにこにこと微笑む。
「あのね、もう一度やり直したらいいわ。アベル、彼女達をよく見て。花の飾りをしてない子は恋人募集なの。だから1人ずつゆっくり話をして、気に入った子と付き合ったらいいわね」
リリスの後ろに立つイポスやルーシアなど、婚約者のいる女性は花飾りをしている。婚約者と常にべったりのリリスやレライエも飾りをつけていた。なるほどと納得しながら、今日は花飾りの女性が多いなと思った理由に得心がいった。
「あ、アンナ嬢にもつけないと!」
ここで他人の心配を始めるあたりが、日本人がお人好しと判断される理由の一つだ。こちらに昔からいる人族と違い、魔族を差別せず、他人の心配が出来る。当たり前のようだが、魔族からの好感度は高かった。
「すぐに行ってらっしゃいな」
「それがいい。慣習通り、オレが彼女達を君の家に送って行こう」
「「「ありがとうございます」」」
未婚女性達の感謝の声に、アベルは浮かれてスキップしながら帰宅の途についた。
魔王らしい口調でケンカの仲裁を始めた。魔族の上位貴族と呼ばれる、大公、公爵、侯爵までは、魔力や魔法が強い者が多い。彼らの義務として、魔族同士のトラブルを見かけたら首を突っ込んで解決する。無理そうなら魔王城へ連絡する、という役割があった。
魔の森は広すぎて、魔王城からすべてを把握するのは難しい。魔王軍にも限界はある。普段から街や集落と繋がりのある貴族を経由した方が、連絡が早く、遺恨を残す前に解決できるのが利点だった。
魔王城から城下町に向かう街道沿いだったこともあり、ここはルシファーが仲裁に乗り出して解決すべき場面なのだ。
「お嬢様方からどうぞ」
アベルが何か言いたそうな顔をしたが、リリスが唇に人差し指を当てて「しー」と無言を要求する。すると、目の前の女性達がもじもじしながら顔を見合わせた。
魔王チャレンジで優秀さを披露した魔族は、とにかくモテる。特に魔王ルシファーから何かを下賜されたり、褒められた者は引っ張りだこだった。彼女は自分たちの常識で、優秀な男性を婿にしようと追いかけまわしたのだが……今になると過熱しすぎていた気がする。悲鳴を上げて逃げる時点で、自分たちが婚約者候補として見られていなかった事実に行き当たった。
冷静になればわかるのだが、当時は他の女性の手前もあり頭に血が上っていたのだ。
「あの……申し訳ありませんでした。嫌がる殿方を追い回すなど、恥ずかしい行為でしたわ」
「魔王チャレンジで陛下から剣を賜ったのをみて、興奮してしまいましたの。ごめんなさい」
次々と女性達が謝罪を始めた。いくら婚姻相手として最高の逸材でも、意思を無視して襲っていい道理はない。ましてや人族で異世界から召喚された勇者は、魔族の常識が理解できなかった。彼の混乱ぶりに手を止める余裕があれば、このような事態にならずに済んだだろう。
謝罪を聞くうちに、大体の事情は飲み込めた。女性達はアベルの婚約者になりたい。アベルは恋人を探していたが、襲われたので怖くなり逃げた。
「アベルは?」
ここでようやく話を振られ、黙って聞いていたアベルは「えっと」と言い淀んだ。思っていたのと違う。激しい勢いで追いかけ回された上、手足を引っ張ったり全身を弄られたので怖くなったが、そもそも女性に囲まれる状況は理想的だった。
異世界の物語をたくさん読んだので、獣耳や尻尾、翼などの付属物も怖くない。鱗は少し躊躇うけど……。
ちらっと見た先で、お嬢様達は申し訳なさそうに俯いていた。金髪、黒髪、茶髪、赤毛と種類も豊富な適齢期のお嬢様達である。
「追いかけられて怖かったですが、反省してくれたのなら何もありません」
この答えが正解か、迷いながら顔を上げた。魔王妃リリスがにこにこと微笑む。
「あのね、もう一度やり直したらいいわ。アベル、彼女達をよく見て。花の飾りをしてない子は恋人募集なの。だから1人ずつゆっくり話をして、気に入った子と付き合ったらいいわね」
リリスの後ろに立つイポスやルーシアなど、婚約者のいる女性は花飾りをしている。婚約者と常にべったりのリリスやレライエも飾りをつけていた。なるほどと納得しながら、今日は花飾りの女性が多いなと思った理由に得心がいった。
「あ、アンナ嬢にもつけないと!」
ここで他人の心配を始めるあたりが、日本人がお人好しと判断される理由の一つだ。こちらに昔からいる人族と違い、魔族を差別せず、他人の心配が出来る。当たり前のようだが、魔族からの好感度は高かった。
「すぐに行ってらっしゃいな」
「それがいい。慣習通り、オレが彼女達を君の家に送って行こう」
「「「ありがとうございます」」」
未婚女性達の感謝の声に、アベルは浮かれてスキップしながら帰宅の途についた。
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