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54章 世界の終わりにも似て
757. 霊亀が消えた?
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ベールは己の城があった空中で、頭を抱えていた。いつかこうなると思っていたが、覚悟していたと笑うか、予想外の事態と嘆くべきか。どちらも違う気がして溜め息をつく。
崩れた洞窟の中で、海水の流れ込んだ汽水湖に城の残骸が沈んでいた。必要な物は収納で持ち歩く上、生活必需品は魔王城の居室に揃っている。何も失った物はない。幸いにして滅多に帰らない城に同族や使用人を置かないので、被害者もいなかった。
城に侵入者を感知する魔法陣は仕掛けたが、次は崩壊を知らせる魔法陣も必要だろう。現実逃避を兼ねて、どうでもいい考えに浸る。しかし、ベールはすぐに現実に引き戻された。
汽水湖で眠る霊亀がいない。数万年振りに目を覚まして動いたと考えるのが正しいだろうが、タイミングが悪過ぎた。選りに選って、魔王軍が動かせないこの時期に目覚めるなど……。
過去に霊亀が動いて、騒ぎを起こしたことがある。元は海に生息していたらしいが、突然陸を目指して魔の森を蹂躙したのだ。海辺から上がり、人族が住む城を巨体で押しつぶした。都をまっすぐにぶち抜いて魔王城を目指し、途中で力尽きたように眠る。
この時の魔の森の被害は大きかった。人族の勇者も戦ったが、魔王ルシファーが出向く前に亀に踏み潰されたと聞く。会話ができない亀は森を壊し、人族の文明を破壊し尽くした。
あの時に一度人族は滅びたと思ったが、周辺にあった集落から再び数が増えた。あまりの生命力の強さと繁殖力に、数十年後に呆れ返った大公3人により、人族は魔王軍の監視対象に位置づけられたのだ。
人族の城を潰した先で眠った亀を魔法陣で大地に沈め、その場所を封印した。それから1万年もしないうちに亀は再び動き出し、ルシファーが転移でこの洞窟へ投げ込む。暴れたら洞窟ごと潰すつもりだったが、なぜか霊亀はこの場が気に入ったらしく、そのまま深い眠りについた。
動き出した以上、また何処かを破壊しながら徘徊する可能性がある。報告のために、洞窟を出て周囲を確認した。強大な魔力を保有した霊亀はすぐに発見できるだろう。
「……いない?」
大きな魔力は近くに感じられず、洞窟の外を巨大生物が移動した形跡はない。洞窟から亀は消えたのに、外の森は無傷だった。
それどころか、魔の森は魔力に満ち溢れている。海の水が原因で魔力が流出したと疑われた森は、青々と茂らせた葉を揺らした。魔力が葉の1枚にまで行き渡っているようだ。
「ひとまず、報告に戻りましょう」
調査をするにしても、魔力の追跡に長けた種族を選んで任せる方が効率的だ。そう判断したベールが戻った先で、彼はとんでもない話を聞かされることとなった。
魔王が倒れ、アスタロトが顔を出した。ここまでは予想できる範囲の話だが、その後ルシファーが大声を上げて突然転移し、指示を出したアスタロトも後を追ったらしい。というのも、その後の指示がないのだ。
調査を終えた魔王軍をよそに、エドモンドとモレクの意見が割れていた。もう戻ろうと提案したモレクに対し、場を任された以上勝手に離れられないとエドモンドが反論する。
どちらの言い分が通るかわからぬまま、日暮れを過ぎて暗くなった森で、魔王軍の精鋭たちは食事を作って、テントを張り始めた。そこにベールが戻ってきたのである。何とかしてくれと、縋られたベールは彼らに言い放った。
「……事情はわかりました。もう食事の準備も出来るようですから、軍はここに残します。夜営明けに、森の調査をしてお昼までに引き上げなさい。私は多少用事ができましたので、先に失礼します」
命令を下してベールが消えると、残された魔王軍の将校達が顔を見合わせた。
「ベール大公閣下の御用事、絶対に説教だと思うぞ」
「そこに異論はない」
ようやく意見が一致したエドモンドとモレクは、軍の将校に混じって夜営することに決めた。今の魔王城は「雷が落ちる」状況だろう。予想できる危険に首を突っ込むほど、彼らは無謀ではなかった。
崩れた洞窟の中で、海水の流れ込んだ汽水湖に城の残骸が沈んでいた。必要な物は収納で持ち歩く上、生活必需品は魔王城の居室に揃っている。何も失った物はない。幸いにして滅多に帰らない城に同族や使用人を置かないので、被害者もいなかった。
城に侵入者を感知する魔法陣は仕掛けたが、次は崩壊を知らせる魔法陣も必要だろう。現実逃避を兼ねて、どうでもいい考えに浸る。しかし、ベールはすぐに現実に引き戻された。
汽水湖で眠る霊亀がいない。数万年振りに目を覚まして動いたと考えるのが正しいだろうが、タイミングが悪過ぎた。選りに選って、魔王軍が動かせないこの時期に目覚めるなど……。
過去に霊亀が動いて、騒ぎを起こしたことがある。元は海に生息していたらしいが、突然陸を目指して魔の森を蹂躙したのだ。海辺から上がり、人族が住む城を巨体で押しつぶした。都をまっすぐにぶち抜いて魔王城を目指し、途中で力尽きたように眠る。
この時の魔の森の被害は大きかった。人族の勇者も戦ったが、魔王ルシファーが出向く前に亀に踏み潰されたと聞く。会話ができない亀は森を壊し、人族の文明を破壊し尽くした。
あの時に一度人族は滅びたと思ったが、周辺にあった集落から再び数が増えた。あまりの生命力の強さと繁殖力に、数十年後に呆れ返った大公3人により、人族は魔王軍の監視対象に位置づけられたのだ。
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動き出した以上、また何処かを破壊しながら徘徊する可能性がある。報告のために、洞窟を出て周囲を確認した。強大な魔力を保有した霊亀はすぐに発見できるだろう。
「……いない?」
大きな魔力は近くに感じられず、洞窟の外を巨大生物が移動した形跡はない。洞窟から亀は消えたのに、外の森は無傷だった。
それどころか、魔の森は魔力に満ち溢れている。海の水が原因で魔力が流出したと疑われた森は、青々と茂らせた葉を揺らした。魔力が葉の1枚にまで行き渡っているようだ。
「ひとまず、報告に戻りましょう」
調査をするにしても、魔力の追跡に長けた種族を選んで任せる方が効率的だ。そう判断したベールが戻った先で、彼はとんでもない話を聞かされることとなった。
魔王が倒れ、アスタロトが顔を出した。ここまでは予想できる範囲の話だが、その後ルシファーが大声を上げて突然転移し、指示を出したアスタロトも後を追ったらしい。というのも、その後の指示がないのだ。
調査を終えた魔王軍をよそに、エドモンドとモレクの意見が割れていた。もう戻ろうと提案したモレクに対し、場を任された以上勝手に離れられないとエドモンドが反論する。
どちらの言い分が通るかわからぬまま、日暮れを過ぎて暗くなった森で、魔王軍の精鋭たちは食事を作って、テントを張り始めた。そこにベールが戻ってきたのである。何とかしてくれと、縋られたベールは彼らに言い放った。
「……事情はわかりました。もう食事の準備も出来るようですから、軍はここに残します。夜営明けに、森の調査をしてお昼までに引き上げなさい。私は多少用事ができましたので、先に失礼します」
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「ベール大公閣下の御用事、絶対に説教だと思うぞ」
「そこに異論はない」
ようやく意見が一致したエドモンドとモレクは、軍の将校に混じって夜営することに決めた。今の魔王城は「雷が落ちる」状況だろう。予想できる危険に首を突っ込むほど、彼らは無謀ではなかった。
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