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54章 世界の終わりにも似て

746. 魔力不足の原因は?

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「これでしばらく保つだろう」

 ふぅと息をつき、状況の把握を始める。魔王軍からもたらされた監視の状況に加え、ドライアドや精霊、魔の森に棲まう魔獣の見たり感じた情報が追加された。

 ルシファーから地図を預かったベールが、それらを書き込んでいく。同じ地図をアスタロトと亜空間経由で共有したため、魔王城で書き込まれる内容も同時に反映された。魔の森の魔力消失面積は4割を超えている。これ以上失われたら、残った森を含めた生態系が壊れるだろう。

「魔王様、東側の消失が止まりました」

「西に大きな穴が……現在、魔王軍の第一師団が魔力を供給しております」

「我々も第一師団の応援へ向かいますぞ」

 目まぐるしく変化する状況が危機感を煽る。逃げてきた魔族を保護するため、貴族達に魔王軍の手助けを命じた。

「エドモンドは動けるドラゴンの指揮を! モレク達は転移で魔獣を魔王城へ送れ」

 足元に転移の魔法陣をひとつ描く。いつもの城門付近へ送るものではなく、ルキフェルが作った上空の受信機となる魔法陣へつないだ。これなら転送された先ですぐに治癒や魔力供給が受けられる。城のアスタロト達が奮闘したため、現在時点で備蓄に手を付けずに凌いでいた。

 いずれは城の備蓄や貴族の蓄えに手を付けなくてはならない。それまでに魔の森の修復に関する手がかりを得る必要があった。

 4枚の翼を広げたルシファーはひとつ溜め息をつき、もう2枚の翼を広げた。3対6枚――すべての魔力の半分を供給しなくては、魔の森を守る壁を維持できない。ルシファーが作った魔力の壁は、内側を地脈やルシファー自身の魔力で満たしていた。

 内側に囲い込んだ魔の森の6割に魔力を供給し、消失を防ぐためだ。樹人族ドライアド妖精族エルフなど森と対話する種族の報告によれば、魔の森は沈黙して何も語らないらしい。まるで眠りについたか、封印されたように……葉を揺らして歌を奏でた。

「其は豊かな緑の泉、他者の命を食らうもの、世界の核を守るためにのみ、我が身を削るであろう。失われし命を補え。核は新たに輝きを取り戻す――だったか」

 突然思い出したのは、鳳凰アラエルの一族が口伝えに残した一文だった。呟いたルシファーの言葉に、指揮を執っていたベールが振り向く。

 豊かな緑の泉が魔の森を示すのは間違いない。魔族や魔物を食らい、生み出す母なる存在だ。世界の核という表現を、ルシファーはリリスのことだと考えてきた。なぜなら彼女は魔の森の分身であり、ルシファーにとっての守るべき存在なのだ。

 だが……解釈が違うとしたら?

 世界の核を守るために身を削る。あのとき死にかけたリリスを復活させるために、魔の森の魔力を差し出した行為だと思い込んだが、別の事象を示すのではないか? 魔の森が何かを守るために、己の魔力を対価として差し出したなら……。

 魔族は滅びても仕方ないと見捨てられたのかも知れない。異物である人族さえ包んだ母の偉大な愛に溺れ、我々魔族はその庇護を取り上げられた。

「いや、違う」

 考えに没頭したルシファーの翼がばさりと音を立て、首を振った行為により純白の髪が風に舞う。そうではない。対話を受け付けない理由が「話したくない」ではなく、「今は話せない」のなら状況はまったく別だった。

「ベール、逃げてきた民の魔力不足の原因はわかっているか?」

「魔の森に吸われたようですが」

「確証はないが……精霊は魔力が薄くなった環境にあててられた可能性がある」

 空気が薄い高所に行くと、呼吸が苦しくなる現象を思えばわかりやすい。精霊は魔力の変化に敏感な種族だった。魔力が豊富な地域を好んで住処とするため、自らの身体に多くの魔力を溜める必要がない。いつでも魔の森は魔力に満ちていた。その魔力が消えたら?

 はっとした様子で顔を上げたベールへ、ルシファーは指示を出した。

「すぐに調査させろ」
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