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52章 不夜城のお祭り騒ぎ
724. 禁じ手も飛び出す4戦目
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優雅に構えを取るアスタロトに対し、王冠を兼ねる髪飾りを外したルシファーがひとつ長い息を吐き出した。扇をベルトに差し込み、ルシファーも左足を前にした構えを見せる。ついでに呪われた髪飾りを放り出すが、ルキフェルの魔法陣がしっかり回収した。
シンと静まった会場で、ルシファーが先に動いた。高く上げた足で蹴りを放つ。足首を手のひらで受けたアスタロトが身を屈ませて懐に飛び込み、地に手をついたルシファーが宙返りで避けた。着地の瞬間を狙う爪に、ルシファーがぴたりとタイミングを合わせて浮遊する。
曲芸のように、爪の上に立った魔王がさらに宙返りして距離を取った。歓声が沸き起こり、周囲に拍手が響き渡る。かつてない盛り上がりを見せる勝ち抜き戦に、アスタロトは唇を軽く湿らせた。
ふっ、短い呼吸の直後、突き出されたアスタロトの手を掴んで身をよじるルシファーが、その手首に強く力をかける。折るつもりの魔王の意図を察して、アスタロトは手首を軸に躍るように回転した。するりと逃げてしまったアスタロトの手が翻り、爪がルシファーの服をかすめる。
僅かに切り裂いた布がはらりと芝の上に落ちた。
あちこちから歓声と応援の声があがり、意外にもアスタロトは女性に人気が高いらしい。ルシファーがにやりと笑みを浮かべれば、そちらにも女性から声がかかる。美形同士の戦いは目の保養と、奥様やお嬢様方の憧れの視線が注がれた。
「ルシファーって、モテるのね」
今更な発言をするリリスへ、ルーシアが笑いながら肯定する。
「そうですわね、最強でお優しい方ですから。リリス様もよくご存じでしょう?」
「戦うと怖いですよ」
翡翠竜がぼそっと呟く。かつて魔王城を一部破壊したドラゴンは、婚約者の膝の上で身震いした。混乱して記憶の曖昧な部分もあるが、魔力だけで自分を叩き潰した魔王の強さは身に染みている。魔法も、制御用の魔法陣も使わなかった。感情に任せて揮われた魔力による圧迫は、骨が軋む痛みとともに覚えている。
「お城を壊されたら、ルシファーだって怒るわ」
魔王史をすべて読んだリリスは、数千年前の大公選びの騒動も目を通した。彼の不幸な事情には同情するが、住処を壊されたルシファーが怒ったのも当然だ。そう告げれば、首を竦めたアムドゥスキアスが溜め息をついた。
「そうなんです。よく許してくれましたよね」
殺されなかったのが不思議だ、そう呟くチビドラゴンの背を撫でるレライエが苦笑いする。
「陛下は事情を汲まずに処分するお方じゃないぞ」
「ええ。本当に……寛大な陛下のおかげで、私も新たな婚約者を得ましたし」
にこにこと機嫌よく尻尾を振り始めた翡翠竜が、高まる魔力に反応して鱗を揺らした。
「勝敗がつきそうです」
慌てて会話を打ち切った少女達の視線の先で、アスタロトの爪が叩き折られた。パキンと甲高い音で折れた爪がルシファーの手を僅かに傷つける。
ルシファーの顔へ繰り出された手刀はまっすぐに目を狙い、その手前でルシファーが爪を掴んで捩じったのだ。斜めに強烈な力をかけられた爪はこらえきれずに折れたが、魔力により高めた強度がルシファーの手のひらの皮膚を僅かに裂いた。
「ふぅ……今のはヤバかった」
爪を掴んだのは、顔のわずか10cmほど手前だ。ぎりぎりのタイミングだった。目に向かう攻撃は避けづらく、反応しづらい。魔王軍も訓練を兼ねた手合わせで顔への攻撃を禁じていた。事故が起きる可能性が高いからだ。
「禁じ手まで使うなんて」
ベルゼビュートが眉を顰めるが、逆にベールは感心していた。
「陛下の格闘戦の腕が上がっています。アスタロトが追い詰められるとは驚きました」
禁じ手まで使って攻撃するほど、アスタロトに余裕がなかった。その視点に、分析していたルキフェルも頷く。
「そうだね。最後の方は余裕がなかった」
するとベルゼビュートは嬉しそうに鼻を鳴らし「あの男も大したことないわね」と余計な一言を発する。顔を見合わせたベールとルキフェルは、発言の報復を思って肩を竦めた。
シンと静まった会場で、ルシファーが先に動いた。高く上げた足で蹴りを放つ。足首を手のひらで受けたアスタロトが身を屈ませて懐に飛び込み、地に手をついたルシファーが宙返りで避けた。着地の瞬間を狙う爪に、ルシファーがぴたりとタイミングを合わせて浮遊する。
曲芸のように、爪の上に立った魔王がさらに宙返りして距離を取った。歓声が沸き起こり、周囲に拍手が響き渡る。かつてない盛り上がりを見せる勝ち抜き戦に、アスタロトは唇を軽く湿らせた。
ふっ、短い呼吸の直後、突き出されたアスタロトの手を掴んで身をよじるルシファーが、その手首に強く力をかける。折るつもりの魔王の意図を察して、アスタロトは手首を軸に躍るように回転した。するりと逃げてしまったアスタロトの手が翻り、爪がルシファーの服をかすめる。
僅かに切り裂いた布がはらりと芝の上に落ちた。
あちこちから歓声と応援の声があがり、意外にもアスタロトは女性に人気が高いらしい。ルシファーがにやりと笑みを浮かべれば、そちらにも女性から声がかかる。美形同士の戦いは目の保養と、奥様やお嬢様方の憧れの視線が注がれた。
「ルシファーって、モテるのね」
今更な発言をするリリスへ、ルーシアが笑いながら肯定する。
「そうですわね、最強でお優しい方ですから。リリス様もよくご存じでしょう?」
「戦うと怖いですよ」
翡翠竜がぼそっと呟く。かつて魔王城を一部破壊したドラゴンは、婚約者の膝の上で身震いした。混乱して記憶の曖昧な部分もあるが、魔力だけで自分を叩き潰した魔王の強さは身に染みている。魔法も、制御用の魔法陣も使わなかった。感情に任せて揮われた魔力による圧迫は、骨が軋む痛みとともに覚えている。
「お城を壊されたら、ルシファーだって怒るわ」
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「陛下は事情を汲まずに処分するお方じゃないぞ」
「ええ。本当に……寛大な陛下のおかげで、私も新たな婚約者を得ましたし」
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「勝敗がつきそうです」
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ルシファーの顔へ繰り出された手刀はまっすぐに目を狙い、その手前でルシファーが爪を掴んで捩じったのだ。斜めに強烈な力をかけられた爪はこらえきれずに折れたが、魔力により高めた強度がルシファーの手のひらの皮膚を僅かに裂いた。
「ふぅ……今のはヤバかった」
爪を掴んだのは、顔のわずか10cmほど手前だ。ぎりぎりのタイミングだった。目に向かう攻撃は避けづらく、反応しづらい。魔王軍も訓練を兼ねた手合わせで顔への攻撃を禁じていた。事故が起きる可能性が高いからだ。
「禁じ手まで使うなんて」
ベルゼビュートが眉を顰めるが、逆にベールは感心していた。
「陛下の格闘戦の腕が上がっています。アスタロトが追い詰められるとは驚きました」
禁じ手まで使って攻撃するほど、アスタロトに余裕がなかった。その視点に、分析していたルキフェルも頷く。
「そうだね。最後の方は余裕がなかった」
するとベルゼビュートは嬉しそうに鼻を鳴らし「あの男も大したことないわね」と余計な一言を発する。顔を見合わせたベールとルキフェルは、発言の報復を思って肩を竦めた。
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