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52章 不夜城のお祭り騒ぎ
722. 悲鳴の代償はデレ
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「や、やだ……恥ずかしい」
頬を染めたリリスが両手で顔を覆った。思わず声が出てしまったのだ。ちょうど場が緊迫していたため、声が大きく響いてしまった。この場に集まった魔族すべてに、リリスが悲鳴を上げた事実は微笑ましく受け取られる。恥ずかしがって顔を隠した当人は気づかない。
「リリス様がどれだけ陛下を愛しておられるか、伝わって良かったですわ」
「リリス様、恥ずかしいことではありません」
ルーシアとレライエの声に、ちらりと指の間から覗くリリスはまだ耳や首筋も真っ赤だ。もそもそと身じろぎしたヤンも言葉を添えた。
「そうですぞ、我が君も喜んでおられます」
「……わっ、わかんないじゃない」
「素直に嬉しいぞ」
転移で移動したルシファーが毛皮にくるまれるリリスを抱きしめる。祭りの目玉だというのに、主役不在になってしまった。悲鳴を上げたお姫様が顔を隠したため、慌てて駆け付けたルシファーは首筋や髪の生え際など、かろうじて手で覆えなかった肌にキスを落とす。
顔を隠す指にも丁寧にキスを繰り返せば、真っ赤な顔のリリスがようやく手を離した。しかし顔を合わせるのは恥ずかしいのか、抱き着いてしまう。ぎゅっと強く抱いて、その背中をとんとんと叩いてやった。幼女の頃に寝かしつけでよく行った仕草を、どこか懐かしく思い出す。
「心配させた」
結界があるから安心だとか、ベールに殺意はないなど……無駄な言葉は使わない。ただリリスが心配して思わず声を上げた事実に対し、悪かったと詫びる姿勢を見せた。
逆の立場なら、ルシファーも慌てふためいただろう。たとえ己が万能結界を施して守る状態だとしても、リリスに刃が突き立てられる光景を見るのは御免だ。だから必要なのは安心を届ける言葉ではなく、不安にさせた謝罪だけだった。
「もぅ……次は知らないから!」
「うん」
「悲鳴なんて、上げないんだからね」
拗ねて尖った唇に誘われて、触れるだけのキスをする。
「わかった」
「……アシュタが待ってるわ」
「そうだな」
相槌を打つが離れないルシファーに焦れて、他の魔族に見られている事実に気づいたリリスが、両手でルシファーを押し戻す。無理やり引き剥がされたルシファーは、じっとリリスの顔を見つめてから口元を緩めた。
「あと1人だ。勝ったらご褒美をくれるか? オレのお嫁さん」
「いいわ」
即答したリリスの額と頬にお礼のキスをして立ち上がる。ふわりと空中に浮いたルシファーが、瞬く間に転移で広場の中央に戻った。ざわめきながらも大人しく待っていた観客が、わっと湧いた。
心配した魔王妃をいたわる魔王の溺愛ぶりも見られた今年は、今までの勝ち抜き戦より価値がある。魔族は戦いも好きだが、こうした魔王の別の一面を見られるチャンスを逃さなかった。
「すごい愛妻家になるな」
「今までも可愛がっておられたが、ここまでとは……」
「早くお子様の顔がみたい」
「いやあ、あそこまで愛しておられたらしばらくお2人の時間を楽しまれると思うぞ」
「なにしろ、目出度い!!」
赤くなった顔をぱたぱたと手で仰ぐリリスは、幸いにして周囲の話声をざわめきとして認識していた。もし彼らの話の内容が逐一届いていたら、また顔を覆って伏せてしまったかもしれない。人気の高い魔王の普段見せない表情が見れたと、すでに民は満足気だった。
「我々の一戦はやめますか?」
苦笑いして肩を竦めるアスタロトが進み出る。
「いや、せっかく全員揃ったんだから戦っておこう」
ここでアスタロトに勝てば、リリスから褒美が貰える。にこにこと機嫌よく振舞うルシファーへ、民に聞こえない音量でくぎを刺す。
「褒美でも手を出さないでください。婚姻式はまだ先ですから」
「わっ、わかってる」
慌てて手を振って否定する仕草に、話が聞こえなかった魔族は不思議そうだが……内容が漏れたら大事件だった。近くにいたため、聞こえてしまった他の大公は顔を見合わせる。ベールの溜め息、ベルゼビュートが苦笑い、ルキフェルは肩を竦めた。
「では一手、御指南いただきましょうか」
アスタロトが選んだ武器は、愛用の剣ではなかった。
頬を染めたリリスが両手で顔を覆った。思わず声が出てしまったのだ。ちょうど場が緊迫していたため、声が大きく響いてしまった。この場に集まった魔族すべてに、リリスが悲鳴を上げた事実は微笑ましく受け取られる。恥ずかしがって顔を隠した当人は気づかない。
「リリス様がどれだけ陛下を愛しておられるか、伝わって良かったですわ」
「リリス様、恥ずかしいことではありません」
ルーシアとレライエの声に、ちらりと指の間から覗くリリスはまだ耳や首筋も真っ赤だ。もそもそと身じろぎしたヤンも言葉を添えた。
「そうですぞ、我が君も喜んでおられます」
「……わっ、わかんないじゃない」
「素直に嬉しいぞ」
転移で移動したルシファーが毛皮にくるまれるリリスを抱きしめる。祭りの目玉だというのに、主役不在になってしまった。悲鳴を上げたお姫様が顔を隠したため、慌てて駆け付けたルシファーは首筋や髪の生え際など、かろうじて手で覆えなかった肌にキスを落とす。
顔を隠す指にも丁寧にキスを繰り返せば、真っ赤な顔のリリスがようやく手を離した。しかし顔を合わせるのは恥ずかしいのか、抱き着いてしまう。ぎゅっと強く抱いて、その背中をとんとんと叩いてやった。幼女の頃に寝かしつけでよく行った仕草を、どこか懐かしく思い出す。
「心配させた」
結界があるから安心だとか、ベールに殺意はないなど……無駄な言葉は使わない。ただリリスが心配して思わず声を上げた事実に対し、悪かったと詫びる姿勢を見せた。
逆の立場なら、ルシファーも慌てふためいただろう。たとえ己が万能結界を施して守る状態だとしても、リリスに刃が突き立てられる光景を見るのは御免だ。だから必要なのは安心を届ける言葉ではなく、不安にさせた謝罪だけだった。
「もぅ……次は知らないから!」
「うん」
「悲鳴なんて、上げないんだからね」
拗ねて尖った唇に誘われて、触れるだけのキスをする。
「わかった」
「……アシュタが待ってるわ」
「そうだな」
相槌を打つが離れないルシファーに焦れて、他の魔族に見られている事実に気づいたリリスが、両手でルシファーを押し戻す。無理やり引き剥がされたルシファーは、じっとリリスの顔を見つめてから口元を緩めた。
「あと1人だ。勝ったらご褒美をくれるか? オレのお嫁さん」
「いいわ」
即答したリリスの額と頬にお礼のキスをして立ち上がる。ふわりと空中に浮いたルシファーが、瞬く間に転移で広場の中央に戻った。ざわめきながらも大人しく待っていた観客が、わっと湧いた。
心配した魔王妃をいたわる魔王の溺愛ぶりも見られた今年は、今までの勝ち抜き戦より価値がある。魔族は戦いも好きだが、こうした魔王の別の一面を見られるチャンスを逃さなかった。
「すごい愛妻家になるな」
「今までも可愛がっておられたが、ここまでとは……」
「早くお子様の顔がみたい」
「いやあ、あそこまで愛しておられたらしばらくお2人の時間を楽しまれると思うぞ」
「なにしろ、目出度い!!」
赤くなった顔をぱたぱたと手で仰ぐリリスは、幸いにして周囲の話声をざわめきとして認識していた。もし彼らの話の内容が逐一届いていたら、また顔を覆って伏せてしまったかもしれない。人気の高い魔王の普段見せない表情が見れたと、すでに民は満足気だった。
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ここでアスタロトに勝てば、リリスから褒美が貰える。にこにこと機嫌よく振舞うルシファーへ、民に聞こえない音量でくぎを刺す。
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「わっ、わかってる」
慌てて手を振って否定する仕草に、話が聞こえなかった魔族は不思議そうだが……内容が漏れたら大事件だった。近くにいたため、聞こえてしまった他の大公は顔を見合わせる。ベールの溜め息、ベルゼビュートが苦笑い、ルキフェルは肩を竦めた。
「では一手、御指南いただきましょうか」
アスタロトが選んだ武器は、愛用の剣ではなかった。
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