716 / 1,397
52章 不夜城のお祭り騒ぎ
711. 恒例の騒動
しおりを挟む
近づくアスタロトの気配に気付いたルシファーは、腕の中で眠るリリスを優しく離した。腕枕をそっと外した辺りで、アスタロトが到着する。中の様子を窺う側近へ、ひらりと手を振って待つように伝えた。
抜き足差し足でベッドから降り、彼女が起きないか確認してから部屋を出た。呪われた指輪事件で壊れた私室はまだ修復前なので、客間の一角を繋げて使用している。
リリスが眠る寝室を結界で囲い、遮音も補強した。それからようやく口を開く。ぱちんと指を鳴らして着替えたものの、服装は簡易なローブだった。また戻って眠るつもりなのだろう。
「どうした?」
事件か襲撃か。問うルシファーの表情は、愛し子に微笑む姿が嘘のように凛々しい。幾分険しい声で尋ねた魔王へ、臣下の礼をとった側近は言葉を選びながら状況を報告した。
「恒例の騒動です」
言われてすぐに思い当たるのも悲しいが、それだけ繰り返された騒動だ。仲裁も飽きるほど行ってきた。
幸いにして前回は簡単に収まったが、寝ているのを承知で迎えに来たのなら、今回も大きく発展してしまったのだろう。
「わかった」
対応すると伝えたルシファーだが、後ろで開いたドアに慌てて振り向いた。薄く開いた赤い瞳の眦を擦るリリスが、小さな欠伸を噛み殺しながら歩み寄る。
お気に入りのクッションを抱えた姿は幼く、愛らしい。申し訳なさそうなアスタロトに会釈したリリスは、駆け寄ったルシファーの袖を掴んだ。
「私も行くわ」
眠そうなリリスの発言に、ルシファーは黒髪を撫でてから膝をついて下から覗き込んだ。
「すぐ戻れるから、ベッドで待っていて。夜はすこし寒いし、風邪を引くといけない」
「いや」
「みんながいる場所に行くから着替えるのも面倒だろう?」
「ワンピースならすぐよ」
寝着からワンピースへ着替えるなら時間が掛からないと告げ、ルシファーが折れるのを待つ。
「ルシファー様、こうしている時間を考えますと……リリス様をお連れした方が早いですよ」
「わかってるが」
普段はちゃんとしている貴族達のだらしない姿を見せるのも気が引けるし、荒れている彼らの前にリリスを連れて行くのも嫌だ。万が一にも心ない言葉をかける奴がいたら、抹殺してしまいそうだ。
幸せな時間を邪魔された機嫌の悪さも手伝って、ルシファーの考えは暗い方へ走る。引き戻すように、リリスは唇を尖らせて抗議した。
「私も行くの! じゃないと、帰ってきても一緒に寝てあげないから」
「よし、一緒に行こう」
秒殺で降伏する最強の純白魔王は、呆れ顔の側近に指示を出した。
「いつも通り、最後はアレで誤魔化すぞ」
「承知しております」
恒例すぎて打ち合わせも簡素化された対応だが、一度は魔王の姿を見ないと落ち着かない彼らの騒動は激しさを増す一方だ。急ぎ戻るアスタロトに促されたルシファーは、自分の黒いローブを取り出してリリスに被せた。
すぐ戻って寝るのなら、着替える必要はない。こうして寝着姿を隠してしまえばいい。その上で、幼女の頃と同じように抱き上げた。
「両手が塞がりますよ、陛下」
呼び方を変えて注意するアスタロトへ、笑顔で切り返した。
「恒例のあれなら問題ない」
抜き足差し足でベッドから降り、彼女が起きないか確認してから部屋を出た。呪われた指輪事件で壊れた私室はまだ修復前なので、客間の一角を繋げて使用している。
リリスが眠る寝室を結界で囲い、遮音も補強した。それからようやく口を開く。ぱちんと指を鳴らして着替えたものの、服装は簡易なローブだった。また戻って眠るつもりなのだろう。
「どうした?」
事件か襲撃か。問うルシファーの表情は、愛し子に微笑む姿が嘘のように凛々しい。幾分険しい声で尋ねた魔王へ、臣下の礼をとった側近は言葉を選びながら状況を報告した。
「恒例の騒動です」
言われてすぐに思い当たるのも悲しいが、それだけ繰り返された騒動だ。仲裁も飽きるほど行ってきた。
幸いにして前回は簡単に収まったが、寝ているのを承知で迎えに来たのなら、今回も大きく発展してしまったのだろう。
「わかった」
対応すると伝えたルシファーだが、後ろで開いたドアに慌てて振り向いた。薄く開いた赤い瞳の眦を擦るリリスが、小さな欠伸を噛み殺しながら歩み寄る。
お気に入りのクッションを抱えた姿は幼く、愛らしい。申し訳なさそうなアスタロトに会釈したリリスは、駆け寄ったルシファーの袖を掴んだ。
「私も行くわ」
眠そうなリリスの発言に、ルシファーは黒髪を撫でてから膝をついて下から覗き込んだ。
「すぐ戻れるから、ベッドで待っていて。夜はすこし寒いし、風邪を引くといけない」
「いや」
「みんながいる場所に行くから着替えるのも面倒だろう?」
「ワンピースならすぐよ」
寝着からワンピースへ着替えるなら時間が掛からないと告げ、ルシファーが折れるのを待つ。
「ルシファー様、こうしている時間を考えますと……リリス様をお連れした方が早いですよ」
「わかってるが」
普段はちゃんとしている貴族達のだらしない姿を見せるのも気が引けるし、荒れている彼らの前にリリスを連れて行くのも嫌だ。万が一にも心ない言葉をかける奴がいたら、抹殺してしまいそうだ。
幸せな時間を邪魔された機嫌の悪さも手伝って、ルシファーの考えは暗い方へ走る。引き戻すように、リリスは唇を尖らせて抗議した。
「私も行くの! じゃないと、帰ってきても一緒に寝てあげないから」
「よし、一緒に行こう」
秒殺で降伏する最強の純白魔王は、呆れ顔の側近に指示を出した。
「いつも通り、最後はアレで誤魔化すぞ」
「承知しております」
恒例すぎて打ち合わせも簡素化された対応だが、一度は魔王の姿を見ないと落ち着かない彼らの騒動は激しさを増す一方だ。急ぎ戻るアスタロトに促されたルシファーは、自分の黒いローブを取り出してリリスに被せた。
すぐ戻って寝るのなら、着替える必要はない。こうして寝着姿を隠してしまえばいい。その上で、幼女の頃と同じように抱き上げた。
「両手が塞がりますよ、陛下」
呼び方を変えて注意するアスタロトへ、笑顔で切り返した。
「恒例のあれなら問題ない」
30
お気に入りに追加
4,963
あなたにおすすめの小説
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる