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50章 即位記念祭前夜
684. 初日から寝坊するなんて
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早朝、寝室に飛び込んだ側近は青ざめていた。
「ルシファー様!! 起きてください。急いで」
リリスを抱っこして腕枕のルシファーが羽織る上掛けを、勢いよく引っぺがす。暴挙に近いが、躊躇はなかった。ぱっと跳ね上がったシーツの争奪戦が始まり、何とかリリスに布を被せて寝乱れた姿を隠すことに成功したルシファーは、魔王の称号に相応しいおどろおどろしい声で尋ねた。
「何を騒いでいる……まだ明け方」
「もう10時です」
「は?」
「ですから、10時を過ぎたところです」
壁の時計を見ると確かに言われた時間を示しており、貴族の集合時間を過ぎていた。じっくり時計を見てから窓の方へ目を向け、きっちり閉じたカーテンを動かして外を確認する。明るい。
もう一度時計を確認し、慌てて飛び起きた。
「なぜもっと早く知らせなかった!?」
「少なくとも1時間前にベリアルが呼びに来ました!!」
ドアに結界が張られていたため、お姫様の着替え中と判断した。ノックして声をかけて戻ったらしい。中で爆睡していたなど予想外だろう。
10年に一度の大祭も、数千回も開催すれば緊張感は薄れる。直前の騒動や準備の忙しさから解放され、昨夜2人でホットワインを飲んだのが敗因だった。蜂蜜をたっぷり入れて薄めたワインをリリスがお代わりし、ご機嫌で自分もワインを飲んだ……記憶はある。
体温が上がって頬を赤く染めたリリスを抱っこして横になり、次の記憶はアスタロトの襲撃だった。完全に記憶が飛んでいる。本来酒に耐性があるはずのルシファーだが、本人も知らぬ間に溜め込んだ疲労が影響したのかも知れない。
すでに身支度を整えたアスタロトは黒に近い深紅のローブ姿で、金髪も緩やかにまとめてあった。装飾品がきらきらと光を弾く。魅了の魔法を使わなくても、十分すぎるほど魅力的な姿だった。リリスがよく頬張った飴のような大きな赤い宝石が、細い鎖に支えられて胸元で輝きを放つ。
「り、リリリ……リリス!!」
あたふたしながら、シーツの中のリリスを抱っこする。しかしそこで固まった。何をすればいいのか、頭が真っ白なのだ。溜め息をついたアスタロトが横から指示を出す。
「リリス様の準備は少しかかりますので、アデーレに任せましょう。隣の部屋に運んで戻ってきてください」
「あ、ああ。そうだな」
言われるまま大人しくリリスを隣室に届け、用意した衣装やアクセサリーを示して髪形を決める。アデーレはにこにこと指示を聞き、適当なところで「お姫様の支度に殿方がいらしては邪魔ですわ。向こうでお待ちください」と追い返された。
戻ってくるなり、アスタロトがルシファーにテキパキと指示を出す。
「今は3人の大公が時間稼ぎをしています。お急ぎください。最初に着替える!」
子供の頃さながら、一から指示されて頷く。指ぱっちんで簡単に着替えると、濃色の衣装に大量のアクセサリーを装着した。鎧ではないかと思うほど大量に着けていくのは、これが正装だからだ。国宝級の装飾品を装備する魔王は、促されて近くの椅子に腰かけた。
「アクセサリーの間に髪を結いますから、王冠を用意してください」
「わかった」
首飾り、耳飾り、指輪、腕輪もじゃらじゃらと音がするほど飾り立てる間に、アスタロトの手が器用に髪を結い上げる。祭りの間は基本的に翼を見せていることが多いため、肩甲骨の高さより下にならないよう結わなくてはならない。また結い方も細かく作法が決まっていた。
丁寧にしかし迅速に整え、アスタロトが安堵の息をつく。ぎりぎり間に合いそうだ。呪いの王冠をひとつずつ頭に乗せて連結した。最後のひとつを乗せて固定し、大急ぎでルシファーを立たせる。
「さあ、行きましょう」
「ルシファー様!! 起きてください。急いで」
リリスを抱っこして腕枕のルシファーが羽織る上掛けを、勢いよく引っぺがす。暴挙に近いが、躊躇はなかった。ぱっと跳ね上がったシーツの争奪戦が始まり、何とかリリスに布を被せて寝乱れた姿を隠すことに成功したルシファーは、魔王の称号に相応しいおどろおどろしい声で尋ねた。
「何を騒いでいる……まだ明け方」
「もう10時です」
「は?」
「ですから、10時を過ぎたところです」
壁の時計を見ると確かに言われた時間を示しており、貴族の集合時間を過ぎていた。じっくり時計を見てから窓の方へ目を向け、きっちり閉じたカーテンを動かして外を確認する。明るい。
もう一度時計を確認し、慌てて飛び起きた。
「なぜもっと早く知らせなかった!?」
「少なくとも1時間前にベリアルが呼びに来ました!!」
ドアに結界が張られていたため、お姫様の着替え中と判断した。ノックして声をかけて戻ったらしい。中で爆睡していたなど予想外だろう。
10年に一度の大祭も、数千回も開催すれば緊張感は薄れる。直前の騒動や準備の忙しさから解放され、昨夜2人でホットワインを飲んだのが敗因だった。蜂蜜をたっぷり入れて薄めたワインをリリスがお代わりし、ご機嫌で自分もワインを飲んだ……記憶はある。
体温が上がって頬を赤く染めたリリスを抱っこして横になり、次の記憶はアスタロトの襲撃だった。完全に記憶が飛んでいる。本来酒に耐性があるはずのルシファーだが、本人も知らぬ間に溜め込んだ疲労が影響したのかも知れない。
すでに身支度を整えたアスタロトは黒に近い深紅のローブ姿で、金髪も緩やかにまとめてあった。装飾品がきらきらと光を弾く。魅了の魔法を使わなくても、十分すぎるほど魅力的な姿だった。リリスがよく頬張った飴のような大きな赤い宝石が、細い鎖に支えられて胸元で輝きを放つ。
「り、リリリ……リリス!!」
あたふたしながら、シーツの中のリリスを抱っこする。しかしそこで固まった。何をすればいいのか、頭が真っ白なのだ。溜め息をついたアスタロトが横から指示を出す。
「リリス様の準備は少しかかりますので、アデーレに任せましょう。隣の部屋に運んで戻ってきてください」
「あ、ああ。そうだな」
言われるまま大人しくリリスを隣室に届け、用意した衣装やアクセサリーを示して髪形を決める。アデーレはにこにこと指示を聞き、適当なところで「お姫様の支度に殿方がいらしては邪魔ですわ。向こうでお待ちください」と追い返された。
戻ってくるなり、アスタロトがルシファーにテキパキと指示を出す。
「今は3人の大公が時間稼ぎをしています。お急ぎください。最初に着替える!」
子供の頃さながら、一から指示されて頷く。指ぱっちんで簡単に着替えると、濃色の衣装に大量のアクセサリーを装着した。鎧ではないかと思うほど大量に着けていくのは、これが正装だからだ。国宝級の装飾品を装備する魔王は、促されて近くの椅子に腰かけた。
「アクセサリーの間に髪を結いますから、王冠を用意してください」
「わかった」
首飾り、耳飾り、指輪、腕輪もじゃらじゃらと音がするほど飾り立てる間に、アスタロトの手が器用に髪を結い上げる。祭りの間は基本的に翼を見せていることが多いため、肩甲骨の高さより下にならないよう結わなくてはならない。また結い方も細かく作法が決まっていた。
丁寧にしかし迅速に整え、アスタロトが安堵の息をつく。ぎりぎり間に合いそうだ。呪いの王冠をひとつずつ頭に乗せて連結した。最後のひとつを乗せて固定し、大急ぎでルシファーを立たせる。
「さあ、行きましょう」
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