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49章 魔王城最上階の怪談

679. 幸せカップル、不運な独り身

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 いきなり首を絞めたり、外れなくなる類の装身具は避けておいた。しかし多少のトラブルは起きると想定し、大公3人が率先して危険な物から装着して確かめる。

「結界を張って装着したら、効果が半減しないかしら?」

 ルーシアが素朴な疑問を口にした。本来の結界の役目から言えば、己に害を為す事象を排除してくれる。魔法然り、物理然りだ。しかし呪いにも同じ効果があるとは限らない。

「僕はお勧めしない。魔力に反応するタイプだったら、効力が強くなるかも」

 ルキフェルが心配そうに呟く。良く見れば、すでに装着した大公達は魔力を抑えていた。普段と比べたら、ほぼ感じ取れないレベルだ。

「魔力は抑えたほうが?」

 翡翠竜を膝に乗せたレライエに、アスタロトが頷いた。

「そうですね。人族ならほとんど影響ない品しか用意していません。魔力を出すほうが危険です」

「ならば、俺たちから試そう」

 イザヤが少し嬉しそうに呟く。どうやら妹とペアルックのアクセサリーに、気分が昂っているらしい。浮き浮きしながら女性物の耳飾りを左耳に飾った。それを見たアンナも躊躇なく、右耳にエスメラルダの涙を着ける。

「なぜ左右につけたのですか?」

 ベールが不思議そうに尋ねた。魔族は耳に穴を開けるピアスが主流で、挟むタイプの耳飾りは滅多に使わない。それを彼らは左右に着け分けた。その所作に迷いが無かったことに、疑問が浮かんだのだ。

「こっちの世界だと知らないのかな? お兄ちゃん」

「そうみたいだ。実は俺たちのいた世界だと守る人が左、守られる人は右に着けるんだ」

 正確にはピアスに関する説のひとつだが、そこまで説明しなくてもいいだろう。省略した話に、納得した様子でベールが頷いた。

「なるほど。勉強になりました」

「よく気づいたね、ベール」

 感心した口調のルキフェルへ「一対の物を分けて着けるのは珍しいですから」と理由を答える。ついでに彼の紅茶に蜂蜜を追加した。一度口を付けてから残していたのは、甘さが足りないのだろう。

 親鳥が雛の面倒を見るように、細かく世話を焼くベールの姿に「ルキフェルが結婚したら大変だろう」とルシファーとアスタロトは顔を見合わせた。

「次は僕ですね」

 どきどきしながら、アベルが腕輪に手を通す。黄金の腕輪をした途端、真っ赤になって鼻血を吹いた。挙動不審な態度であちこち視線を彷徨わせ、ちょうど戻ってきたベルゼビュートを振り返ったところで倒れる。

「ただい、ま?」

「あ、お帰りなさい」

 反射的に返事をしたシトリーとルーシアが、倒れたアベルを覗き込む。だらしなく幸せそうな顔だが、助け起こそうと思えない。一言で表現するなら、いやらしかった。

「何故か腹立たしいのですが」

 直感で何か感じたアスタロトも、不思議そうに首をかしげる。ルーサルカが近づこうとすると、父親の立場で止めた。今はダメだと反応が告げている。

 リリスをアベルの視界から遠ざかるべく、抱き締めたルシファーが舌打ちした。

「すごく不快だ」

「同感です」

 翡翠竜も同意した。本能的に何かを察知して、婚約者の前に立ちはだかる。守る姿勢を見せるドラゴンに、レライエの頬が緩んだ。

「なに? これ、呪われたアイテムじゃない」

 手を伸ばしたベルゼビュートが、アベルの手から腕輪を外した。説明する前に触れたベルゼビュートは、黄金の腕輪を眺めて嵌める。

「あ、服がほとんど透けて見えるわ」

 予想外の効果に、リリスを見られたかもしれないと怒り心頭のルシファーが、魔剣を呼び出してアベルに突き立てようとする。ひとまず止めに入るベールとルキフェル、義娘を辱めたと静かに怒りを滲ませるアスタロト。嫌悪感を顔に出す少女達……。

 収集つかない部屋の中、ベルゼビュートはけろりとした顔で爆弾発言を放った。

「裸体なんて何がいいのかしら? 普段脱いでるから、服着て隠すほうがいやらしいのにね」
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