684 / 1,397
49章 魔王城最上階の怪談
679. 幸せカップル、不運な独り身
しおりを挟む
いきなり首を絞めたり、外れなくなる類の装身具は避けておいた。しかし多少のトラブルは起きると想定し、大公3人が率先して危険な物から装着して確かめる。
「結界を張って装着したら、効果が半減しないかしら?」
ルーシアが素朴な疑問を口にした。本来の結界の役目から言えば、己に害を為す事象を排除してくれる。魔法然り、物理然りだ。しかし呪いにも同じ効果があるとは限らない。
「僕はお勧めしない。魔力に反応するタイプだったら、効力が強くなるかも」
ルキフェルが心配そうに呟く。良く見れば、すでに装着した大公達は魔力を抑えていた。普段と比べたら、ほぼ感じ取れないレベルだ。
「魔力は抑えたほうが?」
翡翠竜を膝に乗せたレライエに、アスタロトが頷いた。
「そうですね。人族ならほとんど影響ない品しか用意していません。魔力を出すほうが危険です」
「ならば、俺たちから試そう」
イザヤが少し嬉しそうに呟く。どうやら妹とペアルックのアクセサリーに、気分が昂っているらしい。浮き浮きしながら女性物の耳飾りを左耳に飾った。それを見たアンナも躊躇なく、右耳にエスメラルダの涙を着ける。
「なぜ左右につけたのですか?」
ベールが不思議そうに尋ねた。魔族は耳に穴を開けるピアスが主流で、挟むタイプの耳飾りは滅多に使わない。それを彼らは左右に着け分けた。その所作に迷いが無かったことに、疑問が浮かんだのだ。
「こっちの世界だと知らないのかな? お兄ちゃん」
「そうみたいだ。実は俺たちのいた世界だと守る人が左、守られる人は右に着けるんだ」
正確にはピアスに関する説のひとつだが、そこまで説明しなくてもいいだろう。省略した話に、納得した様子でベールが頷いた。
「なるほど。勉強になりました」
「よく気づいたね、ベール」
感心した口調のルキフェルへ「一対の物を分けて着けるのは珍しいですから」と理由を答える。ついでに彼の紅茶に蜂蜜を追加した。一度口を付けてから残していたのは、甘さが足りないのだろう。
親鳥が雛の面倒を見るように、細かく世話を焼くベールの姿に「ルキフェルが結婚したら大変だろう」とルシファーとアスタロトは顔を見合わせた。
「次は僕ですね」
どきどきしながら、アベルが腕輪に手を通す。黄金の腕輪をした途端、真っ赤になって鼻血を吹いた。挙動不審な態度であちこち視線を彷徨わせ、ちょうど戻ってきたベルゼビュートを振り返ったところで倒れる。
「ただい、ま?」
「あ、お帰りなさい」
反射的に返事をしたシトリーとルーシアが、倒れたアベルを覗き込む。だらしなく幸せそうな顔だが、助け起こそうと思えない。一言で表現するなら、いやらしかった。
「何故か腹立たしいのですが」
直感で何か感じたアスタロトも、不思議そうに首をかしげる。ルーサルカが近づこうとすると、父親の立場で止めた。今はダメだと反応が告げている。
リリスをアベルの視界から遠ざかるべく、抱き締めたルシファーが舌打ちした。
「すごく不快だ」
「同感です」
翡翠竜も同意した。本能的に何かを察知して、婚約者の前に立ちはだかる。守る姿勢を見せるドラゴンに、レライエの頬が緩んだ。
「なに? これ、呪われたアイテムじゃない」
手を伸ばしたベルゼビュートが、アベルの手から腕輪を外した。説明する前に触れたベルゼビュートは、黄金の腕輪を眺めて嵌める。
「あ、服がほとんど透けて見えるわ」
予想外の効果に、リリスを見られたかもしれないと怒り心頭のルシファーが、魔剣を呼び出してアベルに突き立てようとする。ひとまず止めに入るベールとルキフェル、義娘を辱めたと静かに怒りを滲ませるアスタロト。嫌悪感を顔に出す少女達……。
収集つかない部屋の中、ベルゼビュートはけろりとした顔で爆弾発言を放った。
「裸体なんて何がいいのかしら? 普段脱いでるから、服着て隠すほうがいやらしいのにね」
「結界を張って装着したら、効果が半減しないかしら?」
ルーシアが素朴な疑問を口にした。本来の結界の役目から言えば、己に害を為す事象を排除してくれる。魔法然り、物理然りだ。しかし呪いにも同じ効果があるとは限らない。
「僕はお勧めしない。魔力に反応するタイプだったら、効力が強くなるかも」
ルキフェルが心配そうに呟く。良く見れば、すでに装着した大公達は魔力を抑えていた。普段と比べたら、ほぼ感じ取れないレベルだ。
「魔力は抑えたほうが?」
翡翠竜を膝に乗せたレライエに、アスタロトが頷いた。
「そうですね。人族ならほとんど影響ない品しか用意していません。魔力を出すほうが危険です」
「ならば、俺たちから試そう」
イザヤが少し嬉しそうに呟く。どうやら妹とペアルックのアクセサリーに、気分が昂っているらしい。浮き浮きしながら女性物の耳飾りを左耳に飾った。それを見たアンナも躊躇なく、右耳にエスメラルダの涙を着ける。
「なぜ左右につけたのですか?」
ベールが不思議そうに尋ねた。魔族は耳に穴を開けるピアスが主流で、挟むタイプの耳飾りは滅多に使わない。それを彼らは左右に着け分けた。その所作に迷いが無かったことに、疑問が浮かんだのだ。
「こっちの世界だと知らないのかな? お兄ちゃん」
「そうみたいだ。実は俺たちのいた世界だと守る人が左、守られる人は右に着けるんだ」
正確にはピアスに関する説のひとつだが、そこまで説明しなくてもいいだろう。省略した話に、納得した様子でベールが頷いた。
「なるほど。勉強になりました」
「よく気づいたね、ベール」
感心した口調のルキフェルへ「一対の物を分けて着けるのは珍しいですから」と理由を答える。ついでに彼の紅茶に蜂蜜を追加した。一度口を付けてから残していたのは、甘さが足りないのだろう。
親鳥が雛の面倒を見るように、細かく世話を焼くベールの姿に「ルキフェルが結婚したら大変だろう」とルシファーとアスタロトは顔を見合わせた。
「次は僕ですね」
どきどきしながら、アベルが腕輪に手を通す。黄金の腕輪をした途端、真っ赤になって鼻血を吹いた。挙動不審な態度であちこち視線を彷徨わせ、ちょうど戻ってきたベルゼビュートを振り返ったところで倒れる。
「ただい、ま?」
「あ、お帰りなさい」
反射的に返事をしたシトリーとルーシアが、倒れたアベルを覗き込む。だらしなく幸せそうな顔だが、助け起こそうと思えない。一言で表現するなら、いやらしかった。
「何故か腹立たしいのですが」
直感で何か感じたアスタロトも、不思議そうに首をかしげる。ルーサルカが近づこうとすると、父親の立場で止めた。今はダメだと反応が告げている。
リリスをアベルの視界から遠ざかるべく、抱き締めたルシファーが舌打ちした。
「すごく不快だ」
「同感です」
翡翠竜も同意した。本能的に何かを察知して、婚約者の前に立ちはだかる。守る姿勢を見せるドラゴンに、レライエの頬が緩んだ。
「なに? これ、呪われたアイテムじゃない」
手を伸ばしたベルゼビュートが、アベルの手から腕輪を外した。説明する前に触れたベルゼビュートは、黄金の腕輪を眺めて嵌める。
「あ、服がほとんど透けて見えるわ」
予想外の効果に、リリスを見られたかもしれないと怒り心頭のルシファーが、魔剣を呼び出してアベルに突き立てようとする。ひとまず止めに入るベールとルキフェル、義娘を辱めたと静かに怒りを滲ませるアスタロト。嫌悪感を顔に出す少女達……。
収集つかない部屋の中、ベルゼビュートはけろりとした顔で爆弾発言を放った。
「裸体なんて何がいいのかしら? 普段脱いでるから、服着て隠すほうがいやらしいのにね」
20
お気に入りに追加
4,916
あなたにおすすめの小説
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「貴様のような下賤な魔女が、のうのうと我が妻の座を狙い画策するなど! 恥を知れ」
味方のない夜会で、婚約者に罵られた少女は涙を零す。その予想を覆し、彼女は毅然と顔をあげた。残虐皇帝の名で知られるエリクはその横顔に見惚れる。
欲しい――理性ではなく感情で心が埋め尽くされた。愚かな王太子からこの子を奪って、傷ついた心を癒したい。僕だけを見て、僕の声だけ聞いて、僕への愛だけ口にしてくれたら……。
僕は君が溺れるほど愛し、僕なしで生きられないようにしたい。
明かされた暗い過去も痛みも思い出も、僕がすべて癒してあげよう。さあ、この手に堕ちておいで。
脅すように連れ去られたトリシャが魔女と呼ばれる理由――溺愛される少女は徐々に心を開いていく。愛しいエリク、残酷で無慈悲だけど私だけに優しいあなた……手を離さないで。
ヤンデレに愛される魔女は幸せを掴む。
※2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/07/09 完結
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
※メリバ展開はありません。ハッピーエンド確定です。
【同時掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる