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49章 魔王城最上階の怪談

678. 呪いの装飾品選び

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「呪い……そのもの」

 繰り返したアスタロトが悩まし気に眉を寄せる。そのようなものの処理は今までに経験がないため、対応に困った。残しておけばドワーフ達も嫌がるし、ルシファーやリリスは気にしないだろうが、魔王の部屋に呪いが住み着くのも外聞が悪い。

「消す方法を考えましょう」

「おや、それなら簡単ですよ」

 翡翠竜アムドゥスキアスが欠伸をしながら身を起こした。婚約者の膝や抱っこが気に入った彼は、ミニチュア竜の形を取ったまま、人型や元のサイズになろうとしない。アクセサリーとして人気のある翡翠色の鱗を足の先でぽりぽり掻きながら、簡単と断じた内容を話し始めた。

「姫がおっしゃられたでしょう? 依代がなくなったのなら、新しい依代を用意すればいいのです」

 しんと静まった部屋は、少しして意見が二つに分かれた。

「すごいわ。そのとおりね」

 称賛の声が少女達から上がるが、召喚者や大公は首を横に振って辛辣な意見を吐き出す。

「依代が気に入らない場合はどうするのですか」

「依代用意しても、結局呪われるんでしょう?」

「成仏してもらえばいいじゃない」

 最後のアンナの意見に、全員が注目する。突然美形や美女達に詰め寄られたアンナは、びくりと肩を揺らして兄の手を握った。イザヤがしっかり握り返す。

「……リア充め」

 ぶつぶつ文句を言うアベルの声は、周囲の声にかき消される。彼のリア充を呪う言霊が、新たな曰く付きを作り出しそうな黒さを纏っていた。

「「「「成仏って何ですか?」」」」

 この世界にはない概念だ。丁寧にイザヤとアンナで説明をしてみたが、宗教観がない魔族にはピンと来なくて、神様仏様の部分を魔王様に置き換えたら余計に混乱させた。最終的に「異世界の文化」という便利な言葉で誤魔化したが……。

「依代を用意して渡してみて、気に入らなければ考えることとしよう」

 ひとまず試してみることにした。ルシファーとしては他に有効な方法がない以上、試してみたいのだ。このまま放置して私室を幽霊なる存在に明け渡すのは避けたい。あの部屋はリリスとの愛の巣だった。抱っこして寝かしつけた記憶もあるテラスは、返してもらいたい。

 拳を握って何やら気合を入れるルシファーに、リリスはにこにこ笑いながら手を差し出した。

「じゃあ、全員曰く付きの品を身につけて上に行きましょう? そしたらきっと彼女と会話が出来るわ」

 次の瞬間、素早くアスタロトの手がヴァレンティーノの指輪を掴んだ。ベールは無言でエリドネの指輪とパンドラの箱を手にして、ルキフェルに指輪をはめる。どうやら、この辺りは危険な品らしい。万が一にも少女達や召喚者が身につけると、即死レベルだった。

「……比較的安全な物を残しましたが」

 気遣うようなアスタロトの視線に、ルシファーも残った品を眺める。ハルモニアの首飾りは危険が少ない。多少婚期に影響が出るかもしれないが……その程度だ。アンジェリカの指輪は、運が悪いと数日姿が透明になるかも知れない。エスメラルダの涙も、種族によっては吸血衝動が出る程度だ。

 呪われた装飾品を並べ直し、左右に分け始めた。実害があるものと諦められる範囲の呪いを、検討しながら並べていく。ヴィーヴルの指輪は嵌めると髪の毛が蛇になる……らしい。誰も試していないので定かではないが、外せばいいなら実害は少ないか。

 ルシファーが悩みながら記憶を頼りにわけた片方へ、少女達の視線が注がれた。ほとんどの効果は「試してみないとわからない」「種族によって効果が異なる」呪いばかりだ。

「装着する前に、手に取ってしばらく様子を見るように」

 嫌な注意をされたが、一番最初に手を伸ばしたのはアンナだった。緑柱石の耳飾りを手に取る。イザヤとひとつずつ手に取り「お揃い」と嬉しそうに笑った。

 ルーサルカが恐る恐るアンジェリカの指輪を手に乗せ、シトリーがカーバンクルの石を握りしめた。迷いながらドラウプニルの腕輪を掴んだレライエは、翡翠竜にリネットの指輪を腕輪がわりに嵌める。婚約者から指輪をはめてもらい、嬉しそうに尻尾を揺らした。

 最後にルーシアがプロメテウスの壷を掴む。イポスも迷いながら、残ったハルモニアの首飾りを手の上に乗せた。とりあえず、現時点で誰も異常はない。

「よし、順番に装着してみようか」

 ルシファーの声に、怯える少女達は顔を見合わせて溜め息をついた。
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