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47章 お祭り前の大掃除
635. 愚者が招いた惨劇
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人々が駆け込む先にある建物は、救いを求める宗教施設や医療設備の整った場所が一般的だ。しかし流れと逆方向に逃げる数人を見つけた。エドモンド達による追跡の結果、街を抜けた先にある木造の小屋に吸い込まれていく。
しばらく待つが後から追いかけてくる人族もなく、中にいる者の異常な行動を際立たせた。ばたばたと物音が聞こえ、逃げるための準備をしている様子だ。問題の魔法陣があるか確証はないが、すぐにベール大公へ魔力を込めた声を届けた。
地面や壁に直接描いた魔法陣を大急ぎで描き移す男達の後ろに、音もなく銀髪の美青年が現れる。転移魔法の光で気づいた者が振り返り、仲間ではない青年へ叫んだ。
「お前、どこから入った?! 出て行け」
「これでも一応魔術師なのですか」
疑問ですらない。呆れ声のベールが、右手で攻撃を防ぐ。結界はあるが、目に見える形で手をかざして防いだ風が吹き抜けた。鋭い槍のように襲いかかった風は、近くにいる精霊によって微風に変えられる。銀髪を揺らす風に続き、今度は氷が、さらに炎が投げつけられた。
「これでは弱い者虐めになってしまいます」
溜め息をついて嘆くベールだが、獲物を逃す気はない。他の大公が捕まえに行った獲物より質は悪いし数も少ないので、正直がっかりしたが。
魔王の治世に汚点となる者達だ。しっかり捕獲して持ち帰らねばならない。描き移していた紙を取り落とし、我が身ひとつで逃げ出す男達を追った。一振りで長さと強度を調整した爪が、魔術師達を襲う。
「うわあああ!!」
「化け物だ」
飛び出す男達の身体は傷だらけだった。致命傷にならぬよう気を使って、爪による傷だけに留めたのだ。逃げる黒衣の男達を追うベールは、真っ赤に染まった長い爪で銀髪をかき上げた。太陽の明るい日差しに光る髪に、赤い血がべたりとつく。しかし当人は口元を歪めて楽しそうに笑う。
「化け物、ですか? あなた方に褒められるとは思いませんでした」
この場の魔術師達が研究していたのは、捕らえた魔族と人族の混血だ。魔法陣で別種族同士を融合させ、無理やり新たな生命を生み出そうとした。それは母なる魔の森への冒涜であり、異世界の者に許される権限を超えている。森の外の僅かな隙間で、ひっそり生きていく権利を与えたに過ぎないのに、人族は傲慢にも魔族を手に掛けた。
残念ながら捕らえた魔族や魔物は、すでに魔法陣により混ぜられ、失敗作として遺棄されていた。その無念さを思えば、この場で引き裂いても足りない。
「ならば、返礼が必要ですね」
人を名乗る彼らと同じ扱いをされない感謝を込め、嫌味を盛大に振りまきながら、ベールは長い爪を一振りした。逃げる獲物を見ると追いたくなるのは、ベールに限った習性ではない。魔族ならほとんどの種族が同じだろう。上空を旋回するドラゴンも、羨ましそうに目を細めて唸り声を上げた。
「今回は獲物が少ないので、砦に狩りに出ても構いませんよ」
この場にいる愚か者達は、他の大公と約束した手前分けられないが、この先に砦がひとつある。そこならば狩りの場として提供すると匂わせた。大公の確約に、エドモンドは高い声で鳴く。その一声に、上空の魔族が方向を変えて魔の森に向かった。
街の中から「助かった」と喜ぶ者や「帰ったのか?」と見当違いな声が聞こえる。そんな彼らを魔狼が地上から蹂躙した。事前に決めたルートを走り抜ける彼らは、手の届く範囲で獲物を狩りながら、一周して街の外れにある丘に戻る。
「獲物は足りますか?」
捕まえた魔術師を縛り上げたベールが問うと、進み出たセーレが「まだ足りませぬ」と不満げな声をあげた。一族への土産として、もう少し数が欲しい。強請る唸り声を響かせたセーレの柔らかな毛皮を撫で、ベールが街の一角を指さした。
「あの辺りで狩りを許可します。子供は捕まえてはなりません」
どれほど残酷な種族であれ、子供に罪はない。いずれ罪を犯すとしても、手を汚す前に断罪する権利は誰にもなかった。だから子供の捕獲は認めないと口にすれば、道理を弁えたフェンリルは、遠吠えで配下に命令を徹底する。平伏して敬意を示すと踵を返して走り出した。
向かう先は、魔王軍が向かった砦とは別の方角だ。あちこちで悲鳴と怒声、嘆願の声が上がるが……魔の森は沈黙している。それこそが、この世界が示す答えだった。
しばらく待つが後から追いかけてくる人族もなく、中にいる者の異常な行動を際立たせた。ばたばたと物音が聞こえ、逃げるための準備をしている様子だ。問題の魔法陣があるか確証はないが、すぐにベール大公へ魔力を込めた声を届けた。
地面や壁に直接描いた魔法陣を大急ぎで描き移す男達の後ろに、音もなく銀髪の美青年が現れる。転移魔法の光で気づいた者が振り返り、仲間ではない青年へ叫んだ。
「お前、どこから入った?! 出て行け」
「これでも一応魔術師なのですか」
疑問ですらない。呆れ声のベールが、右手で攻撃を防ぐ。結界はあるが、目に見える形で手をかざして防いだ風が吹き抜けた。鋭い槍のように襲いかかった風は、近くにいる精霊によって微風に変えられる。銀髪を揺らす風に続き、今度は氷が、さらに炎が投げつけられた。
「これでは弱い者虐めになってしまいます」
溜め息をついて嘆くベールだが、獲物を逃す気はない。他の大公が捕まえに行った獲物より質は悪いし数も少ないので、正直がっかりしたが。
魔王の治世に汚点となる者達だ。しっかり捕獲して持ち帰らねばならない。描き移していた紙を取り落とし、我が身ひとつで逃げ出す男達を追った。一振りで長さと強度を調整した爪が、魔術師達を襲う。
「うわあああ!!」
「化け物だ」
飛び出す男達の身体は傷だらけだった。致命傷にならぬよう気を使って、爪による傷だけに留めたのだ。逃げる黒衣の男達を追うベールは、真っ赤に染まった長い爪で銀髪をかき上げた。太陽の明るい日差しに光る髪に、赤い血がべたりとつく。しかし当人は口元を歪めて楽しそうに笑う。
「化け物、ですか? あなた方に褒められるとは思いませんでした」
この場の魔術師達が研究していたのは、捕らえた魔族と人族の混血だ。魔法陣で別種族同士を融合させ、無理やり新たな生命を生み出そうとした。それは母なる魔の森への冒涜であり、異世界の者に許される権限を超えている。森の外の僅かな隙間で、ひっそり生きていく権利を与えたに過ぎないのに、人族は傲慢にも魔族を手に掛けた。
残念ながら捕らえた魔族や魔物は、すでに魔法陣により混ぜられ、失敗作として遺棄されていた。その無念さを思えば、この場で引き裂いても足りない。
「ならば、返礼が必要ですね」
人を名乗る彼らと同じ扱いをされない感謝を込め、嫌味を盛大に振りまきながら、ベールは長い爪を一振りした。逃げる獲物を見ると追いたくなるのは、ベールに限った習性ではない。魔族ならほとんどの種族が同じだろう。上空を旋回するドラゴンも、羨ましそうに目を細めて唸り声を上げた。
「今回は獲物が少ないので、砦に狩りに出ても構いませんよ」
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街の中から「助かった」と喜ぶ者や「帰ったのか?」と見当違いな声が聞こえる。そんな彼らを魔狼が地上から蹂躙した。事前に決めたルートを走り抜ける彼らは、手の届く範囲で獲物を狩りながら、一周して街の外れにある丘に戻る。
「獲物は足りますか?」
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向かう先は、魔王軍が向かった砦とは別の方角だ。あちこちで悲鳴と怒声、嘆願の声が上がるが……魔の森は沈黙している。それこそが、この世界が示す答えだった。
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