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41章 溺愛の弊害
545. 幻獣の子が攫われたようです
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がさりと物音がして、飛び出した数人が剣を抜く。魔の森が成長したことで、外縁から入り込む人族の数が増えていた。今回もその類だろう。目的は不明だが、狩りや木の伐採か。
「何だ、人……? いや、違うっ!!」
「魔族だ、殺せ」
感動の場面を台無しにされたルシファーが、舌打ちして振り返ろうとした。しかし純白の髪を引っ張る幼女がストップをかける。
「パパ、これ」
服の袖でごしごしと顔を拭かれ、泣いていた事実を思い出す。危うく黒歴史を増やすところだった。魔王の泣き顔など外に出せない。拭いた後になって、首にかけたポーチからハンカチを取り出した。リリスも慌てていたらしい。もう一度ハンカチで目元を拭いてくれた。
「助かった」
「うん」
治癒魔法を発動して目元の腫れも消し、腕の中の幼女の捲れかけたスカートも指先で戻した。完璧に身支度を整えてから徐に振り返る。純白の髪と白い肌、銀の瞳に正体がバレるかと思ったが、人族は気づいていない。
「死ね!」
「火よ、我に力を」
ふわりと暖かな風がルシファーの髪を揺らす。火魔法だが、結界に阻まれそよ風となって吹き抜けた。慌てた人族が射た矢が、風の精霊によって逸らされる。この辺りは風の精霊たるシルフ達の領域が近いため、人族の気配にざわつき始めた。
どうやら魔術師も混じっているらしい。冒険者と呼ばれる類ならば、魔族狩りの可能性もあった。まだ魔王だと気づいていないが、今のうちに片づけた方がよさそうだ。鏃に刻まれた記号が氷を作り出し、結界に触れる直前に解除された。
人族には見えていないが、駆け付けた風の精霊が魔法を解除していく。結界の外側でふわふわと舞う小さな精霊が一礼して、リリスが伸ばした手に触れた。きゅっと握手のように握り合い、リリスはルシファーに促されて手を引っ込める。
「パパ、柔らかいよ」
「よかったな」
親子の会話は、人族にとって意味不明だった。彼らの目に精霊は見えていない。直接目に見えるルシファーのみを脅威として、剣が襲い掛かる。結界で弾くことも簡単だが、ルシファーは自ら動いた。
「シルフよ下がれ、デスサイズ」
呼ばれて顕現した鎌の柄を掴み、一振りして剣に変えた。ケルベロスの形態を取ることもある鎌は、美しい半透明の剣となって魔王の手に収まる。
鋭い一閃を放った人族の攻撃を、右腕のみで防いだ。きんと澄んだ音がした剣の刃を傾けて、力を受け流す。そのままくるりと持ち替えた剣の角度を利用し、斬りかかった男の剣を根元近くで折った。圧倒的な実力差に、男は柄を放り出して逃げ出す。
「ば、ばけものだ」
「ひっ……」
命じられて後ろに控えたシルフ達が足元の蔓を操り、転んだ人族を空高く舞い上げる。化け物呼ばわりしたことが癇に障ったのだろう。精霊は総じてプライドが高い。舞い上げた魔術師や剣士が落ちてくることはなく、残された数人も背を向けて逃げた。
「パパ、もう終わり?」
「そうだ」
不思議そうな顔をしたリリスが「何だろうね」と呟く。確かにその通りだと苦笑いしたルシファーだが、直後にシルフが運んだ情報に眉をひそめた。
『幻獣の子が攫われました!』
今襲い掛かってきた人族の中に、幻獣らしき魔力は感じなかった。つまり彼らは攻撃や斥候のような役割で、捕獲した人族が別にいたのだ。シルフが拾った幻獣の悲鳴は、風を使って伝達された。
魔の森は広い。外縁で行われた蛮行は、人族の領域に逃げ込まれる可能性を示唆していた。また都や砦に立て籠もられると面倒だ。
ぎゅっと腕に力を込めた。大人しく髪を握るリリスが不安そうな表情を浮かべる。以前自分が攫われた記憶が過ったのか、酷いことをされると心配しているのか。ルシファーにとってはどちらでも同じだった。最愛のリリスを不安がらせた、この一点だけで万死に値する。
「アスタロト、ベルゼビュート」
名を呼ぶ。僅かに魔力を含ませた召喚の響きに、当事者は即座に反応した。
「何だ、人……? いや、違うっ!!」
「魔族だ、殺せ」
感動の場面を台無しにされたルシファーが、舌打ちして振り返ろうとした。しかし純白の髪を引っ張る幼女がストップをかける。
「パパ、これ」
服の袖でごしごしと顔を拭かれ、泣いていた事実を思い出す。危うく黒歴史を増やすところだった。魔王の泣き顔など外に出せない。拭いた後になって、首にかけたポーチからハンカチを取り出した。リリスも慌てていたらしい。もう一度ハンカチで目元を拭いてくれた。
「助かった」
「うん」
治癒魔法を発動して目元の腫れも消し、腕の中の幼女の捲れかけたスカートも指先で戻した。完璧に身支度を整えてから徐に振り返る。純白の髪と白い肌、銀の瞳に正体がバレるかと思ったが、人族は気づいていない。
「死ね!」
「火よ、我に力を」
ふわりと暖かな風がルシファーの髪を揺らす。火魔法だが、結界に阻まれそよ風となって吹き抜けた。慌てた人族が射た矢が、風の精霊によって逸らされる。この辺りは風の精霊たるシルフ達の領域が近いため、人族の気配にざわつき始めた。
どうやら魔術師も混じっているらしい。冒険者と呼ばれる類ならば、魔族狩りの可能性もあった。まだ魔王だと気づいていないが、今のうちに片づけた方がよさそうだ。鏃に刻まれた記号が氷を作り出し、結界に触れる直前に解除された。
人族には見えていないが、駆け付けた風の精霊が魔法を解除していく。結界の外側でふわふわと舞う小さな精霊が一礼して、リリスが伸ばした手に触れた。きゅっと握手のように握り合い、リリスはルシファーに促されて手を引っ込める。
「パパ、柔らかいよ」
「よかったな」
親子の会話は、人族にとって意味不明だった。彼らの目に精霊は見えていない。直接目に見えるルシファーのみを脅威として、剣が襲い掛かる。結界で弾くことも簡単だが、ルシファーは自ら動いた。
「シルフよ下がれ、デスサイズ」
呼ばれて顕現した鎌の柄を掴み、一振りして剣に変えた。ケルベロスの形態を取ることもある鎌は、美しい半透明の剣となって魔王の手に収まる。
鋭い一閃を放った人族の攻撃を、右腕のみで防いだ。きんと澄んだ音がした剣の刃を傾けて、力を受け流す。そのままくるりと持ち替えた剣の角度を利用し、斬りかかった男の剣を根元近くで折った。圧倒的な実力差に、男は柄を放り出して逃げ出す。
「ば、ばけものだ」
「ひっ……」
命じられて後ろに控えたシルフ達が足元の蔓を操り、転んだ人族を空高く舞い上げる。化け物呼ばわりしたことが癇に障ったのだろう。精霊は総じてプライドが高い。舞い上げた魔術師や剣士が落ちてくることはなく、残された数人も背を向けて逃げた。
「パパ、もう終わり?」
「そうだ」
不思議そうな顔をしたリリスが「何だろうね」と呟く。確かにその通りだと苦笑いしたルシファーだが、直後にシルフが運んだ情報に眉をひそめた。
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