525 / 1,397
38章 弊害が呼ぶ侵略者
522. すっぽん鍋という美容法
しおりを挟む
楽しそうに駆け回るリリスと手を繋いだ鱗のある少年は、集まってきた別の魔族の子供も一緒になって遊び始めた。追いかけっこの外側をアラエル、少女達4人、護衛のイポスが囲むことで安全は確保されている。誰かに攫われる心配より、転んで燃える薪に突っ込んだりケガをする方が懸念された。
何にしろ魔族の子は人族より頑強なことが多く、致命傷でなければ治癒魔法もある。過大な心配は必要ないので、事故がないよう見守る形だった。別の意味で魔王の焼きもちが発動したら危険なので、ルシファーの反応次第で引き剥がすよう、少女達に大公閣下から命令が下っている。
「なあ……距離が近くないか?」
「そうでしょうか」
笑顔で誤魔化すルーサルカが間に入るが、ルシファーはリリスが心配で仕方ない。ケガをする心配はないが、仮にも異性と手を繋ぐのはどうだろう。子供だからと許されるのか? いや、彼らはまだ正式に魔族として認めてないから、罰則が適用にならない……ん? そういう問題じゃないだろう。
オレが妻の心配をして何が悪い!
暴走しかけたルシファーに気づいたアスタロトが、さらりとリリスを回収して運んできた。珍しくアスタロトに抱っこされた幼女は、嬉しそうにアスタロトの金髪を引っ張る。以前からきらきらした物が好きなリリスなので、溜め息をついて髪を数本渡したアスタロトだった。
下手に泣かせたら、ルシファーに目の敵にされそうだ。
「おいで、リリス」
抱き締めて頬ずりする。やっと戻ってきたリリスと手を繋いだルシファーは、満面の笑みで幼女の頬にキスを降らせた。
「パパ、擽ったい」
リリスが笑いながらルシファーの髪を引っ張る。この癖だけはどうしても直らないが、理由ははっきりしていた。ルシファーが叱らないからだ。
酒を飲まされたアベルがふら付きながら近づき、持ってきた深皿をイザヤに渡した。
「もうダメだ、食べられない~」
どちらかと言えば、もう飲めないの間違いだろう。真っ赤な顔でげらげら笑いながら、すっぽん鍋をよそった深皿の中身を覗いたアンナが「これ、すっぽんかしら?」と首をかしげた。
「おそらく、すっぽんだと思います」
アスタロトが肯定したことで、アンナの目の色が変わる。
「これ、高級食材ですよ! お肌がぷるんぷるんになるやつです!!」
興奮した口調でまくしたてたアンナの声は大きく、少女達にも届いた。ぐるんと音が聞こえそうな勢いで、周囲の女性達が振り向く。その目は、アンナの手元のすっぽん鍋の入った深皿に釘付けだった。
「あの、アンナ嬢……すっぽんは、お肌にいいのですか?」
ルーシアが声をかけると、アンナは素直に頷いた。
「私の世界ではコラーゲンがあって、肌に艶やハリが戻ると有名な食材ですよ」
次の瞬間、女性達が凄い勢いで鍋に群がった。近くでくだを巻いていたドワーフ達が押しのけられ、隅に追いやられていく。駆け込んだ女性達は数千人分のすっぽん鍋の汁や具を掻き込んだ。その姿に普段の優雅さや美しさはない。
我先にと鍋の中身を口に流し込む。いくら美容によい食べ物でも、そんなにたくさん食べて害はないのだろうか。心配になる反面、彼女らの勢いに押されて何も言えなかった。
「怖いな」
「皆さん必死ですね」
なぜか若い少女達も含まれている。女性の美への執着に恐怖心を覚える男性陣は遠巻きに、鍋を貪る女性達を見守った。こっそり女性達の輪に加わるイポスや女性騎士もいる。
「ところで、アンナ嬢と彼らの会話に使う言語は珍しいものか?」
リリスが鍋の縁に口をつけて直接スープを飲もうとするのを止めて、大きなスプーンを渡す。木製のスプーンを使って、リリスはスープを口に流した。啜って飲まず、上を向いて流し込んだので咽て咳き込む。最近行儀が悪いが、誰か悪い見本でもいるのだろうか。
咽せたリリスの背を叩きながら、見つけ次第犯人を殴ることに決めたルシファーは眉をひそめた。
豪快なリリスの食べ方に茫然としながら、アンナはなんとか会話の内容に返事をする。
「学校で習った英語が通じました。私は全教科の中で英語が一番得意でしたから、何とか日常会話は出来ます」
「ほう、優秀な学校だ」
「この世界より進んでいます」
一度も聞いたことがない言語を教えられていたと知り、驚きに目を瞠った。異世界の学校のレベルが高いのか、真剣に考え込んでしまう。執政者として民の学力向上は重要な課題なのだ。
「魔王様が真剣に捉えているところ申し訳ないが、世界の共通語として制定された言語がたまたま通じただけだと思う」
口下手なイザヤが必死で説明を終えるまでに、アスタロトとルシファーの間で教育に関する熱い談議が行われ、周囲の貴族や軍人を巻き込んで新しい学校設立に向けた話が進んでいた。
何にしろ魔族の子は人族より頑強なことが多く、致命傷でなければ治癒魔法もある。過大な心配は必要ないので、事故がないよう見守る形だった。別の意味で魔王の焼きもちが発動したら危険なので、ルシファーの反応次第で引き剥がすよう、少女達に大公閣下から命令が下っている。
「なあ……距離が近くないか?」
「そうでしょうか」
笑顔で誤魔化すルーサルカが間に入るが、ルシファーはリリスが心配で仕方ない。ケガをする心配はないが、仮にも異性と手を繋ぐのはどうだろう。子供だからと許されるのか? いや、彼らはまだ正式に魔族として認めてないから、罰則が適用にならない……ん? そういう問題じゃないだろう。
オレが妻の心配をして何が悪い!
暴走しかけたルシファーに気づいたアスタロトが、さらりとリリスを回収して運んできた。珍しくアスタロトに抱っこされた幼女は、嬉しそうにアスタロトの金髪を引っ張る。以前からきらきらした物が好きなリリスなので、溜め息をついて髪を数本渡したアスタロトだった。
下手に泣かせたら、ルシファーに目の敵にされそうだ。
「おいで、リリス」
抱き締めて頬ずりする。やっと戻ってきたリリスと手を繋いだルシファーは、満面の笑みで幼女の頬にキスを降らせた。
「パパ、擽ったい」
リリスが笑いながらルシファーの髪を引っ張る。この癖だけはどうしても直らないが、理由ははっきりしていた。ルシファーが叱らないからだ。
酒を飲まされたアベルがふら付きながら近づき、持ってきた深皿をイザヤに渡した。
「もうダメだ、食べられない~」
どちらかと言えば、もう飲めないの間違いだろう。真っ赤な顔でげらげら笑いながら、すっぽん鍋をよそった深皿の中身を覗いたアンナが「これ、すっぽんかしら?」と首をかしげた。
「おそらく、すっぽんだと思います」
アスタロトが肯定したことで、アンナの目の色が変わる。
「これ、高級食材ですよ! お肌がぷるんぷるんになるやつです!!」
興奮した口調でまくしたてたアンナの声は大きく、少女達にも届いた。ぐるんと音が聞こえそうな勢いで、周囲の女性達が振り向く。その目は、アンナの手元のすっぽん鍋の入った深皿に釘付けだった。
「あの、アンナ嬢……すっぽんは、お肌にいいのですか?」
ルーシアが声をかけると、アンナは素直に頷いた。
「私の世界ではコラーゲンがあって、肌に艶やハリが戻ると有名な食材ですよ」
次の瞬間、女性達が凄い勢いで鍋に群がった。近くでくだを巻いていたドワーフ達が押しのけられ、隅に追いやられていく。駆け込んだ女性達は数千人分のすっぽん鍋の汁や具を掻き込んだ。その姿に普段の優雅さや美しさはない。
我先にと鍋の中身を口に流し込む。いくら美容によい食べ物でも、そんなにたくさん食べて害はないのだろうか。心配になる反面、彼女らの勢いに押されて何も言えなかった。
「怖いな」
「皆さん必死ですね」
なぜか若い少女達も含まれている。女性の美への執着に恐怖心を覚える男性陣は遠巻きに、鍋を貪る女性達を見守った。こっそり女性達の輪に加わるイポスや女性騎士もいる。
「ところで、アンナ嬢と彼らの会話に使う言語は珍しいものか?」
リリスが鍋の縁に口をつけて直接スープを飲もうとするのを止めて、大きなスプーンを渡す。木製のスプーンを使って、リリスはスープを口に流した。啜って飲まず、上を向いて流し込んだので咽て咳き込む。最近行儀が悪いが、誰か悪い見本でもいるのだろうか。
咽せたリリスの背を叩きながら、見つけ次第犯人を殴ることに決めたルシファーは眉をひそめた。
豪快なリリスの食べ方に茫然としながら、アンナはなんとか会話の内容に返事をする。
「学校で習った英語が通じました。私は全教科の中で英語が一番得意でしたから、何とか日常会話は出来ます」
「ほう、優秀な学校だ」
「この世界より進んでいます」
一度も聞いたことがない言語を教えられていたと知り、驚きに目を瞠った。異世界の学校のレベルが高いのか、真剣に考え込んでしまう。執政者として民の学力向上は重要な課題なのだ。
「魔王様が真剣に捉えているところ申し訳ないが、世界の共通語として制定された言語がたまたま通じただけだと思う」
口下手なイザヤが必死で説明を終えるまでに、アスタロトとルシファーの間で教育に関する熱い談議が行われ、周囲の貴族や軍人を巻き込んで新しい学校設立に向けた話が進んでいた。
24
お気に入りに追加
4,963
あなたにおすすめの小説
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる