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34章 魔王に対する侮辱
459. お供いたします
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機嫌が悪いのはどうしようもないが、苛立ちをぶつけていい相手とマズイ相手は判断できる。むかむかする胸元を、リリスの小さな手が撫でてくれた。
「黒いの黒いの飛んでけ」
ケガをした際に覚えたお呪いが、改変されて呟かれる。癒される幼女の仕草に、顔は笑みを浮かべていた。この子がいる限り、以前のように暴走することはない。そう言い切れる今が幸せだった。
「みやこ壊すの?」
「そうだよ」
「雷どーん! していい?」
リリスは大きな花火を打ち上げる程度の感覚なのだろう。壊していい物相手で、近くにルシファーがいるなら約束違反じゃないと考えたらしい。大きな赤い目を瞬きながら尋ねる娘に、頬ずりして「いいよ」と許可をだした。
「オレが指示したところだぞ」
「うん!」
嬉しそうに笑うこの子に罪はない。亡びる国の首都を破壊する行為になんらかの罪が生じるなら、それは魔王である自分が背負えばいい。黒髪にキスをして「一緒に行こうな」と提案すれば、幼女は嬉しそうに笑った。
「では陛下、お供いたします」
「お前も来るのか」
意外そうに言われ、アスタロトは苦笑いした。
「いつもご一緒してきたと思いますが」
「まだ捕らえた貴族の処分が終わっていないのではないか?」
戻ってくるなり別の騒動で忙しかっただろうと突きつけてくるあたり、無能なようで優秀な君主なのだ。自分のことで手いっぱいになってもおかしくない仕事量をこなしながら、きちんと他者のスケジュールや状況に目を配っている。しかも本人は当たり前だと思っていた。
「終わっておりませんが、ドライアドが協力を申し出てくれましたので。逃がしはしません」
森の木々を操る樹人族は花人族と近い種族だ。彼女らを傷つけた人族に対し、思うところがあるのだろう。あの広場から遠くへ逃げそうになったら追い返す協力を取り付けたアスタロトは、数日放っておくつもりでいた。
鬱蒼とした魔の森の奥地で、彼らは魔族に怯えながら逃げ回る。魔物の咆哮を聞き、草陰で物音に怯え、寒さに震えながら夜を明かせばいい。昼間の移動も薄暗い魔の森では儘ならず、多少離れたところでドライアドに誘導されて広場にもどされるはずだ。
絶望感が最高潮に達したところで、自分の出番だった。他種族にもそれなりの配慮は必要ですし、懲罰として効果が高そうです。機嫌よく答えたアスタロトの笑顔に、彼らの冥福を祈るしかなかった。
駆け込んだベールは怯える勇者達を一瞥すると、そのまま再び走り出した。魔力の残滓が強く残っていたので、この部屋に飛び込んだが、どうやら移動していたらしい。もう一度魔力感知を行いながら、ルキフェルを探した。
あれだけ濃厚な魔力が残したなら、相当怒っているだろう。ルシファーの信頼に応えられなかったと落ち込む前に、見つけて声を掛けたかった。
「ルキフェル」
扉を壊さんばかりの勢いで開くと、執務室のソファで膝を抱えて寝ころぶ子供の姿があった。幼児の頃から変わらない癖は、叱られたり失敗したりするとよく見せる。がりがりと指の爪を噛む姿は拗ねているようで、懐かしさに力が抜けた。
歩み寄ってソファの空いたスペースに腰掛ける。当然とばかり無言のルキフェルが膝の上に頭を乗せた。膝枕をしろと望む前に行動するのは、それだけ甘やかされ許されて成長した証拠だ。
「落ち着きましたか?」
「すこし、ね」
「立派でした」
「うん」
怒りに任せて勇者を処分しなかったこと、魔王にきちんと礼を取って謝罪し言い訳しなかったこと。どちらも大公として相応しい在り様でした。そう告げるベールに甘えるルキフェルは、膝に埋めた顔をあげずに頷いた。
「黒いの黒いの飛んでけ」
ケガをした際に覚えたお呪いが、改変されて呟かれる。癒される幼女の仕草に、顔は笑みを浮かべていた。この子がいる限り、以前のように暴走することはない。そう言い切れる今が幸せだった。
「みやこ壊すの?」
「そうだよ」
「雷どーん! していい?」
リリスは大きな花火を打ち上げる程度の感覚なのだろう。壊していい物相手で、近くにルシファーがいるなら約束違反じゃないと考えたらしい。大きな赤い目を瞬きながら尋ねる娘に、頬ずりして「いいよ」と許可をだした。
「オレが指示したところだぞ」
「うん!」
嬉しそうに笑うこの子に罪はない。亡びる国の首都を破壊する行為になんらかの罪が生じるなら、それは魔王である自分が背負えばいい。黒髪にキスをして「一緒に行こうな」と提案すれば、幼女は嬉しそうに笑った。
「では陛下、お供いたします」
「お前も来るのか」
意外そうに言われ、アスタロトは苦笑いした。
「いつもご一緒してきたと思いますが」
「まだ捕らえた貴族の処分が終わっていないのではないか?」
戻ってくるなり別の騒動で忙しかっただろうと突きつけてくるあたり、無能なようで優秀な君主なのだ。自分のことで手いっぱいになってもおかしくない仕事量をこなしながら、きちんと他者のスケジュールや状況に目を配っている。しかも本人は当たり前だと思っていた。
「終わっておりませんが、ドライアドが協力を申し出てくれましたので。逃がしはしません」
森の木々を操る樹人族は花人族と近い種族だ。彼女らを傷つけた人族に対し、思うところがあるのだろう。あの広場から遠くへ逃げそうになったら追い返す協力を取り付けたアスタロトは、数日放っておくつもりでいた。
鬱蒼とした魔の森の奥地で、彼らは魔族に怯えながら逃げ回る。魔物の咆哮を聞き、草陰で物音に怯え、寒さに震えながら夜を明かせばいい。昼間の移動も薄暗い魔の森では儘ならず、多少離れたところでドライアドに誘導されて広場にもどされるはずだ。
絶望感が最高潮に達したところで、自分の出番だった。他種族にもそれなりの配慮は必要ですし、懲罰として効果が高そうです。機嫌よく答えたアスタロトの笑顔に、彼らの冥福を祈るしかなかった。
駆け込んだベールは怯える勇者達を一瞥すると、そのまま再び走り出した。魔力の残滓が強く残っていたので、この部屋に飛び込んだが、どうやら移動していたらしい。もう一度魔力感知を行いながら、ルキフェルを探した。
あれだけ濃厚な魔力が残したなら、相当怒っているだろう。ルシファーの信頼に応えられなかったと落ち込む前に、見つけて声を掛けたかった。
「ルキフェル」
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「落ち着きましたか?」
「すこし、ね」
「立派でした」
「うん」
怒りに任せて勇者を処分しなかったこと、魔王にきちんと礼を取って謝罪し言い訳しなかったこと。どちらも大公として相応しい在り様でした。そう告げるベールに甘えるルキフェルは、膝に埋めた顔をあげずに頷いた。
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