445 / 1,397
33章 人族の勢力バランスなんて知らん
442. 楽しみを邪魔する強烈な横槍
しおりを挟む
鳳凰アラエルの背に再び乗せられたピヨは、空飛ぶ災厄となっていた。人々が吉兆の神獣として崇める鳳凰が舞う先で、鸞鳥ピヨは容赦なく炎を放つ。レンガ造りの建物が多い首都は、火事への対策を兼ねているのだろう。燃えやすい素材を極力減らした都も、鳳凰族には勝てなかった。
街の建物は火が燃え広がるのではなく、吐いた炎が直撃したレンガが溶けてどろりと流れ出す。溶岩に似た流れの周囲で、馬車や窓枠など木材が発火した。逃げ惑う人々を追いかける形で炎を吐く。それでも街の北側だけに限って攻撃しているのは、他の区画を精霊や魔獣が駆けまわっているためだ。
間違えて魔族を攻撃したら気の毒だ。そこはルシファーの指示もあり、人族が逃げ込んだ北側を任されたアラエルの飛行技術により、魔族の安全が担保されていた。
「ピヨ、上手だ。すごいぞ」
褒め上手な番のアラエルに乗せられたピヨは、ご機嫌で足踏みしながら首を左右に振る。溜めた炎を勢いよく吐き出した。途中でたまにアラエルの翼にぶつかるが、鳳凰同士は互いを傷つけない。アラエルが翼で炎の向きを変えて、きちんと地上に叩き落とした。
「ピヨ~!」
地上が熱くなった頃、聞き慣れたリリスの声に呼ばれる。足元はすでに爆撃する場所が残っていなかった。大炎上する街を一周回って、アラエルは都中央の魔王めがけて下降する。
「とまれ!!」
叫んだヤンの上に、ピヨが勢いよく飛び降りる。あたふたして背中で受け止めたフェンリルが、飛び上がった。
「あちっ!!」
「あ、ママごめんね」
先ほどまで炎を吐いていた熱い嘴が、ヤンの耳に触ったらしい。それでも我慢してピヨを落とさないあたり、しっかり母親役が身についていた。魔獣と一緒に街を走っていたヘルハウンドが戻り、息子のセーレも顔を見せる。アラエルが降り立つと、商家の前は一杯だった。
小山サイズのフェンリルが2匹いる時点で、すでに狭い。アラエルも翼を畳んで小さくなるが、窮屈さは大して変わらなかった。ヤンがまず小型化し、セーレも従う。
リリスが手を振りながら興奮した様子で声をあげた。
「パパ、あれすごい!!」
彼女が指さす先に、巨大な魔法陣が浮かんでいる。街全体を覆う魔法陣を読み解く前に発動した。
ドン!!
派手な爆音の直後に、まず音が消えた。強烈な光が走って闇が消える。光が拡散していき、ルシファーはゆっくり目を開いた。最初に確認したのはリリスの無事だ。両手で目を覆う幼女は「もう平気?」と手を離した。
手の平で目を隠した仕草が可愛くて、頬にキスをひとつする。足元の勇者アベルは、背負ったはずの聖女の上に覆いかぶさっていた。咄嗟に庇ったのだろう。背後に控えたイポスが剣を抜いているが、明るすぎた光に手を翳して目を細める。
「陛下、状況がわかるまで私の後ろへお下がりください」
「いや……危険ならなおさら余が先頭に立つべきであろう」
人族ならば王侯貴族は真っ先に逃げる。しかし魔族の王は人々の先に立つのが役目だった。一番高い能力を持つのが魔王ならば、もっとも敵に対して有効な存在なのだ。民を守ることを自ら選んだルシファーに、配下の後ろへ下がる選択肢はなかった。
「陛下」
光が薄れて出来た影に、アスタロトが姿を現す。一礼して斜め後ろに控えた。すぐに転移魔法陣がひろがり、ベールとルキフェルも顔を見せる。最後にベルゼビュートが駆け込んだ。4人の大公が揃った状況に、リリスは「アシュタ、ベルちゃん、ロキ、ベルゼ姉さん」と指さして喜ぶ。
「なんだ、全員きたのか」
呆れたと笑うルシファーが、銀の瞳をわずかに細める。感じた危険に対して誰よりも早く反応した。右手に呼びだした魔法陣を斜め左上に翳す。展開した結界の上に、大きな槍が突き立てられていた。しかし物理的な攻撃ではない。
「光の、槍?」
魔法の基礎は火、水、土、風だ。その他にも属性はあるが、攻撃に使用されるのは4属性が主体だった。光を槍や矢にして攻撃することも理論的に可能だが、使用する魔族はいない。なぜなら光で作った槍の威力が圧倒的に弱いためだ。
ぴしっ、乾いた音で結界にひびが入る。興味深そうなルシファーをよそに、アスタロトが内側に別の結界を展開した。次の瞬間、最初の結界が砕けて散らばる。ガラスが割れるような音がして、きらきらと結界の破片が光を弾いた。
「たいしたものだ」
感心するルシファーが、ひらりと右手を振った。後ろで震えるアベルと聖女を包んだ結界の足元に魔法陣が生まれる。
「その魔法陣から出るな」
安全を確保されたアベルは、震える唇で「はい」と返事を絞りだした。
街の建物は火が燃え広がるのではなく、吐いた炎が直撃したレンガが溶けてどろりと流れ出す。溶岩に似た流れの周囲で、馬車や窓枠など木材が発火した。逃げ惑う人々を追いかける形で炎を吐く。それでも街の北側だけに限って攻撃しているのは、他の区画を精霊や魔獣が駆けまわっているためだ。
間違えて魔族を攻撃したら気の毒だ。そこはルシファーの指示もあり、人族が逃げ込んだ北側を任されたアラエルの飛行技術により、魔族の安全が担保されていた。
「ピヨ、上手だ。すごいぞ」
褒め上手な番のアラエルに乗せられたピヨは、ご機嫌で足踏みしながら首を左右に振る。溜めた炎を勢いよく吐き出した。途中でたまにアラエルの翼にぶつかるが、鳳凰同士は互いを傷つけない。アラエルが翼で炎の向きを変えて、きちんと地上に叩き落とした。
「ピヨ~!」
地上が熱くなった頃、聞き慣れたリリスの声に呼ばれる。足元はすでに爆撃する場所が残っていなかった。大炎上する街を一周回って、アラエルは都中央の魔王めがけて下降する。
「とまれ!!」
叫んだヤンの上に、ピヨが勢いよく飛び降りる。あたふたして背中で受け止めたフェンリルが、飛び上がった。
「あちっ!!」
「あ、ママごめんね」
先ほどまで炎を吐いていた熱い嘴が、ヤンの耳に触ったらしい。それでも我慢してピヨを落とさないあたり、しっかり母親役が身についていた。魔獣と一緒に街を走っていたヘルハウンドが戻り、息子のセーレも顔を見せる。アラエルが降り立つと、商家の前は一杯だった。
小山サイズのフェンリルが2匹いる時点で、すでに狭い。アラエルも翼を畳んで小さくなるが、窮屈さは大して変わらなかった。ヤンがまず小型化し、セーレも従う。
リリスが手を振りながら興奮した様子で声をあげた。
「パパ、あれすごい!!」
彼女が指さす先に、巨大な魔法陣が浮かんでいる。街全体を覆う魔法陣を読み解く前に発動した。
ドン!!
派手な爆音の直後に、まず音が消えた。強烈な光が走って闇が消える。光が拡散していき、ルシファーはゆっくり目を開いた。最初に確認したのはリリスの無事だ。両手で目を覆う幼女は「もう平気?」と手を離した。
手の平で目を隠した仕草が可愛くて、頬にキスをひとつする。足元の勇者アベルは、背負ったはずの聖女の上に覆いかぶさっていた。咄嗟に庇ったのだろう。背後に控えたイポスが剣を抜いているが、明るすぎた光に手を翳して目を細める。
「陛下、状況がわかるまで私の後ろへお下がりください」
「いや……危険ならなおさら余が先頭に立つべきであろう」
人族ならば王侯貴族は真っ先に逃げる。しかし魔族の王は人々の先に立つのが役目だった。一番高い能力を持つのが魔王ならば、もっとも敵に対して有効な存在なのだ。民を守ることを自ら選んだルシファーに、配下の後ろへ下がる選択肢はなかった。
「陛下」
光が薄れて出来た影に、アスタロトが姿を現す。一礼して斜め後ろに控えた。すぐに転移魔法陣がひろがり、ベールとルキフェルも顔を見せる。最後にベルゼビュートが駆け込んだ。4人の大公が揃った状況に、リリスは「アシュタ、ベルちゃん、ロキ、ベルゼ姉さん」と指さして喜ぶ。
「なんだ、全員きたのか」
呆れたと笑うルシファーが、銀の瞳をわずかに細める。感じた危険に対して誰よりも早く反応した。右手に呼びだした魔法陣を斜め左上に翳す。展開した結界の上に、大きな槍が突き立てられていた。しかし物理的な攻撃ではない。
「光の、槍?」
魔法の基礎は火、水、土、風だ。その他にも属性はあるが、攻撃に使用されるのは4属性が主体だった。光を槍や矢にして攻撃することも理論的に可能だが、使用する魔族はいない。なぜなら光で作った槍の威力が圧倒的に弱いためだ。
ぴしっ、乾いた音で結界にひびが入る。興味深そうなルシファーをよそに、アスタロトが内側に別の結界を展開した。次の瞬間、最初の結界が砕けて散らばる。ガラスが割れるような音がして、きらきらと結界の破片が光を弾いた。
「たいしたものだ」
感心するルシファーが、ひらりと右手を振った。後ろで震えるアベルと聖女を包んだ結界の足元に魔法陣が生まれる。
「その魔法陣から出るな」
安全を確保されたアベルは、震える唇で「はい」と返事を絞りだした。
24
お気に入りに追加
4,963
あなたにおすすめの小説
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる