422 / 1,397
31章 異世界召喚は違法行為?
419. 召喚された勇者の証言
しおりを挟む
大広間に再び集結した貴族達は、午後の会議の準備に勤しんだ。どうせ寝てしまうと諦め気分でクッションを用意する竜人、獣姿なら寝てもバレにくいと逃げ道を探す獣人、起きているためにミントの葉を大量に持ち込んだ精霊など。その対策は様々だが、半分ほどはまた寝てしまうと思われた。
玉座に座ったルシファーの膝では、すでにリリスが熟睡している。この状態で会議を始めて、彼女が起きてしまったらどうするのか。前列の精霊やドワーフがざわつくが、ルシファーの遮音結界にくるまれたリリスは、くたりと身を任せる眠り姫だった。
「召喚魔法についての詳細は省きますが、人族が異世界から勇者を召喚しました。召喚された勇者の魔力量は歴代勇者の中でも上位です。今後も人族が勇者を召喚する可能性が高く、異世界からの召喚者の取り扱いに関する法律を制定します」
決定事項として告げられた内容に、誰も反対はしなかった。
異世界から呼ばれた者の地位が確定しないのは、今後の取り扱いが「人扱いしなくてもいい」という非道であっても文句が言えないという意味だ。貴族はそれなりに教育を受けている者が多く、魔族は権利への意識が高いこともあり、人族の所業に眉を顰める者が多数だった。
このまま放置すれば、人族はまた異世界から誘拐同然の召喚を行い、不幸な異世界人を増やすと考えたのだ。ならば先に彼らの立ち位置を決めて、保護する形にすればいい。弱者を保護するのは強者の務め、魔族の間で共通の認識だった。
召喚された者にとって新しい法が不利でなければ、異論はない。
「証言者、勇者アベル前へ」
ルキフェルが手招きすると、小奇麗な衣服に身を包んだ青年が歩いてくる。クリーム系の明るい肌と濃い赤毛、青い目をしたアベルはルキフェルの斜め後ろで足を止めた。先ほどまで泣いていたので、多少目元が赤く腫れている。
毅然と顔を上げた人族の姿に、魔族達は「あいつ、意外と根性あるな」と好意的に受け止めた。強者を貴ぶ風潮の中、弱者であっても怯えた態度がないだけで印象は違う。事前に言い聞かせたベールとルキフェルの言葉を、アベルはきちんと理解していた。
「嘘偽りなく、事実のみを述べてください。人族の都に召喚されてからのお話をお聞きします」
「はい」
事前に昼食会として顔合わせをしていたおかげで、思ったより緊張しなくて済む。ルキフェル達がそこまで考えてセッティングしてくれたのだと、アベルは感動していた。
「召喚された時の状況を話してください」
「はい、自宅にいた僕は光が眩しくて、閉じた目を開けたら知らない人に囲まれてました。床の上に丸い円と文字がたくさん……あと記号みたいな模様も刻んである窓のない部屋です。魔術師が大勢いて、僕と女の子が一緒に召喚されました」
ルキフェルに言われた通り、目上用の話し方で統一する。鱗が生えた大きな人や小さな子供みたいな人もいる。耳が尖ってたり、角があるけれど、もう怖いと思わなかった。
アベルが必死で続ける内容は、静まり返った大広間の全員に届く。
「女の子は聖女だと言われて連れ去られ、その後会えていません。勇者と言われた僕は戦う訓練をさせられました」
「あなたの意思で?」
「断ったら立てなくなるほど殴られました。僕のいた世界は戦うことなんてなくて、だから怖くて言うことを聞くしかないです。魔法も剣も上手に扱えないから、塔の横の馬小屋で寝て、残飯みたいなご飯でした。『ハズレを引いた』と王様が言ってて、周囲も『魔物だ、化け物だ』と僕を罵りました。逃げる場所もなかったから、魔王様と戦うように命じられて森の入り口に捨てられたんです。貴族の息子が監視役でついてきましたが、勝手に勇者を名乗って自滅しました」
思い出すと悔しくて、涙が滲んだ。零れないよう我慢しながら、必死で話し続ける。召喚された部屋から引きずられていった少女が、どんな扱いを受けているのか。自分が安全な場所にいると自覚した途端に涙が頬を伝った。
「パパ、あの子……痛そう」
「そうだな。すごく苦しくて痛い思いをした」
幼女と魔王のかわす言葉が、じわりと胸に沁みた。
玉座に座ったルシファーの膝では、すでにリリスが熟睡している。この状態で会議を始めて、彼女が起きてしまったらどうするのか。前列の精霊やドワーフがざわつくが、ルシファーの遮音結界にくるまれたリリスは、くたりと身を任せる眠り姫だった。
「召喚魔法についての詳細は省きますが、人族が異世界から勇者を召喚しました。召喚された勇者の魔力量は歴代勇者の中でも上位です。今後も人族が勇者を召喚する可能性が高く、異世界からの召喚者の取り扱いに関する法律を制定します」
決定事項として告げられた内容に、誰も反対はしなかった。
異世界から呼ばれた者の地位が確定しないのは、今後の取り扱いが「人扱いしなくてもいい」という非道であっても文句が言えないという意味だ。貴族はそれなりに教育を受けている者が多く、魔族は権利への意識が高いこともあり、人族の所業に眉を顰める者が多数だった。
このまま放置すれば、人族はまた異世界から誘拐同然の召喚を行い、不幸な異世界人を増やすと考えたのだ。ならば先に彼らの立ち位置を決めて、保護する形にすればいい。弱者を保護するのは強者の務め、魔族の間で共通の認識だった。
召喚された者にとって新しい法が不利でなければ、異論はない。
「証言者、勇者アベル前へ」
ルキフェルが手招きすると、小奇麗な衣服に身を包んだ青年が歩いてくる。クリーム系の明るい肌と濃い赤毛、青い目をしたアベルはルキフェルの斜め後ろで足を止めた。先ほどまで泣いていたので、多少目元が赤く腫れている。
毅然と顔を上げた人族の姿に、魔族達は「あいつ、意外と根性あるな」と好意的に受け止めた。強者を貴ぶ風潮の中、弱者であっても怯えた態度がないだけで印象は違う。事前に言い聞かせたベールとルキフェルの言葉を、アベルはきちんと理解していた。
「嘘偽りなく、事実のみを述べてください。人族の都に召喚されてからのお話をお聞きします」
「はい」
事前に昼食会として顔合わせをしていたおかげで、思ったより緊張しなくて済む。ルキフェル達がそこまで考えてセッティングしてくれたのだと、アベルは感動していた。
「召喚された時の状況を話してください」
「はい、自宅にいた僕は光が眩しくて、閉じた目を開けたら知らない人に囲まれてました。床の上に丸い円と文字がたくさん……あと記号みたいな模様も刻んである窓のない部屋です。魔術師が大勢いて、僕と女の子が一緒に召喚されました」
ルキフェルに言われた通り、目上用の話し方で統一する。鱗が生えた大きな人や小さな子供みたいな人もいる。耳が尖ってたり、角があるけれど、もう怖いと思わなかった。
アベルが必死で続ける内容は、静まり返った大広間の全員に届く。
「女の子は聖女だと言われて連れ去られ、その後会えていません。勇者と言われた僕は戦う訓練をさせられました」
「あなたの意思で?」
「断ったら立てなくなるほど殴られました。僕のいた世界は戦うことなんてなくて、だから怖くて言うことを聞くしかないです。魔法も剣も上手に扱えないから、塔の横の馬小屋で寝て、残飯みたいなご飯でした。『ハズレを引いた』と王様が言ってて、周囲も『魔物だ、化け物だ』と僕を罵りました。逃げる場所もなかったから、魔王様と戦うように命じられて森の入り口に捨てられたんです。貴族の息子が監視役でついてきましたが、勝手に勇者を名乗って自滅しました」
思い出すと悔しくて、涙が滲んだ。零れないよう我慢しながら、必死で話し続ける。召喚された部屋から引きずられていった少女が、どんな扱いを受けているのか。自分が安全な場所にいると自覚した途端に涙が頬を伝った。
「パパ、あの子……痛そう」
「そうだな。すごく苦しくて痛い思いをした」
幼女と魔王のかわす言葉が、じわりと胸に沁みた。
23
お気に入りに追加
4,943
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる