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31章 異世界召喚は違法行為?

416. お昼休憩はのんびり長め

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 ルキフェルが満足するまで答えた結果、お昼休みの予定時刻に15分ほど食い込んだ。報告が一段落したところで、アスタロトが遮る。

「さらに詳しい説明が欲しい者は、個別にルキフェル大公と約束を取り付けてください。では、今から70分のお昼休憩に入ります」

 解散と言わなくても、三々五々に散っていく。魔族の食事は種類が多すぎるため、夜会でもなければ用意はしないのが通例だった。生き血を飲む種族や生肉を好む者も多数いる。そういった者は少し離れた魔の森で餌を確保するのだ。

 食事の確保に時間がかかることを考慮し、休憩時間は60分ではなく70分に延長された経緯がある。わずか10分だが、午後の会議への遅刻者が激減した実績のある10分だった。

「陛下、起きてください」

 穏やかな笑みを浮かべて器用に寝ていたルシファーを軽く揺する。腕の中ですやすや眠るリリスが「ぱぱぁ?」と寝ぼけた声を出しながら目を開いた。

 欠伸を噛み殺したルシファーが周囲を見回し「終わったのか?」と首をかしげた。呆れ顔のアスタロトが「お昼休みです」と答える。専門用語の羅列と、仮説が新たな仮説を生む話は、長く聞いても10分が限度だ。それ以上になると脳が拒否して睡眠状態になる、そうぼやきながらルシファーはリリスの頬にキスをした。

 アスタロトの先導で控室に移動したルシファーは、用意された食卓の椅子の数に眉をひそめる。大公4人と自分で5つあれば足りる。リリスはいつも膝の上だから、間違っていないはずだった。なのに6つ用意された椅子の理由を尋ねようとしたところに、ルキフェルとベールが戻ってくる。

「ルシファー、勇者も一緒でいい? 午後からアベルも会議に連れていくから」

 あざといくらい可愛い笑顔で頼む少年に、ルシファーは肩を竦めた。事情が分かれば、別に異存はない。アスタロトが何も言わずに用意したなら、手続き上も問題ないのだろう。アデーレが料理の皿を並べ終え、カトラリーをチェックしてお茶を淹れる。

「構わない」

 さっさと座ったルシファーの左右をベルゼビュートとアスタロトが固めた。その先でルキフェルとベールが並んで座り、彼らの向かい側に勇者アベルの席だ。

 連れてこられた人族の青年は、やや怯えている様子だった。偽勇者に連れてこられた時の方がふてぶてしい態度だったが、徐々に自分の立ち位置が理解できたのか。

「怯えずとも人族を食べる習慣のある魔族は、この場にいない」

 魔族の中にも人族が食料になる種族は存在する。魔獣系などがその一例だが、アスタロトも人の血を吸わない以上、この場で人族が主食の魔族はいなかった。安心させようと告げた言葉に、なぜかさらに怯えられる。

「陛下、こういう場合は余計なことを言わない方が」

 にっこり笑って釘を刺され、黙って頷くに留める。今のアスタロトの発言の後半が浮かんでしまい、ルシファーは溜め息を吐いた。「余計なことを言わず、怯えさせておいた方が使える」と言いたいのだろう。きっと何か聞き出す予定があるのだ。

「パパ……これやだ」

 ぐいっと目の前の皿を押しのける。クリームシチューはリリスの好物で、キノコとコカトリス肉が入っていた。上に何やら飾られたハーブがあるが、どれが気に入らないのか。

「どれが嫌だ?」

「はっぱ」

 見覚えのないハーブが乗せられていたので、気に入らないらしい。彩りとしての飾りだろう葉を横の皿にのけて、シチューの皿を引き寄せた。じっと見るリリスの唇はまだ尖っている。

「コカトリス肉は好きだっただろう? 野菜もリリスが食べたことがある物ばかりだ。ほら」

 スープ皿の中をスプーンでかき回して見せる。じっと具材を睨むリリスへ、隣からベルゼビュートが声をかけた。

「あらやだぁ、お嫁さんなのに好き嫌いするの? 旦那さんが可哀そうよ」

 意味不明の叱り方だが、驚くほどリリスに効果があった。ぱっと表情を変えて振り返り、皿の中身とルシファーの顔を交互に眺める。それから隣の皿に取り分けられたハーブを睨んだ。

「……リリスもあれ食べる」

 シチューに乗っていたハーブを指さす。

「お嫁さんだから食べられるもん。パパがかわいそうくないもん」

 すごい睨み方だが、食べるというなら食べさせてみる。好き嫌いなく育てたいルシファーとしては願ったり叶ったりの状況だった。ベルゼビュートがくすくす笑いながら「さすがはお嫁さんね」と褒めると、まだ食べていないのに得意そうな顔をする。

 全員が席に着いたのを確かめ、「ご挨拶して」とリリスに囁く。両手を持ち上げて待つリリスの小さな手を魔法陣で清めて、愛用の金スプーンを渡した。

「いただきまちゅ!」

 肝心な場面だと噛みやすいリリスの挨拶に和みながら、ルシファーが最初に口を付ける。続いてリリスに「あーん」と食べさせた。上位者が食べたのを確かめ、大公達が続く。ルキフェルが促すと、アベルもようやくスプーンを手にした。
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