355 / 1,397
26章 禁じられた魔術
352. キマイラの材料は
しおりを挟む
部下から上がる報告を纏めながら、ベールは奇妙な共通項に気づいた。目撃証言が集中するのは北の領地、キマイラによる被害はほぼない。そして魔王城へ繋がる龍脈に置かれた拠点……すべてを地図上に落とし込み、指先で地図を叩いた。
不思議なことに、ある地域がぽつんと残される。アスタロトやルキフェルも、すぐに同じ結論を導き出すだろう。あからさまに不自然な配置は、意図的なものか。だとしたら、この地域を治める種族を罠に嵌める作戦かも知れない。
「証人は不要ですが、数人捕まえる必要がありますね」
ベールの呟きを受けて、副官たちが動き出す。それぞれが指示を伝えて証人を連れ帰るだろう。尋問はアスタロトに任せればいい。血腥い同僚の顔を思い浮かべ、自然と口元が緩んだ。最悪死んでいても情報は取れるのだ。
「鬼が出るか、蛇が出るか。どちらにしても我々の敵ではありません」
部下が持ち帰った証人や証拠品を纏めて転送し、ベールは意味ありげに呟いた。
転送された資料を前に、ルキフェルはすでに分析を開始していた。速読で中身を把握して、片っ端から順不同で読み漁る。内容は頭の中に散らばるパズルのピースを合わせるように、順番に組み立てた。見た風景や文書を焼き付ける、特殊な記憶能力があるルキフェルだから可能な方法だ。
アスタロトから送られた研究文書を追加しながら、ベール達魔王軍が転送した資料に首を傾げた。
時々出てくる不思議な記号の意味がわからない。何かの暗号なのか。それは材料を示す記号のように思われた。しかし他の材料をそのまま記載したのに、この一種類だけ記号にする意味に着目する。
「この記号に材料が入るとして、外部に示せない材料……キマイラの材料で核となる……っ」
脳裏に浮かんだのは生きた者を直接使う禁術だった。魔王城の書庫から持ち出された書に、生贄という名称で実験台にされた魔族のキマイラが載っていたはず。つまりこの伏せられた記号が示すのは、実験台となる生物だ。
「なんてことだ……」
生きたまま他の生物と融合させられる。手探りの魔術は失敗も多いだろう。それだけたくさんの魔族が犠牲にされたとしたら……どの種族だ? 最近数が減った種族、災害を言い訳にしたかも知れない。
「魔族の人口変異を示した資料を! 大至急、ここ1年分でいいから」
ルキフェルの指示に、数人の文官が前に進み出た。担当する文官なのだろう。資料の前で足を止め、すらすらと人口変動の推移を説明する。聞き流しながら、気になった部分があった。
「待って。今の……人族が村単位で消えた話の裏は取れてる?」
「はい。人族の監視をしているハルピュイアの報告です。人族の村が一夜にして焼失し、生存者は確認できなかった、と」
確認できなかった。つまり連れ去られた可能性が高い。もし焼死したなら、死体が確認されたはずだ。しかしハルピュイアは確認できなかった。死体すらなかった、と? 完全に炭になって砕けて消えるほどの劫火は、通常の火事ではありえない。
連れ去った人族をそのまま使ったのか? 確かに魔族と混じることが出来る種族は人族のみだ。その混血特性を利用すれば、キマイラの接合部として使える。だとしたらキマイラに人の意思は残るのか。魔獣や魔物の本能に飲み込まれたか。
新しく転送された資料を貪るように読み、次々と実験結果を紐解いていく。その剣幕に何が起きたのかわからず、文官達は散らばった資料の片付け役に徹した。
不思議なことに、ある地域がぽつんと残される。アスタロトやルキフェルも、すぐに同じ結論を導き出すだろう。あからさまに不自然な配置は、意図的なものか。だとしたら、この地域を治める種族を罠に嵌める作戦かも知れない。
「証人は不要ですが、数人捕まえる必要がありますね」
ベールの呟きを受けて、副官たちが動き出す。それぞれが指示を伝えて証人を連れ帰るだろう。尋問はアスタロトに任せればいい。血腥い同僚の顔を思い浮かべ、自然と口元が緩んだ。最悪死んでいても情報は取れるのだ。
「鬼が出るか、蛇が出るか。どちらにしても我々の敵ではありません」
部下が持ち帰った証人や証拠品を纏めて転送し、ベールは意味ありげに呟いた。
転送された資料を前に、ルキフェルはすでに分析を開始していた。速読で中身を把握して、片っ端から順不同で読み漁る。内容は頭の中に散らばるパズルのピースを合わせるように、順番に組み立てた。見た風景や文書を焼き付ける、特殊な記憶能力があるルキフェルだから可能な方法だ。
アスタロトから送られた研究文書を追加しながら、ベール達魔王軍が転送した資料に首を傾げた。
時々出てくる不思議な記号の意味がわからない。何かの暗号なのか。それは材料を示す記号のように思われた。しかし他の材料をそのまま記載したのに、この一種類だけ記号にする意味に着目する。
「この記号に材料が入るとして、外部に示せない材料……キマイラの材料で核となる……っ」
脳裏に浮かんだのは生きた者を直接使う禁術だった。魔王城の書庫から持ち出された書に、生贄という名称で実験台にされた魔族のキマイラが載っていたはず。つまりこの伏せられた記号が示すのは、実験台となる生物だ。
「なんてことだ……」
生きたまま他の生物と融合させられる。手探りの魔術は失敗も多いだろう。それだけたくさんの魔族が犠牲にされたとしたら……どの種族だ? 最近数が減った種族、災害を言い訳にしたかも知れない。
「魔族の人口変異を示した資料を! 大至急、ここ1年分でいいから」
ルキフェルの指示に、数人の文官が前に進み出た。担当する文官なのだろう。資料の前で足を止め、すらすらと人口変動の推移を説明する。聞き流しながら、気になった部分があった。
「待って。今の……人族が村単位で消えた話の裏は取れてる?」
「はい。人族の監視をしているハルピュイアの報告です。人族の村が一夜にして焼失し、生存者は確認できなかった、と」
確認できなかった。つまり連れ去られた可能性が高い。もし焼死したなら、死体が確認されたはずだ。しかしハルピュイアは確認できなかった。死体すらなかった、と? 完全に炭になって砕けて消えるほどの劫火は、通常の火事ではありえない。
連れ去った人族をそのまま使ったのか? 確かに魔族と混じることが出来る種族は人族のみだ。その混血特性を利用すれば、キマイラの接合部として使える。だとしたらキマイラに人の意思は残るのか。魔獣や魔物の本能に飲み込まれたか。
新しく転送された資料を貪るように読み、次々と実験結果を紐解いていく。その剣幕に何が起きたのかわからず、文官達は散らばった資料の片付け役に徹した。
23
お気に入りに追加
4,963
あなたにおすすめの小説
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる