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26章 禁じられた魔術

348. 敵の拠点を急襲……まさか飛んでいくのか?

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 広げられた地図に次々と赤い印が表示される。仮面舞踏会に参加した貴族の領地から上がった目撃情報を元にして割り出した拠点だった。意外なことに、被害はほとんど報告されていない。

 魔王軍を指揮するベールが、淡々と各部隊を振り分けていく。赤い印の横に、ルキフェルが部隊名を記入した。

 『禁じられた魔術』を勝手に複写した者を追いかけたベルゼビュートだが、彼女は性格的に尾行に不向きだ。今回も最後まで追ったが、そこで犯人を血祭りにあげてしまった。仕方なく急ぎ魔王軍を招集し、拠点を一気に叩く騒ぎになったのだ。

 地図上に残された拠点は、研究室と思われるアスタロト大公領と、意外な場所だった。

「研究室はアスタロトが行くんでしょ? あまり壊さないでね」

 記録や研究が主な仕事であるルキフェルの要請に、アスタロトは少し時間を空けてから頷いた。

「そうですね。します」

 中にいる者の保証はしないと言い切った。付き合いの長さから、ルシファーもベールやルキフェルも発言の裏を聞き取ってしまう。すなわち「無機物は無事に残します」ということだ。有機物について一切言及しないところが恐い。証人は不要なので、生かせと命じる必然性がなかった。

 魔王信者のアスタロトが敵対者に容赦しないのはいつものこと、顔を見合わせて溜め息をつく。こればかりは注意しても無駄なので、全員が華麗にスルーした。

「最後のここは……」

「オレがいく」

 ルシファーの申し出に誰も反対しなかった。理由は、拠点の場所にある。以前にゾンビが発生した魔力溜まりがある森の中なのだ。ここは魔王城の庭の一部と認識された土地で、魔獣や魔物の出入りは禁じていない。出入り自由な足元で、身勝手な振る舞いをした輩の粛清は城の主たる魔王の役目だった。

「パパ、私も行く」

 にこにこと腕を組むリリスの笑顔に、つい「わかった」と黒髪を撫でてしまう。考えるより早くリリスの願いを叶えようと動く魔王に、周囲は諦めの表情で首を横に振った。

 これでリリスが幼子の頃の我が侭姫に育っていたら……獣人の尻尾を千切るような性格だったら、魔族はクーデター騒動が起きて外敵どころではなかっただろう。幸いにしてベールの保育園計画により軌道修正されたお姫様は、優秀過ぎる戦力となっていた。

「「「「お供します」」」」

 ルーサルカ、シトリー、ルーシア、レライエの揃った答えに、リリスが「頼もしいわ」と微笑んで答える。この時点で、ルシファーは子守役を頭の中に数人思い浮かべた。

 魔王城を空にするわけに行かないので、留守番のベルゼビュートは使えない。ヤンと騎士のイポスあたりか。戦えて足手まといにならず、いざという場面でリリス達を保護できる護衛……うん、この2人にしよう。ピヨは戦力にならないので置いていくとして、アラエルは城門を守る門番だ。

 頭の中でメンバーを確認し、出来るだけ強い結界を張って彼女らを守ればいいかと頷いた。

「では我々は先行します」

 すべての拠点を同時に叩く計画なので、遠方の敵拠点を担当する魔王軍が最初に動く。人数も多いので、移動に時間がかかると説明されたルシファーとアスタロトは顔を見合わせた。

 まさか……飛んだり走って移動する予定なのか? 転移魔法陣は使える種族が限られるため、大人数の軍団の移動には向かない。しかし今回は少人数の班にわかれての作戦だった。複数の魔法陣を同時に操る上位魔族がいるのだから、転移を使うべき場面だろう。

「魔法陣を作るから、転移すればいい」

「そうです。時間の無駄ですよ」

 魔王軍の第一師団を複数に分割したグループをざっと数え、20人単位で7回ほど転移させれば済むと判断したルシファーが地図を覗き込む。すたすた歩くルキフェルと並んで歩きながら、空中に複数の魔法陣を描いた。

 転移魔法陣は転移させる対象の範囲指定や、到着予定地点の計算、障害物に対する安全対策などが盛り込まれるため、かなり複雑な文字と記号が大量に並ぶ。難しい計算を簡単にこなしながら、7つの魔法陣をすべて作り終えた頃、ようやく城門前に到着した。
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