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23章 魔王の逆鱗を引っぺがす暴挙
291. 外見だけ着飾った都の地下で
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※多少の残酷表現があります。
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見せつけ、絶望感を高めるために、足元の床に魔力を満たす。ぼんやりと赤く光った魔法陣が、粉々に砕けた。倒れている少女達を結界で包んだため、こちらに被害はない。しかし飛び散った石の欠片は、人族を避けなかった。
「ぐっ…」
「痛いっ……」
欠片が突き刺さった傷を魔術師が必死に癒そうとする。無事だった兵士は彼らを庇うように前に立った。武装した彼らに、ケルベロスが襲い掛かる。人の手足など、細い枝を折るように噛み砕いた。咥えて振り回し、手足を引きちぎる。飛んだ赤い血が、用を為さない壊れた魔法陣の溝に流れた。
結界でリリスを包んだ魔王は、隅で震える魔術師達に目を向けた。戦う兵士を置いて逃げようとする彼らの醜い姿に、背の翼を2枚増やして4枚広げる。
解放した魔力で、地下室と地上を結ぶ鉄の扉を溶かしていく。飴細工のように柔らかくなるまで熱し、風で押し広げて隙間をつぶした。さらに氷で冷やして凍らせる。出口をふさがれ、凶悪な獣や魔族と同じ部屋に閉じ込められたと知った魔術師の顔に絶望が広がった。
凍らせるだけで扉の閉鎖は可能なのに、わざわざ手をかけて恐怖を増幅する。複数の魔法を自在に操る魔王の姿に、彼らの精神は崩れ落ちた。
「た、助け……っ」
「愚かな……罪を自覚せず償わず、助けを請うとは嘆かわしい」
実験と称して行われた魔術のため、同族の命を犠牲にしたくせに己の命は惜しいと? すでに息絶えた人族の女達も助けて欲しいと命を請うただろう。しかしお前達は彼女らを殺した。
命の価値も理解せぬ者が、人族の執政を担う者の一部か? 覚悟もなく魔族に手をだし、反撃されれば逃げ惑うのが人族か。ならばこの種族を監督して飼いならすのは、上位者の役目であろう。
ルシファーは何かを悟ったように表情を和らげた。震えていたリリスが、ゆっくりと顔を上げる。悲鳴も血も怖くないが、普段優しいルシファーの雰囲気が変わったのが怖かった。震える唇で呼ぶ。
「パパ……」
「心配いらない、リリス。すぐに終わらせる」
いつもと同じ優しい声に、リリスがほっと息をついた。首に回した手に力をいれる。幼子に語り掛ける姿に隙ありと考えた魔術師の一人が、最大級の魔術を放った。
「くらえ!」
大きな風の刃がルシファーに迫る。
狭い部屋の中で必死に練り上げた魔力を支える魔石が砕ける、甲高い音がした。結界に触れて弾かれるより早く、兵士を片づけた血塗れの銀犬が前に飛び出す。中央の頭が吠えると、風の刃は砕けて小さく乱反射した。
超音波を使って砕いた刃は、石の壁に反射しながら人族に襲い掛かる。魔力が尽きるまで踊り続ける風が、倒れた兵も生贄の娘も、魔術師自身も関係なく切り刻んだ。
「うわっ」
「止めろ!」
騒ぐ人族をよそに、アスタロトは足元の少女達を城門前に返す。まだルキフェルやベールがいる城門は安全が確保された場所だ。
「騒がしく見苦しい」
自業自得の人族を残し、ルシファーは地下室の上に転移した。地獄の番犬と吸血鬼王を残した地下の惨状を予想しながら、止める気はない。
アスタロトが見回す先に、反撃する気力のある人族はいなかった。両手両足を食いちぎられた勇者を名乗る青年、切り裂かれ血の海に沈んだ兵士達、己の魔術で逃げ場を失った魔術師……そして、到着時には息絶えていた哀れな魔術の犠牲者。
「ケルベロス、先に行くぞ」
がうっ。声を掛けた3頭の銀犬を残し、アスタロトは敬愛する魔王の後を追った。
王城は白い壁の建物だった。美しい青の屋根が並び、王都は全体に美しく整えられている。しかし足元に地下室を作り、怪しげな魔術を研究し、同族を人柱として他種族を侵害する醜い種族が住まう都市だった。
外見だけ美しく装っても、中身が伴わなければ醜い。それは人の在り様と似ていた。
「リリス、怖いなら先に戻るか?」
普段なら絶対に手放したりしない。しかしこれから目の前で起きる惨劇を彼女が厭うなら、望まぬなら遠ざけることも必要だった。広げた4枚の黒翼をばさりと羽ばたかせる。
「やだ」
「綺麗な光景ではないぞ。これからここは瓦礫の山となる」
「だって、パパがいなくなっちゃう」
尖らせた唇と涙に潤んだ目で不安そうに呟かれた言葉に、ルシファーは驚いて目を見開いた。いなくなるとは、どういう意味を含むのだろう。誰に対しても優しいだけの保護者でいて欲しいのか。
「……人族を助けたい、のか?」
「違う! リリス達に酷いことする人は要らないけど……っ、パパがいつもと違うから」
そこでやっと気づかされた。大きくひとつ息を吸って吐き出す。気持ちが少し落ち着いて、苦笑いが口元に浮かんだ。
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見せつけ、絶望感を高めるために、足元の床に魔力を満たす。ぼんやりと赤く光った魔法陣が、粉々に砕けた。倒れている少女達を結界で包んだため、こちらに被害はない。しかし飛び散った石の欠片は、人族を避けなかった。
「ぐっ…」
「痛いっ……」
欠片が突き刺さった傷を魔術師が必死に癒そうとする。無事だった兵士は彼らを庇うように前に立った。武装した彼らに、ケルベロスが襲い掛かる。人の手足など、細い枝を折るように噛み砕いた。咥えて振り回し、手足を引きちぎる。飛んだ赤い血が、用を為さない壊れた魔法陣の溝に流れた。
結界でリリスを包んだ魔王は、隅で震える魔術師達に目を向けた。戦う兵士を置いて逃げようとする彼らの醜い姿に、背の翼を2枚増やして4枚広げる。
解放した魔力で、地下室と地上を結ぶ鉄の扉を溶かしていく。飴細工のように柔らかくなるまで熱し、風で押し広げて隙間をつぶした。さらに氷で冷やして凍らせる。出口をふさがれ、凶悪な獣や魔族と同じ部屋に閉じ込められたと知った魔術師の顔に絶望が広がった。
凍らせるだけで扉の閉鎖は可能なのに、わざわざ手をかけて恐怖を増幅する。複数の魔法を自在に操る魔王の姿に、彼らの精神は崩れ落ちた。
「た、助け……っ」
「愚かな……罪を自覚せず償わず、助けを請うとは嘆かわしい」
実験と称して行われた魔術のため、同族の命を犠牲にしたくせに己の命は惜しいと? すでに息絶えた人族の女達も助けて欲しいと命を請うただろう。しかしお前達は彼女らを殺した。
命の価値も理解せぬ者が、人族の執政を担う者の一部か? 覚悟もなく魔族に手をだし、反撃されれば逃げ惑うのが人族か。ならばこの種族を監督して飼いならすのは、上位者の役目であろう。
ルシファーは何かを悟ったように表情を和らげた。震えていたリリスが、ゆっくりと顔を上げる。悲鳴も血も怖くないが、普段優しいルシファーの雰囲気が変わったのが怖かった。震える唇で呼ぶ。
「パパ……」
「心配いらない、リリス。すぐに終わらせる」
いつもと同じ優しい声に、リリスがほっと息をついた。首に回した手に力をいれる。幼子に語り掛ける姿に隙ありと考えた魔術師の一人が、最大級の魔術を放った。
「くらえ!」
大きな風の刃がルシファーに迫る。
狭い部屋の中で必死に練り上げた魔力を支える魔石が砕ける、甲高い音がした。結界に触れて弾かれるより早く、兵士を片づけた血塗れの銀犬が前に飛び出す。中央の頭が吠えると、風の刃は砕けて小さく乱反射した。
超音波を使って砕いた刃は、石の壁に反射しながら人族に襲い掛かる。魔力が尽きるまで踊り続ける風が、倒れた兵も生贄の娘も、魔術師自身も関係なく切り刻んだ。
「うわっ」
「止めろ!」
騒ぐ人族をよそに、アスタロトは足元の少女達を城門前に返す。まだルキフェルやベールがいる城門は安全が確保された場所だ。
「騒がしく見苦しい」
自業自得の人族を残し、ルシファーは地下室の上に転移した。地獄の番犬と吸血鬼王を残した地下の惨状を予想しながら、止める気はない。
アスタロトが見回す先に、反撃する気力のある人族はいなかった。両手両足を食いちぎられた勇者を名乗る青年、切り裂かれ血の海に沈んだ兵士達、己の魔術で逃げ場を失った魔術師……そして、到着時には息絶えていた哀れな魔術の犠牲者。
「ケルベロス、先に行くぞ」
がうっ。声を掛けた3頭の銀犬を残し、アスタロトは敬愛する魔王の後を追った。
王城は白い壁の建物だった。美しい青の屋根が並び、王都は全体に美しく整えられている。しかし足元に地下室を作り、怪しげな魔術を研究し、同族を人柱として他種族を侵害する醜い種族が住まう都市だった。
外見だけ美しく装っても、中身が伴わなければ醜い。それは人の在り様と似ていた。
「リリス、怖いなら先に戻るか?」
普段なら絶対に手放したりしない。しかしこれから目の前で起きる惨劇を彼女が厭うなら、望まぬなら遠ざけることも必要だった。広げた4枚の黒翼をばさりと羽ばたかせる。
「やだ」
「綺麗な光景ではないぞ。これからここは瓦礫の山となる」
「だって、パパがいなくなっちゃう」
尖らせた唇と涙に潤んだ目で不安そうに呟かれた言葉に、ルシファーは驚いて目を見開いた。いなくなるとは、どういう意味を含むのだろう。誰に対しても優しいだけの保護者でいて欲しいのか。
「……人族を助けたい、のか?」
「違う! リリス達に酷いことする人は要らないけど……っ、パパがいつもと違うから」
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