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22章 リリス嬢、成長の証
286. 一番頑張ったのはヤンでした
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「リリス、ヘルハウンドは飼えないんだ」
「どうして?」
いつの間にか歯抜けの可愛い語尾が消えている。残念に思いながら、ルシファーは必死に説得を試みた。ここで折れたら、アスタロトとベールが怖い。にっこり笑って懐柔を開始した。
「この城は沢山の魔族が住んでいるだろう? ヤンも大きいし、ピヨもこれから大きくなる。最近は鳳凰も増えたから……ほら、お部屋が足りないんだ」
「平気よ。小さいおじちゃんが作ってくれるもん」
ドワーフのことか? 作ってくれる、だろうが……それは根本的な解決にならない。様々な魔族を拾ってきたルシファーだが、ここ数年は異常な数だった。リリスと出会ってから、ヤンが転がり込み、ピヨ、ルーサルカ、イポス、鳳凰と増え続けている。
そろそろ打ち止めにしないと、アスタロトに殺されるかも知れない。思わず背筋が寒くなって振り向けば、いい笑顔のアスタロトがいた。
「えっと……でもヘルハウンドは魔物だから、意思の疎通ができないし」
「リリス、犬が欲しい」
「……ヤンで我慢できない?」
後ろから黒い影がかかり、唸る低い声で抗議された。
「我が君、我は犬ではありませぬ!!」
「わかってる。言葉のアヤだ」
きりっと返したルシファーの袖を引っ張り、リリスがちょこんと首を倒した。それからじっと上目遣いで見つめてくる。誰だ、こんな可愛い入れ知恵したのは!?
「だめ?」
「う、うーん」
「陛下!」
「えっと……」
「拾った場所に捨てていらっしゃい」
アスタロトに止めを差されて視線をやれば、ぺったり伏せたままのヘルハウンドが縋るような目を向けてくる。一度拾った手前、また捨てに行くのは気が咎めた。しかも今みれば、双頭の黒犬はそれなりに愛嬌があり可愛い。ちょっと牙が出てたり、唸ると物騒な顔をしているが。
「番犬として城門に置くとか」
「陛下、最近拾いすぎです。ヘルハウンドなんて城門に置いたら、客人まで焼き払ってしまうでしょう」
正論過ぎて反論できない。ぐうの音も出ない魔王の引きつった顔を見ていたヤンが、大きな尻尾を振りながらヘルハウンドに近づき、哀れなほどに震えるヘルハウンドに唸る。
「ヤン、いじめちゃダメよ」
大人の口調を真似たリリスが駆け寄って、ヤンの尻尾を引っ張る。困惑した顔で振り返ったヤンがぼやいた。
「姫、我は苛めたのではなく話をしております」
「おはなし?」
再びヘルハウンドと向かい合い、唸ったり吠えたりした結果、どうやら会話は成り立ったらしい。その姿を見たルシファーが「やっぱりヤンも犬科だ」と思ったのは、内緒である。
城門前のカマキリとクモは、魔熊や魔狼など様々な魔族に分割して渡されることに決まった。てきぱき指示を出すベールが振り返ると、小山サイズの牛はアスタロト指揮のもと解体中だった。手際よく切り分けるイフリートは、自慢の包丁捌きで牛をバラして、内臓や皮と肉を分類していく。
「肉は2/3を調理場に収納、残りはヤンを含めた他の種族へ分け与えます。皮は加工しましょうか。衛兵のコート用にぴったりです。内臓は好む種族に渡して結構ですよ。たまにはベルゼビュートも役に立ちますね」
辛辣な評価をしながら、アスタロトは牛の処分を終えた。振り返った先で、ヤンがお座りしている。その隣に立つルシファーと、手を繋いだリリス。そして彼らの後ろで伏せているヘルバウンドがいた。
嫌な予感がします。
顔をしかめたアスタロトは援軍としてベールを呼び寄せる。側近2人と、魔王&姫&護衛達の舌戦が繰り広げられようとしていた。
「陛下、その犬の処分は決まりましたか?」
「決まった。リリスのペットにする」
「ペット……飼う、と?」(何を言ってやがるんですかね。このアホは)
内側の声が漏れてきて、ルシファーはリリスと繋いだ手に力を籠める。握り返したリリスがじっと大きな瞳で、頼りになるパパを見上げた。がんばれ!パパ!!
「飼う、これは決定事項だ」(リリスの望みだ、負けない)
リリスに励まされ言い切ると、ベールが一歩前に出た。後ろに下がりかけて、ヘルハウンドがいるので耐える。必死の攻防に終止符を打ったのは、予想外の援軍だった。
「大公様、我が面倒を見ますゆえ、認めてやっていただけませぬか。ヘルハウンドは魔物ですが、彼らは言葉が通じます」
意思の疎通が出来る魔物だから、魔族として一代限り認めて欲しいと懇願する。折れたのはアスタロトだった。大きく溜め息をついて、念押しする。
「ヤンが責任を負うのですね? 世話も任せますよ。我らは関知しませんが、それでいいですね?」
きっちり責任の所在を口に出して確認したアスタロトへ、ヤンが大きく頷いた。それから平伏してアスタロトとベールに従う姿勢を示す。仮にも獣の王であった灰色魔狼の願いに、顔を見合わせた側近達は諦めの表情で許可を出した。
「どうして?」
いつの間にか歯抜けの可愛い語尾が消えている。残念に思いながら、ルシファーは必死に説得を試みた。ここで折れたら、アスタロトとベールが怖い。にっこり笑って懐柔を開始した。
「この城は沢山の魔族が住んでいるだろう? ヤンも大きいし、ピヨもこれから大きくなる。最近は鳳凰も増えたから……ほら、お部屋が足りないんだ」
「平気よ。小さいおじちゃんが作ってくれるもん」
ドワーフのことか? 作ってくれる、だろうが……それは根本的な解決にならない。様々な魔族を拾ってきたルシファーだが、ここ数年は異常な数だった。リリスと出会ってから、ヤンが転がり込み、ピヨ、ルーサルカ、イポス、鳳凰と増え続けている。
そろそろ打ち止めにしないと、アスタロトに殺されるかも知れない。思わず背筋が寒くなって振り向けば、いい笑顔のアスタロトがいた。
「えっと……でもヘルハウンドは魔物だから、意思の疎通ができないし」
「リリス、犬が欲しい」
「……ヤンで我慢できない?」
後ろから黒い影がかかり、唸る低い声で抗議された。
「我が君、我は犬ではありませぬ!!」
「わかってる。言葉のアヤだ」
きりっと返したルシファーの袖を引っ張り、リリスがちょこんと首を倒した。それからじっと上目遣いで見つめてくる。誰だ、こんな可愛い入れ知恵したのは!?
「だめ?」
「う、うーん」
「陛下!」
「えっと……」
「拾った場所に捨てていらっしゃい」
アスタロトに止めを差されて視線をやれば、ぺったり伏せたままのヘルハウンドが縋るような目を向けてくる。一度拾った手前、また捨てに行くのは気が咎めた。しかも今みれば、双頭の黒犬はそれなりに愛嬌があり可愛い。ちょっと牙が出てたり、唸ると物騒な顔をしているが。
「番犬として城門に置くとか」
「陛下、最近拾いすぎです。ヘルハウンドなんて城門に置いたら、客人まで焼き払ってしまうでしょう」
正論過ぎて反論できない。ぐうの音も出ない魔王の引きつった顔を見ていたヤンが、大きな尻尾を振りながらヘルハウンドに近づき、哀れなほどに震えるヘルハウンドに唸る。
「ヤン、いじめちゃダメよ」
大人の口調を真似たリリスが駆け寄って、ヤンの尻尾を引っ張る。困惑した顔で振り返ったヤンがぼやいた。
「姫、我は苛めたのではなく話をしております」
「おはなし?」
再びヘルハウンドと向かい合い、唸ったり吠えたりした結果、どうやら会話は成り立ったらしい。その姿を見たルシファーが「やっぱりヤンも犬科だ」と思ったのは、内緒である。
城門前のカマキリとクモは、魔熊や魔狼など様々な魔族に分割して渡されることに決まった。てきぱき指示を出すベールが振り返ると、小山サイズの牛はアスタロト指揮のもと解体中だった。手際よく切り分けるイフリートは、自慢の包丁捌きで牛をバラして、内臓や皮と肉を分類していく。
「肉は2/3を調理場に収納、残りはヤンを含めた他の種族へ分け与えます。皮は加工しましょうか。衛兵のコート用にぴったりです。内臓は好む種族に渡して結構ですよ。たまにはベルゼビュートも役に立ちますね」
辛辣な評価をしながら、アスタロトは牛の処分を終えた。振り返った先で、ヤンがお座りしている。その隣に立つルシファーと、手を繋いだリリス。そして彼らの後ろで伏せているヘルバウンドがいた。
嫌な予感がします。
顔をしかめたアスタロトは援軍としてベールを呼び寄せる。側近2人と、魔王&姫&護衛達の舌戦が繰り広げられようとしていた。
「陛下、その犬の処分は決まりましたか?」
「決まった。リリスのペットにする」
「ペット……飼う、と?」(何を言ってやがるんですかね。このアホは)
内側の声が漏れてきて、ルシファーはリリスと繋いだ手に力を籠める。握り返したリリスがじっと大きな瞳で、頼りになるパパを見上げた。がんばれ!パパ!!
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