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22章 リリス嬢、成長の証

280. いきなり襲われてました

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 翼をもつ種族だから空を飛べるとは限らない。背に負う翼は『魔力量の証』であり、物理的に空中で身体の重さを支える強度はないのだから。

「魔法陣で移動するか」

 中庭まで歩いてきたルシファーは、手を繋いだリリスの鼻歌に目を細める。何度聞いても可愛い。耳に残る斬新なメロディは、録音したデータで魔族中に広めたい。しかし他人にリリスの可愛い歌を聴かせるのも癪だった。

 難しい、うなるルシファーの葛藤にアスタロトが終止符を打つ。

「ルシファー様、リリス嬢の音楽の先生を見つけておきました」

「もしかして……お前もリリスの歌の才能に気づいたのか?」

 オレだけだと思ったのに。残念そうなルシファーへ首を横に振った。そんなわけはない。リリスの音階は魔族に伝わる正しい楽譜のと明らかにズレているのだから。一言で表現するなら『音痴』なのだ。残酷なようだが、現実は常に厳しい。

「リリス嬢の音階のは早いうちなら直るかもしれません」

「ズレはない。これが正しいんだ」

 言い合う魔王と側近をよそに、ルキフェルが転移魔法陣を作っていた。作り方を教えるつもりなのか、魔法陣はゆっくり描かれていく。

 最初に外円、内円と描かれるが、その円を作る線は小さな文字が刻まれている。円が出来ると中央に紋章が浮かび上がった。これは魔法陣の制作者の紋章が多い。最後に隙間を埋めるように小さな文字による線や記号が並んでいった。

「細かい模様を全部覚える必要があるのかしら」

「転移魔法陣は魔力を使うと聞いたが」

 ルーシアとレライエの会話に、ルキフェルが口をはさんだ。

「模様は覚えなくていいよ。全体を焼き付けるみたいに転写するから」

「使うだけならば転写で構いません。もし魔術の専門家として新しい魔法陣の製作に携わるなら、すべてを解読できる能力が必要とされます」

 ベールが補うように付け加える。振り返ると、やっと言い争いが終わった魔王が口を尖らせていた。どうやら言い負かされたらしい。

 見慣れてきた光景に、お取り巻き達はくすくす笑いながら魔法陣に飛び乗った。

「リリス様、はやく」

「狩りに行きましょう!!」

「うん」

 ルシファーを引っ張ったリリスが上に乗ると、ルキフェルが隣に並んだ。右手をルシファー、左手をルキフェルと繋いだリリスはご機嫌だ。今回はベールとアスタロトは留守番だった。ちなみにベルゼビュートは再提出書類にかかりっきりである。

「お気をつけて」

 見送るアスタロト達を置いて、魔法陣が光って消える。

「大丈夫でしょうか」

 大量の書類整理があるので残ったアスタロトだが、不安がよぎる。何か騒動を起こすんじゃないか。そんなニュアンスの声に、ベールが苦笑いしながら肩を叩いた。

「ルキフェルや少女達が一緒ですから、無茶はしないでしょう。それより書類整理を手伝いましょう」

「お願いします。これでも改革を進めて、かなりルシファー様の負担を減らしたのですが……」

 互いに慰め合いながら、側近達は魔王城に戻った。







 側近達がぼやいていた頃、魔王様ご一行は襲撃されていた。

 転移した先で、咄嗟に結界を張ったルシファーは炎のブレスを受け止める。新たな結界の展開ができず、自らを覆う通常発動の結界を応用していた。

「ルキフェル、何とかなるか?」

 このままだと長くは持たない。そう告げながらも、ルシファーに緊迫感はなかった。

 舞い散る炎と火の粉に、リリスは大喜びだ。しかし、慣れないお取り巻き4人は青ざめていた。

「ルシファー、あいつは神龍族」

 ルキフェルは指摘しながら、魔法陣を展開する。発動前に小さな記号を付け加えて、高めた魔力を注いだ。ルキフェルでさえ時間を必要とする複雑な魔法は、光の網を作り出して龍の巨体を絡め取った。
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