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20章 鬼の居ぬ間に選択
258. やらかしたアレコレがバレ始めました
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主犯だった貴族の一部が残されていたため、それを利用して人族との話し合いを提案したルシファーに、大公達はそろって溜め息を吐いた。人族擁護派なのは仕方ないが、無駄に終わる結末が見えている話し合いを行おうとする魔王の姿勢に呆れ半分、らしいと笑う部分が半分で複雑な心境になる。
「パパ、終わった」
何の歌かわかるギリギリのズレ具合で鼻歌を繰り返していたリリスは、得意げに薄い胸をそらした。机の右前方に置かれた処理済の箱に、きっちり押印した書類が積まれている。3桁に届く量を処理したリリスは、ひとつ欠伸をしてルシファーに寄りかかった。
膝の上は温かくて、寄りかかると背中も包まれて温かくなる。窓の外はとっくに星空が広がる時間で、眠くなった幼女が目元を擦った。
「お手伝い、とっても助かったぞ。さすがはオレのお姫様だ」
褒めながら、擦る手を止めさせる。膝の上のリリスを正面から抱き締め直して、黒髪を何度か梳いた。目を閉じる娘に「お風呂入らないと」と慌てて立ち上がった。
「人族の対処は後日だ。あとは任せる」
「ルシファー様、まだ書類の処理が残っております」
起きたばかりだからか、絶好調のアスタロトの指摘に一瞬目を泳がせた。逃げられそうにないと観念し、ルシファーは肩を落とす。
「わかった。リリスを寝かしつけたら戻るから、仕分けをしてくれ」
夢中になって印を押したリリスは夕食も食べていない。大急ぎで食事をさせて、風呂に入れて寝かしつければ、戻って書類処理をする時間が取れる。命令というより提案に近いルシファーの言葉に、アスタロトは素直に従った。
「わかりました」
「任せる」
立ち上がって、魔王城の廊下を進む。アスタロトが冬眠……じゃなく、深い眠りについている間に季節は冬になった。
冷える廊下も、以前と違い絨毯があるだけでかなり暖かい。その上石造りの欠点である寒さを補う魔法陣が、床暖房として機能していた。ベールが地脈を利用して刻んだため、エネルギーの供給が必要ないのは助かる。
評判のいい床暖房のお陰で、風邪を引いたり体調不良になる城仕えが減った。もちろん風邪を引かないルシファーは別として、可愛いリリスが寒い思いをしないのは彼にとって評価が高い。
「待たせた」
自室に入って、隣のリリスの部屋に移動する。続き部屋のドアを開くと、食事を用意したアデーレが待っていた。頷いた彼女の給仕で、すぐに温かい食事が提供される。
「リリス、ご飯だよ」
半分眠りそうな娘を膝に乗せ、赤子の時のように口元へスプーンを寄せる。
「あーん」
声を掛けると、ぱくりとスプーンからリゾットを食べた。赤子扱いでも文句を言われないため、ご満悦のルシファーはサラダからハンバーグまで、次々とリリスの口元に運ぶ。
食べずに寝かせてしまうと、夜中に起きてしまう。それでは不安で、執務室に戻れなかった。いっそ書類をアスタロトに運ばせて、隣の部屋で処理した方がいいか。命じようとしたルシファーより早く、彼の考えを読んだ側近は書類を隣室に運び込んでいた。
すでに印を押した書類は、魔法で運ぶと朱肉が無効化されるので、執務室に残す。未処理の束を2つに分けて、後ろに従えて魔法で運んだアスタロトは、なぜか立派な執務机が置かれた私室に眉をひそめた。
眠りに落ちる前と城の様子が変わっているのは当然だ。数ヶ月も留守にして、何も変わっていないわけがない。働き者のドワーフ達が改築工事に夢中なのは周知の事実で、魔王城は最低限必要とされる機能を取り戻しつつあった。
家具や装飾品が増えているのもわかる。しかし……明らかにおかしな箇所をいくつか発見していた。
執務室をリリスの教室と一緒にして、ルシファーのやる気を引き出す作戦は構わない。眠りに入る前に承知して、ベールと相談もした。予算の承認もアスタロト自身が行ったのだ。しかし予想していたより部屋が大きく、また家具が全部入れ替えられたのは何故か。
書類を置いた机の天板を撫で、品質をチェックする。魔族の頂点に立つ魔王の私室においた机なら、最上級の物を用意するのは当然だった。しかしこの机の必要性に首をかしげる。
リリスと一緒にいたいから執務室を改造した。ならば、私室に執務机は不要だろう。時間内に仕事をきちんと片付ければ良いだけの話だ。持ち帰ることを前提に机を用意するルシファーの無駄遣いに頭を抱える。誰が予算を承認したのか、後できちんと調べなくては。
ベッドやクローゼット、隣室へ繋がるドアを睨みつけてアスタロトは唸る。嫌な予感が漂う数ヶ月の空白に「あの人のやらかしはいつものことです」と己に言い聞かせ、隣室へのドアを開いた。
「パパ、終わった」
何の歌かわかるギリギリのズレ具合で鼻歌を繰り返していたリリスは、得意げに薄い胸をそらした。机の右前方に置かれた処理済の箱に、きっちり押印した書類が積まれている。3桁に届く量を処理したリリスは、ひとつ欠伸をしてルシファーに寄りかかった。
膝の上は温かくて、寄りかかると背中も包まれて温かくなる。窓の外はとっくに星空が広がる時間で、眠くなった幼女が目元を擦った。
「お手伝い、とっても助かったぞ。さすがはオレのお姫様だ」
褒めながら、擦る手を止めさせる。膝の上のリリスを正面から抱き締め直して、黒髪を何度か梳いた。目を閉じる娘に「お風呂入らないと」と慌てて立ち上がった。
「人族の対処は後日だ。あとは任せる」
「ルシファー様、まだ書類の処理が残っております」
起きたばかりだからか、絶好調のアスタロトの指摘に一瞬目を泳がせた。逃げられそうにないと観念し、ルシファーは肩を落とす。
「わかった。リリスを寝かしつけたら戻るから、仕分けをしてくれ」
夢中になって印を押したリリスは夕食も食べていない。大急ぎで食事をさせて、風呂に入れて寝かしつければ、戻って書類処理をする時間が取れる。命令というより提案に近いルシファーの言葉に、アスタロトは素直に従った。
「わかりました」
「任せる」
立ち上がって、魔王城の廊下を進む。アスタロトが冬眠……じゃなく、深い眠りについている間に季節は冬になった。
冷える廊下も、以前と違い絨毯があるだけでかなり暖かい。その上石造りの欠点である寒さを補う魔法陣が、床暖房として機能していた。ベールが地脈を利用して刻んだため、エネルギーの供給が必要ないのは助かる。
評判のいい床暖房のお陰で、風邪を引いたり体調不良になる城仕えが減った。もちろん風邪を引かないルシファーは別として、可愛いリリスが寒い思いをしないのは彼にとって評価が高い。
「待たせた」
自室に入って、隣のリリスの部屋に移動する。続き部屋のドアを開くと、食事を用意したアデーレが待っていた。頷いた彼女の給仕で、すぐに温かい食事が提供される。
「リリス、ご飯だよ」
半分眠りそうな娘を膝に乗せ、赤子の時のように口元へスプーンを寄せる。
「あーん」
声を掛けると、ぱくりとスプーンからリゾットを食べた。赤子扱いでも文句を言われないため、ご満悦のルシファーはサラダからハンバーグまで、次々とリリスの口元に運ぶ。
食べずに寝かせてしまうと、夜中に起きてしまう。それでは不安で、執務室に戻れなかった。いっそ書類をアスタロトに運ばせて、隣の部屋で処理した方がいいか。命じようとしたルシファーより早く、彼の考えを読んだ側近は書類を隣室に運び込んでいた。
すでに印を押した書類は、魔法で運ぶと朱肉が無効化されるので、執務室に残す。未処理の束を2つに分けて、後ろに従えて魔法で運んだアスタロトは、なぜか立派な執務机が置かれた私室に眉をひそめた。
眠りに落ちる前と城の様子が変わっているのは当然だ。数ヶ月も留守にして、何も変わっていないわけがない。働き者のドワーフ達が改築工事に夢中なのは周知の事実で、魔王城は最低限必要とされる機能を取り戻しつつあった。
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