上 下
249 / 1,397
19章 神獣は番を突き落とす

246. 2度目の再生ですね

しおりを挟む
 分厚い氷に閉ざされた火口の中、ピヨの姿は見当たらない。

「ピヨは……どこだろうな」

 思わず目が泳いでしまうルシファーに、やや同情気味の眼差しを向けるアスタロトが口を挟んだ。

「あの辺りにいたと思われますが」

 指差した先は、鳳凰がずっと睨んでいた場所だ。じたばたするリリスを下ろすと、彼女はルシファーの手を握って引っ張った。

「早くしないと、ピヨが凍っちゃう」

「あ、ああ」

 引っ張られるまま近づいた地点は、完全に下まで凍っているらしい。試しに炎を当てて溶かしてみたが、まったく反応がなかった。ピヨはマグマと一緒に凍った可能性が高い。

「どうなさいますか、ルシファー様」

 口調がプライベートに戻ったアスタロトが、くすくす笑いながら尋ねる。彼にとってピヨはたいした問題ではなく、リリスに叱られる姿を面白がっているのだろう。むっとしながら氷を睨みつけた。

「ピヨは死んじゃうの?」

 手を離したリリスが氷の上にぺたんと座り込んだ。表面を手でなでながら哀しそうに言われると、すごく悪いことをした気がする。広げたままだった翼を一度たたんで、ひとつ溜め息をついた。

「パパが助けるから心配するな」

 こうなったら氷を多少溶かして、ピヨを探すしかない。

 あれだけの魔力を凍結に注ぎこんだため、正直身体は怠いし疲れで眠かった。しかしリリスを泣かせたまま連れ帰るくらいなら、もう少し無理をしても構わないと思う。いざとなればアスタロトが連れ帰ってくれるだろう、たぶん。

 ちらっと視線を向けると、にこにこと無駄に笑顔を振りまく側近がいる。見た目はいいのに、この胡散臭い表情で損する男へ尋ねた。

「ベルゼは?」

「経済損失の計算があるので帰りました」

 言われて、見落としていた現実を突きつけられた。このまま火山が凍結されれば、周辺の気候や観光、産業に多大な被害が出る。すっかり頭から抜け落ちた事実だが、知ってしまえば無視も出来なかった。

「……責任は取る」

 手伝わせようと考えたベルゼビュートはいない。精霊族の血を引く彼女がいれば楽だったが、いないものは仕方ないと諦めた。

「リリス、オレの首に手を回して。絶対に離しちゃダメだぞ」

「うん……ピヨ、見つかる?」

「見つけてやる」

 一度たたんだ翼を広げ直す。傷ついた6枚を消して、残った2枚の魔力を熱に変換した。魔法陣を氷の床に刻みながら、ピヨの気配を探る。この近くにいるはずだが、氷の冷気に奪われる鳳凰族の魔力が小さすぎて読めなかった。

 まずは溶かすしかない。ピンポイントで位置を確定できないので、大きめの魔法陣を描いた。じわじわと熱を流し込んでいく。足元の氷が水になり蒸発し始めた。水蒸気がシューシューと音を立てる。

「あ、ピヨのピンクだ!」

 青い鳥なのにピンク? 不思議な言い回しに、魔力の色の話だと気付く。リリスの目には、氷の下にいる鸞鳥らんちょうの魔力色が見えていた。大喜びでリリスが指差す先に魔法陣の熱を絞り込む。一点集中で溶かした氷の穴から、マグマが噴出した。

 かなり冷気の強い分厚い氷であっても、やはり熱には弱い。全体が氷で蓋をされた状態でセーブされていた燃焼が始まり、一気に穴を広げながら氷を侵食した。

 ごぽっ……気泡が破裂すると、マグマが氷の穴から噴いた。まるで間欠泉のように勢いよく飛び出した赤に、青が混じっている。

「ピヨ!」

 リリスが嬉しそうに呼ぶと、青い毛玉が爆発した。一気に青白い炎が周囲を包み、氷の表面を舐めるように走る。咄嗟に結界を張りなおしたルシファーだが、慌てて魔法陣も展開した。結界用の魔法陣が完成した直後、ドンと激しい爆発でマグマが氷を包む。

「2度目の再生ですね」

 結界魔法陣をまとったアスタロトが、眩しさに目を細めた。赤い炎を食らう形で青白い炎が火口を染める。温度が高い炎は火口の縁まで焼き溶かしながら広がっていた。噴火した火山が鳳凰の希少種の存在で活性化し、横穴を開けて火の川を作り出す。

「……噴火はまずいんじゃないか?」

「噴火より、水蒸気爆発の心配をした方がいいですね」

 アスタロトの指摘の直後、溶けた氷から生まれた水蒸気が高温で撥ねた。真っ赤なマグマと一緒に、白い水蒸気が火山を揺るがす。爆音と振動、激しい圧力が結界に叩きつけられた。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」 「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」  公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。  理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。  王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!  頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。 ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2021/08/16  「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過 ※2021/01/30  完結 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...