上 下
234 / 1,397
18章 魔王城改築の意外な効果

231. 魔獣にご馳走オークを振舞う

しおりを挟む
 手前のオークをまず切り裂く。腹を切り裂くのは、後片付けの魔獣を呼び寄せる囮だ。臓物の臭いがすれば、彼らはすぐに集まってくるはずだった。

 2匹目からは頭を落としていく。どの魔物でも首からの出血は一番激しいため、首を落とせば血抜きが簡単だ。見た目がちょっと子供向けではないが、仕方ないだろう。

「パパ、あの豚さん! ベーコンみたい!!」

 大興奮で彼女が指差す先に、一際大きなハム体型のオークがいた。額に金属の飾りをしたり、他のオークより大きな武器を持っているところから、あれが群れのボスだと判断する。

「ベーコン持ち帰るか?」

「うん! 皆で食べる。あとコカトリスの唐揚げも~」

「帰りに見つけたら、コカトリスも捕まえるか」

 完全に豚肉、鶏肉としての分類になっているが、どちらもリリスにとって狩りの対象だ。ご機嫌でにこにこ笑うリリスに微笑み返し、目の前のオークの首を飛ばす。すべて倒れたオークを確認すると、15匹程だった。

「少ないな」

 数が少なすぎる。群れと表現するなら、オークは30匹以上いたのではないか? 眉をひそめたルシファーが魔力を探るように周囲を見回した。地脈の真上なので、ノイズが多すぎて拾えない。オークやゴブリンの魔力は小さすぎて、感知しても見落とすことが多かった。

 繁殖力旺盛なオークを数匹残せば、あっという間に数倍に膨れ上がる。出来れば根こそぎ片付けたかったが、見つからないので仕方ない。溜め息をついたルシファーの感知に、近づく魔獣の気配が引っかかった。

 魔熊の一種だろうか。茶色の毛皮が近づくが、一定の距離で止まった。そこで身を伏せて大人しく待っている。上位者であるルシファーの許可を待っているのだろう。

「オークの肉を片付けてくれるか?」

 一番大きなオークを確保して収納しながら声を掛けると、低く唸った魔熊が伏せたまま近づいた。

「大きい熊さん!」

 大喜びのリリスに「触らせてもらおう」と提案し、魔熊に歩み寄った。ぺたんと耳を倒し、地面に張り付いた姿勢は敵意がないと示している。魔獣特有の行動に「触れるぞ」と声をかけた。

「触ってもいい?」

「そっとだ」

「うん、触るね」

 魔熊にもきちんと話しかけて、リリスが白い手を伸ばす。魔熊の毛は意外とかたく、艶があるのが特徴だった。そのため触った感触が想像と違ったリリスは驚いた顔をして、次に感想を口にする。

「すべすべして硬いよ! ヤンと違う」

「ちゃんとお礼を言って」

「ありがとう、熊さん」

 ばいばいと手を振るリリスに「くーん」と鼻を鳴らして答えた魔熊から離れると、彼らは慣れた様子でオークを掴んで引き裂いた。この場である程度解体して運ぶつもりらしい。おこぼれを狙う狼や魔犬も集まってきた。

「パパ、あっちに大きい猫がいる」

 いろいろな動物や魔獣の姿に目を輝かせていたリリスが、森の木の枝を指差した。そちらに目を向けると、確かに豹のような大型の猫科魔獣がいる。魔熊がバラして運んだ肉をひとつ横取りすると、木の上で齧り始めた。

「あの子、ずるい!」

「猫科の魔獣はいつもあんな感じだな」

 熊さんのご飯を横取りしたと憤慨するリリスの黒髪を撫でて落ち着かせる。その豹がぴくりと耳を動かした。食べていた餌をそのままに、ゆったり振っていた尻尾をぴたりと止める。一箇所を凝視する豹の様子は何かを警戒しているように見えた。

「何かいるのか?」

 豹が見つめる方へ目を向けると……棍棒片手にオークが走ってくる。

「まだ豚肉いた」

「リリス、豚肉じゃなくてオークだぞ」

 どうしても肉名になってしまうのを修正しながら、威嚇する魔熊達の様子を確かめる。いきなり飛び掛る魔獣がいないのを確かめ、魔法陣をひとつ呼び出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

名前を忘れた私が思い出す為には、彼らとの繋がりが必要だそうです

藤一
恋愛
消失か残留か・・異世界での私の未来は、この二つしか無いらしい・・。 残業帰りの最終電車に乗っていたら、私は異世界トリップしてしまった。 異世界に飛ばされたショックの所為か、私は自分の名前を忘れてしまう。 飛ばされた先では、勝手に「オオトリ様」と呼ばれ「繁栄の象徴」だと大切にされる事に。 戻れる可能性が高いが、万が一、戻れなかった時の為に、一人では寂しかろうと「生涯の伴侶」(複数)まで選定中。 「自分の名前を思い出せば還れるかも」と言うヒントを貰うが、それには伴侶候補たちとの交流が非常に重要らしい。 元の世界に戻る(かもしれない)私が、還る為だけに伴侶候補たちと絆を深めなきゃいけないって・・! ********** R18な内容を含む話には※を付けております(もれている場合はお知らせ下さい)苦手な方はご注意を下さい。 じれじれなので、じれったい展開が苦手な方もご注意下さい。

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

病弱聖女は生を勝ち取る

代永 並木
ファンタジー
聖女は特殊な聖女の魔法と呼ばれる魔法を使える者が呼ばれる称号 アナスタシア・ティロスは不治の病を患っていた その上、聖女でありながら魔力量は少なく魔法を一度使えば疲れてしまう そんなアナスタシアを邪魔に思った両親は森に捨てる事を決め睡眠薬を入れた食べ物を食べさせ寝ている間に馬車に乗せて運んだ 捨てられる前に起きたアナスタシアは必死に抵抗するが抵抗虚しく腹に剣を突き刺されてしまう 傷を負ったまま森の中に捨てられてたアナスタシアは必死に生きようと足掻く そんな中不幸は続き魔物に襲われてしまうが死の淵で絶望の底で歯車が噛み合い力が覚醒する それでもまだ不幸は続く、アナスタシアは己のやれる事を全力で成す

天涯孤独になった僕をイケメン外国人が甘やかしてくれます

波木真帆
BL
日本の田舎町に住む高校生の僕・江波弓弦は、物心ついた時には家族は母しかいなかった。けれど、僕の顔には父の痕跡がありありと残っていた。 光に当たると金髪にも見える薄い茶色の髪、そしてグリーンがかった茶色の瞳……日本人の母にはないその特徴で、父は外国人なのだと分かった。けれど、父の手がかりはそれだけ。母に何度か父のことを尋ねたけれど、悲しそうな顔をするだけで、僕は聞いてはいけないことだと悟り、父のことを聞くのをやめた。母ひとり子ひとりで大変ながらも幸せに暮らしていたある日、突然の事故で母を失い、天涯孤独になってしまう。 どうしたらいいか途方に暮れていた時、母が何かあった時のためにと残してくれていたものを思い出し、それを取り出すと一枚の紙が出てきて、そこには11桁の数字が書かれていた。 それが携帯番号だと気づいた僕は、その番号にかけて思いがけない人物と出会うことになり……。 イケメンでセレブな外国人社長と美少年高校生のハッピーエンド小説です。 R18には※つけます。

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

処理中です...