228 / 1,397
18章 魔王城改築の意外な効果
225. 魔王城は改築に忙しい
しおりを挟む
ドワーフ達は困惑していた。
「ここからここまで、部屋をひとつに繋げてくれ」
簡単そうにとんでもない発言をした純白の魔王に、親方は溜め息をついて説明を始めた。
「こことここの壁を取ると、上の部屋が落ちてくる。危険だから認められない」
「ああ、なるほど。ドワーフの技術では無理か」
にっこり笑って納得したように呟くルシファーの一言で、彼らの職人魂に火がついた。危険だろうが無理だろうが、何とかしてみせる! 職人達は鼻息荒く、親方に詰め寄る。そこで密談が繰り広げられた結果、のんびり待つルシファーへ向き直った。
「ドワーフの技術は魔族最高水準だ! 安全で快適な部屋の改築を約束しよう」
「うむ。頼むぞ、諸君らの経験と技術に期待する」
もっともらしいことを言って彼らのやる気を引き出し、執務室を出た。今日からこの部屋は改築作業に入るため、書類はすべて私室へ運ばれる予定だ。リリスと4人の学友が快適に過ごせるように……という建前を掲げ、一緒の部屋で過ごす快適な時間を増やすべく努力した結果だった。
満足げに部屋を後にするルシファーが見えなくなると、ドワーフ達は真剣な顔で強度計算を始めた。間違っても崩れないよう、アーチ型の天井の導入を検討する。装飾を含めて案が固まると、親方号令の下にドワーフ達は動き出した。
リリスの側近達は、魔王城内に個室を与えられる。各部屋の準備は、それぞれの親や親族が立会いで急ピッチで進められていた。
最初に訪れたルーシアの部屋は、水色を基調とした落ち着いた色彩の壁紙が貼られた。持ち込まれた家具は白木が中心で、全体的に大人びた雰囲気だ。付き添った父親の説明では、実家の部屋に近い状態を再現したという。
家具は新調するか、自宅から持ち込むことも出来る。彼女は持ち込む方を選んだ。もし新調を選ぶと、魔王妃のお支度予算を申請すれば費用がかからない。優秀なアスタロトとベールが捻出した予算は、意外と潤沢だった。ルシファーの個人資産が財源なのは、側近達の秘密だ。
ルーシアは水の妖精族の侯爵家令嬢で、象牙色の肌に青い髪、大きな青い目が特徴の幼女だった。保育園でリリスと同じクラスだったので、年齢も同じだ。
「パパ、ルーシアちゃん」
お友達を見つけると嬉しそうに名を呼んで手を振る。すごく可愛い仕草なのだが、問題点がひとつ。
「リリス。側近は名前で呼び捨てるようにしなさい」
「どうして?」
子供は「どうして」「なぜ」の疑問を連発する生き物だが、質問されると苛立つより可愛さが先にたつ。いきなり否定したり拒否せず、理由をきく姿勢は評価に値した。もっとも、リリスは大して深く考えずに反射的に尋ねているようだが。
「オレもベールやアスタロトを名前だけで呼ぶだろう」
「うん」
「名前で呼んだほうが親しそうだろ」
リリスが理解しやすい説明を選んた。主従だからという本来の理由は、いずれ学んでいく間に覚えるだろう。今は彼女が納得する理由で構わない。
「じゃあ、リリスも名前で呼んでもらう!」
「……うーん、ちょっと違うな。リリス様になるぞ」
「親しくなれないじゃん」
まさかの揚げ足取りに、ルシファーは必死に頭を使う。執務の時の比ではないほど、本気で考えて結論を導きだした。もしアスタロトがいれば、「普段から必死で頑張ってほしいものですね」と嫌味のひとつも口にしただろう。
「アスタロトはオレを『ルシファー様』と呼ぶが、親しいじゃないか。問題はないぞ」
「そうなのかな」
素直なリリスが首をかしげる。言われた内容を考えながら、抱っこするルシファーの顔を見た。にっこり笑って待つパパの表情に、ほわっと笑顔になる。
「うん、パパが言うならそうする」
「よかった。リリスが分かってくれて嬉しいぞ」
ぐりぐりと頬を擦り寄せてから、額にキスをした。擽ったそうにしながらも笑うリリスが振り返ると、ぽかんとした顔で侯爵が見つめている。
「あ……失礼しました」
慌てて目をそらす侯爵の足元で、ルーシアはくすくす笑っていた。リリスと一緒にいる魔王は常に甘い父親なので、接する機会が多かったルーシアの方が免疫が出来ている。
「今日から『リリス様』って呼ぶわね」
「うん、よろしくね。ルーシア」
挨拶が終わると、隣の部屋に移動した。
「ここからここまで、部屋をひとつに繋げてくれ」
簡単そうにとんでもない発言をした純白の魔王に、親方は溜め息をついて説明を始めた。
「こことここの壁を取ると、上の部屋が落ちてくる。危険だから認められない」
「ああ、なるほど。ドワーフの技術では無理か」
にっこり笑って納得したように呟くルシファーの一言で、彼らの職人魂に火がついた。危険だろうが無理だろうが、何とかしてみせる! 職人達は鼻息荒く、親方に詰め寄る。そこで密談が繰り広げられた結果、のんびり待つルシファーへ向き直った。
「ドワーフの技術は魔族最高水準だ! 安全で快適な部屋の改築を約束しよう」
「うむ。頼むぞ、諸君らの経験と技術に期待する」
もっともらしいことを言って彼らのやる気を引き出し、執務室を出た。今日からこの部屋は改築作業に入るため、書類はすべて私室へ運ばれる予定だ。リリスと4人の学友が快適に過ごせるように……という建前を掲げ、一緒の部屋で過ごす快適な時間を増やすべく努力した結果だった。
満足げに部屋を後にするルシファーが見えなくなると、ドワーフ達は真剣な顔で強度計算を始めた。間違っても崩れないよう、アーチ型の天井の導入を検討する。装飾を含めて案が固まると、親方号令の下にドワーフ達は動き出した。
リリスの側近達は、魔王城内に個室を与えられる。各部屋の準備は、それぞれの親や親族が立会いで急ピッチで進められていた。
最初に訪れたルーシアの部屋は、水色を基調とした落ち着いた色彩の壁紙が貼られた。持ち込まれた家具は白木が中心で、全体的に大人びた雰囲気だ。付き添った父親の説明では、実家の部屋に近い状態を再現したという。
家具は新調するか、自宅から持ち込むことも出来る。彼女は持ち込む方を選んだ。もし新調を選ぶと、魔王妃のお支度予算を申請すれば費用がかからない。優秀なアスタロトとベールが捻出した予算は、意外と潤沢だった。ルシファーの個人資産が財源なのは、側近達の秘密だ。
ルーシアは水の妖精族の侯爵家令嬢で、象牙色の肌に青い髪、大きな青い目が特徴の幼女だった。保育園でリリスと同じクラスだったので、年齢も同じだ。
「パパ、ルーシアちゃん」
お友達を見つけると嬉しそうに名を呼んで手を振る。すごく可愛い仕草なのだが、問題点がひとつ。
「リリス。側近は名前で呼び捨てるようにしなさい」
「どうして?」
子供は「どうして」「なぜ」の疑問を連発する生き物だが、質問されると苛立つより可愛さが先にたつ。いきなり否定したり拒否せず、理由をきく姿勢は評価に値した。もっとも、リリスは大して深く考えずに反射的に尋ねているようだが。
「オレもベールやアスタロトを名前だけで呼ぶだろう」
「うん」
「名前で呼んだほうが親しそうだろ」
リリスが理解しやすい説明を選んた。主従だからという本来の理由は、いずれ学んでいく間に覚えるだろう。今は彼女が納得する理由で構わない。
「じゃあ、リリスも名前で呼んでもらう!」
「……うーん、ちょっと違うな。リリス様になるぞ」
「親しくなれないじゃん」
まさかの揚げ足取りに、ルシファーは必死に頭を使う。執務の時の比ではないほど、本気で考えて結論を導きだした。もしアスタロトがいれば、「普段から必死で頑張ってほしいものですね」と嫌味のひとつも口にしただろう。
「アスタロトはオレを『ルシファー様』と呼ぶが、親しいじゃないか。問題はないぞ」
「そうなのかな」
素直なリリスが首をかしげる。言われた内容を考えながら、抱っこするルシファーの顔を見た。にっこり笑って待つパパの表情に、ほわっと笑顔になる。
「うん、パパが言うならそうする」
「よかった。リリスが分かってくれて嬉しいぞ」
ぐりぐりと頬を擦り寄せてから、額にキスをした。擽ったそうにしながらも笑うリリスが振り返ると、ぽかんとした顔で侯爵が見つめている。
「あ……失礼しました」
慌てて目をそらす侯爵の足元で、ルーシアはくすくす笑っていた。リリスと一緒にいる魔王は常に甘い父親なので、接する機会が多かったルーシアの方が免疫が出来ている。
「今日から『リリス様』って呼ぶわね」
「うん、よろしくね。ルーシア」
挨拶が終わると、隣の部屋に移動した。
23
お気に入りに追加
4,905
あなたにおすすめの小説
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる