210 / 1,397
17章 リリスのお取り巻き
207. ゾンビの出口らしき洞窟がありました
しおりを挟む
舞い降りた場所は森の木がなく開けている。庭の一部扱いなので、エルフ達の管轄として手入れがされているのだろう。それでも蔦が木々を這い、少し薄暗い感じがする。
「方角はどっちだ?」
「あっち」
リリスはやや左側の木を指差した。ルシファーの目には魔の森の一部にしか見えず、特に異常は感じられない。隣をみると、ルキフェルも不思議そうな顔をしていた。どうやら彼も感じないらしい。
「あのね、大きな穴が開いてるの! そこが変な色してるよ」
リリスの表現する言葉はまだ多くない。そのため彼女の言う『へんな色』が何色を示すのか、またどのような状態を意味しているかわからなかった。だが異常を感じているのは確かだろう。
「変な色の場所で遊びたい?」
「やだ。ばっちいもん」
どうやら変な色は汚い色と置き換えることが出来そうだ。相槌を打って、リリスが示した方角へ歩き出す。徐々に腐肉の臭いが漂いだした。顔をしかめたルシファーが、3人まとめて結界で包む。
「酷い臭いだったな」
「ゾンビの臭いだ」
ルキフェルが顔をしかめながら呟く。可愛い鼻を摘むリリスの仕草に悶えていたルシファーは、一瞬反応が遅れた。しかし何とか取り繕う。
「そうだな……リリス、この先か?」
「ばっちいとこいくの?」
「綺麗にしないと遊べないだろう? この森もお城のお庭だぞ」
「広いね」
目を見開いて驚く幼女は、鼻を摘んでいた手を離して周囲を見回す。それから進行方向より少し右側を指差した。
「あの先に、ばっちいのがある」
「……リリスは便利」
ぼそっとルキフェルが指摘する。見えない瘴気の出所を指摘しているようなので、確かにすごく優秀で便利だ。否定できずに苦笑いしたルシファーだったが、さすがに2人とも距離が近づくと違和感を覚えた。
まず最初に、蜘蛛の巣に引っかかったような気持ち悪さが襲う。なんらかの結界が張られていたらしく、境界線を越える感覚が肌に残った。外から見れば魔の森がそのまま繋がっている景色に見えるのに、その境界線を越えた途端に風景は一変する。
立ち並ぶ木々はよじれて葉が変色し、足元の草は萎れていた。臭いは遮断しているが、きっと腐臭が酷いだろう。どうして管理しているエルフが気付かなかったのか、不思議だったが……境界線を越えていなかったら、彼女や彼らに気付く術はない。
森の木々が突然開ける。そこに、ぎりぎり通れる大きさの洞窟があった。小さな丘状態に盛り上がった土の穴は、周囲に腐肉が散乱している。そして死んだ魔物が複数倒れていた。どうやらここがゾンビの出口で間違いなさそうだ。
「……ルシファー、もしかして」
「オレだって嫌だが、どう見てもこの先がゾンビ製造現場だと思うぞ」
ここまできて帰るという選択肢はない。しかし踏み込みたいかと尋ねられれば、全力で辞退を申し出る状況だった。
「万能結界でどこまで防げるだろう」
ルシファーが顔をしかめる。それは攻撃に対しての不安ではなかった。ゾンビの腐肉がもつ病原菌や呪詛、臭い、感触……すべてを総括しての不安だ。いくら臭いや病原菌を遮断しても、上から落ちた腐肉のべっちょりした感覚が首筋を襲ったら、この森全体を吹き飛ばす自信があった。
アスタロトあたりが聞いたら「迷惑な自信ですね」と一刀両断されること請け合いだ。それでもルキフェルに「行って調べて来い」と命じないのが、ルシファーらしい。
「よし。万能結界を3重にして包んだリリスを任せる!」
突入の覚悟を決めたルシファーが、リリスをそっと地面に下ろした。危険がないよう、彼女の髪飾りに物理も臭いも魔法もすべて防ぐ魔法陣を貼り付ける。膝をついたルシファーが、ルキフェルとリリスの手を繋がせた。
「いいか、リリス。ここでルキフェルと待っててくれ」
「どうして?」
「オレはあの穴を調べてくる。(おもに腐肉落下が)危険だから、ルキフェルと一緒にいるんだぞ」
「わかった。ロキちゃんといる」
後にルシファーは、この時の己のセリフを悔やむことになる。どうしてもっと、具体的に言い聞かせなかったのか。得てして、後悔とは後ろについてくると思い知る破目になった。
「方角はどっちだ?」
「あっち」
リリスはやや左側の木を指差した。ルシファーの目には魔の森の一部にしか見えず、特に異常は感じられない。隣をみると、ルキフェルも不思議そうな顔をしていた。どうやら彼も感じないらしい。
「あのね、大きな穴が開いてるの! そこが変な色してるよ」
リリスの表現する言葉はまだ多くない。そのため彼女の言う『へんな色』が何色を示すのか、またどのような状態を意味しているかわからなかった。だが異常を感じているのは確かだろう。
「変な色の場所で遊びたい?」
「やだ。ばっちいもん」
どうやら変な色は汚い色と置き換えることが出来そうだ。相槌を打って、リリスが示した方角へ歩き出す。徐々に腐肉の臭いが漂いだした。顔をしかめたルシファーが、3人まとめて結界で包む。
「酷い臭いだったな」
「ゾンビの臭いだ」
ルキフェルが顔をしかめながら呟く。可愛い鼻を摘むリリスの仕草に悶えていたルシファーは、一瞬反応が遅れた。しかし何とか取り繕う。
「そうだな……リリス、この先か?」
「ばっちいとこいくの?」
「綺麗にしないと遊べないだろう? この森もお城のお庭だぞ」
「広いね」
目を見開いて驚く幼女は、鼻を摘んでいた手を離して周囲を見回す。それから進行方向より少し右側を指差した。
「あの先に、ばっちいのがある」
「……リリスは便利」
ぼそっとルキフェルが指摘する。見えない瘴気の出所を指摘しているようなので、確かにすごく優秀で便利だ。否定できずに苦笑いしたルシファーだったが、さすがに2人とも距離が近づくと違和感を覚えた。
まず最初に、蜘蛛の巣に引っかかったような気持ち悪さが襲う。なんらかの結界が張られていたらしく、境界線を越える感覚が肌に残った。外から見れば魔の森がそのまま繋がっている景色に見えるのに、その境界線を越えた途端に風景は一変する。
立ち並ぶ木々はよじれて葉が変色し、足元の草は萎れていた。臭いは遮断しているが、きっと腐臭が酷いだろう。どうして管理しているエルフが気付かなかったのか、不思議だったが……境界線を越えていなかったら、彼女や彼らに気付く術はない。
森の木々が突然開ける。そこに、ぎりぎり通れる大きさの洞窟があった。小さな丘状態に盛り上がった土の穴は、周囲に腐肉が散乱している。そして死んだ魔物が複数倒れていた。どうやらここがゾンビの出口で間違いなさそうだ。
「……ルシファー、もしかして」
「オレだって嫌だが、どう見てもこの先がゾンビ製造現場だと思うぞ」
ここまできて帰るという選択肢はない。しかし踏み込みたいかと尋ねられれば、全力で辞退を申し出る状況だった。
「万能結界でどこまで防げるだろう」
ルシファーが顔をしかめる。それは攻撃に対しての不安ではなかった。ゾンビの腐肉がもつ病原菌や呪詛、臭い、感触……すべてを総括しての不安だ。いくら臭いや病原菌を遮断しても、上から落ちた腐肉のべっちょりした感覚が首筋を襲ったら、この森全体を吹き飛ばす自信があった。
アスタロトあたりが聞いたら「迷惑な自信ですね」と一刀両断されること請け合いだ。それでもルキフェルに「行って調べて来い」と命じないのが、ルシファーらしい。
「よし。万能結界を3重にして包んだリリスを任せる!」
突入の覚悟を決めたルシファーが、リリスをそっと地面に下ろした。危険がないよう、彼女の髪飾りに物理も臭いも魔法もすべて防ぐ魔法陣を貼り付ける。膝をついたルシファーが、ルキフェルとリリスの手を繋がせた。
「いいか、リリス。ここでルキフェルと待っててくれ」
「どうして?」
「オレはあの穴を調べてくる。(おもに腐肉落下が)危険だから、ルキフェルと一緒にいるんだぞ」
「わかった。ロキちゃんといる」
後にルシファーは、この時の己のセリフを悔やむことになる。どうしてもっと、具体的に言い聞かせなかったのか。得てして、後悔とは後ろについてくると思い知る破目になった。
24
お気に入りに追加
4,963
あなたにおすすめの小説
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる