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17章 リリスのお取り巻き
199. 狐少女は困惑中
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城門の前に転移した途端、衛兵が駆け寄る。ルシファーの見慣れた姿は問題ないが、その足元にいる魔族に近づいて武器を突きつけた。
「役目ご苦労、それぞれの親族に連絡を取れ」
命じられた衛兵の一人が敬礼して走っていく。他の衛兵が3人に毛布を渡して包んだ。人族に追われた魔族を出先で回収した場合、まずは魔王城の城門へ運ばれる。親族が引き取りに現れるまで、城門で身柄を預るため毛布などの備品は常に用意されていた。
そのまま城に向かおうとして、ふと気付く。振り返った先で大人しく座っている3人のうち、ネイシアンス子爵家の娘はすぐに迎えがくるだろう。猫耳族の少年も家族が迎えにくるはずだ。しかし、毛布を掴んで震えているこの少女は『母親に売られた』と口にした。
迎えに来る親族はいるのか?
「パパ、どうしたの?」
状況が理解できていないリリスの頭を撫でて「少し待ってて」とお願いすると、素直に頷いた。城へ向かおうとしていた足を、小柄な少女へ向けなおす。
「そこの狐獣人の娘、さきほど母に売られたと言ったが……父親はどうした?」
父親が迎えに来るならいい。だが少女の様子から嫌な予感がした。そして、たいていの場合はこの予感が当たるのだ。
「お父さんは、死んじゃったから」
ぼそっと答えて毛布に顔を埋めた。小刻みに震える少女は、まだ7~8歳前後だ。もしかしたら食事をきちんと摂れていない可能性があるから、もう少し年齢は上かも知れない。
「他の親族は?」
「……知らないの」
彼女の頭に狐の耳はない。だが尻尾があるのだから、獣人と人族のハーフだろう。狐の尻尾を隠す術を知っていれば、人族の中で隠れて生きていくことも不可能ではなかった。
今の少女の状況から推測できるのは、3人で暮らしていたが獣人である父親が死に、狐尻尾のある娘を育て切れない人族の母親が我が子を売った。追い詰められ隠れて生きていく状況に耐え切れなくなったのか、我が子に愛情を抱けない母親だったのか。
どちらにしても、少女は天涯孤独と変わらなかった。
腕の中で大人しくしているリリスを見つめる。親に捨てられるという点において、目の前の狐少女とリリスに差はない。その後の状況が違うだけだった。
リリスと同じ扱いをする気はないが、この少女は引き取り手がなければ城門預かりのまま大人になる。
「今戻りました、陛下」
アスタロトが転移して一礼するのに頷き、リリスを地面に下ろした。意外そうな顔をするアスタロトを他所に、ルシファーも草の上に膝をつく。
「この子はパパもママもいない。このままだとヤンがいる城門で暮らすことになる。リリスはどうしたい? お前に任せる」
5歳の子供に難しい決断を委ねる。きょとんとした顔でルシファーの顔を見ていたリリスは、振り返って後ろで毛布に包まる少女に首をかしげた。
「パパもママもいないの? ご飯とか寝るとこ、どうするの?」
「城門でお仕事をして食べたり寝たりするんだよ」
噛み砕いて説明する。少し考えて、リリスは少女へ近づいた。慌てて止めようとするアスタロトと衛兵を視線で押し留める。これはリリスの教育の一環で、決断は彼女自身が下さなければならない。後に悔やむとしても、自分で決めた責任を教えるには最適だった。
「ねえ、お顔をみせて」
地面に座る少女に目線を合わせて、リリスはぺたんと地面に座った。着飾ったワンピースの汚れなど気にしない態度に驚いたのか、少女は顔を上げる。
目の前に座る幼女は、魔王様が大事に抱っこしていた。きっと偉い人の子で、捨てられた自分とは立場が違うのだと思う。しかし綺麗な服が汚れるのも気にせず、ぺたんと両足を広げて正座を崩した形で座った幼女は、可愛い顔で覗き込んでくる。
「あの……」
捕まっていた期間が長いから身体を洗ってないし、獣人は臭いと人族に言われ続けたから、近づかれると臭いを気にして後ずさってしまう。少女が下がった分、リリスは無邪気に近づいた。顔をしかめたりしない。
「この子、すごく綺麗な尻尾があるわ!」
毛布に包んだ身体はほぼ見えないが、大きな狐尻尾は外に飛び出していた。その尻尾を指差して褒めてくれたリリスに驚く。お父さん以外の誰も尻尾を褒めてくれた人はいなかったのに。
「役目ご苦労、それぞれの親族に連絡を取れ」
命じられた衛兵の一人が敬礼して走っていく。他の衛兵が3人に毛布を渡して包んだ。人族に追われた魔族を出先で回収した場合、まずは魔王城の城門へ運ばれる。親族が引き取りに現れるまで、城門で身柄を預るため毛布などの備品は常に用意されていた。
そのまま城に向かおうとして、ふと気付く。振り返った先で大人しく座っている3人のうち、ネイシアンス子爵家の娘はすぐに迎えがくるだろう。猫耳族の少年も家族が迎えにくるはずだ。しかし、毛布を掴んで震えているこの少女は『母親に売られた』と口にした。
迎えに来る親族はいるのか?
「パパ、どうしたの?」
状況が理解できていないリリスの頭を撫でて「少し待ってて」とお願いすると、素直に頷いた。城へ向かおうとしていた足を、小柄な少女へ向けなおす。
「そこの狐獣人の娘、さきほど母に売られたと言ったが……父親はどうした?」
父親が迎えに来るならいい。だが少女の様子から嫌な予感がした。そして、たいていの場合はこの予感が当たるのだ。
「お父さんは、死んじゃったから」
ぼそっと答えて毛布に顔を埋めた。小刻みに震える少女は、まだ7~8歳前後だ。もしかしたら食事をきちんと摂れていない可能性があるから、もう少し年齢は上かも知れない。
「他の親族は?」
「……知らないの」
彼女の頭に狐の耳はない。だが尻尾があるのだから、獣人と人族のハーフだろう。狐の尻尾を隠す術を知っていれば、人族の中で隠れて生きていくことも不可能ではなかった。
今の少女の状況から推測できるのは、3人で暮らしていたが獣人である父親が死に、狐尻尾のある娘を育て切れない人族の母親が我が子を売った。追い詰められ隠れて生きていく状況に耐え切れなくなったのか、我が子に愛情を抱けない母親だったのか。
どちらにしても、少女は天涯孤独と変わらなかった。
腕の中で大人しくしているリリスを見つめる。親に捨てられるという点において、目の前の狐少女とリリスに差はない。その後の状況が違うだけだった。
リリスと同じ扱いをする気はないが、この少女は引き取り手がなければ城門預かりのまま大人になる。
「今戻りました、陛下」
アスタロトが転移して一礼するのに頷き、リリスを地面に下ろした。意外そうな顔をするアスタロトを他所に、ルシファーも草の上に膝をつく。
「この子はパパもママもいない。このままだとヤンがいる城門で暮らすことになる。リリスはどうしたい? お前に任せる」
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「パパもママもいないの? ご飯とか寝るとこ、どうするの?」
「城門でお仕事をして食べたり寝たりするんだよ」
噛み砕いて説明する。少し考えて、リリスは少女へ近づいた。慌てて止めようとするアスタロトと衛兵を視線で押し留める。これはリリスの教育の一環で、決断は彼女自身が下さなければならない。後に悔やむとしても、自分で決めた責任を教えるには最適だった。
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