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14章 飛び散るあれこれ、料理は爆発だ!

155. お菓子つくりたい

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「パパ、リリスもお菓子つくりたい」

 突然のたまう幼女と手を繋いで歩きながら、ルシファーはゆっくり首をかしげた。お揃いでポニーテールにしたため、背の純白の髪がさらりと流れる。真似をしたのか、リリスも同じように黒髪を傾けた。

「もちろん応援するよ。リリスが作るお菓子が楽しみだ。突然思いついたの?」

 まずは味方であることと、反対していない表明アピールは大事だ。その上で、誰かの入れ知恵じゃないか確かめる必要があった。

 つい先日までリリスはおままごとに凝っていた。かなり危険な、巻き込まれた奴が人族なら命がなくなりそうな遊びだが、入れ知恵をしたベルゼビュート大公の存在が明らかになったのだ。彼女はしっかり粛清しゅくせいされたが、同様の事件ならば防がねばならない。おもに身の危険を回避するために……。

 朝日眩しい散歩時間は、少し離れて護衛するヤンのお陰で今日も平和だった。そう、ちょっと矢やファイアーボールが飛んできた程度だ。それらを無造作に結界で撥ね退けながら、ルシファーはリリスの答えを待った。

「あのね、ルーシアはお菓子作ったの。ルーシアがパパにあげたら、美味しくて……それで」

 自分でも一度に沢山伝えようとし過ぎて、何を言おうとしていたのかわからなくなったリリスが、続きを考えながら指を咥えた。赤ちゃんの頃によく見せていた仕草だが、困ったりすると今でも見せる。見慣れた癖に可愛いと頬を緩ませ、ルシファーが助け舟をだした。

「もしかして、パパにも作ってくれるのか? だったら嬉しいな。きっとリリスが作るお菓子は凄く美味しいぞ、楽しみだ」

「うんっ! リリスがパパの作る」

 嬉しそうにはしゃぐ幼女と歩く後ろから再び矢が飛んでくる。ひらっと手を振って蝿のように弾いたルシファーは振り返らない。後ろでフェンリルに襲われる人族の悲鳴は、リリスに届かぬよう結界で遮断した。

 先ほどリリスの口から出たルーシアという名は、ルシファーも聞き覚えがある。たしか、水の妖精族ウンディーネで貴族家だったはず。遠足の際にリリスに友人として紹介された。

 魔族においての貴族とは『一族の監督責任やまとめ役』程度の認識しかない。つまり、特権階級ではなかった。そのため貴族は裕福な存在ではなく、意外と庶民的な家庭も少なくない。貴族令嬢であるルーシアが自ら菓子を作るという話も、よくある日常の一場面だろう。

「今日は保育園休みだから……今日やる」

「そうだね、よく数えられたな。お菓子作りはアデーレにも手伝ってもらおうか」

 日付の感覚がしっかりしてきたリリスは、指を倒して休日を数えた。今日は休みだと嬉しそうに笑うから、しゃがみこんで抱き締める。同じシャンプーの香りがする黒髪に頬ずりした。

 以前に食事用として作った白いエプロンはまだ使えるだろうか。抱き上げようと手を回した途端にリリスがぺちんと叩いた。

「パパ、お散歩は歩くのよ。抱っこはダメなの」

 アスタロトが口にする注意を覚えてしまったらしい。仕方なく抱っこを諦めたルシファーは再び手を引いて歩き出した。

「我が君、あの獲物はもらっても構いませぬか?」

「ああ、やるぞ」

 興味がない襲撃者の話を一言で片付ける。嬉しそうに尻尾を振ったヤンが、駆け寄った魔狼達に獲物を分け与えていた。どうやら自分が食べる分じゃないらしい。

「パパぁ、ヤンも狩りするの?」

「リリスと同じくらい上手だよ」

 にっこり笑って肯定しながら、彼女が振り返ろうとするのを何とか留める。手に馴染んだ純白の髪を少しだけ掴んだリリスは、にっこり笑って歩き出した。ポニーテールをしているため、いつもより上に持ち上げられた毛先が、ちょうど幼女の手にぴったりなのだ。

「ヤンと一緒に狩りしたい~」

「パパも一緒に連れて行ってほしい」

 危険の有無ではなく、寂しいから仲間に入れて欲しいと呟けば、リリスは目を見開いた。驚くような発言だったかと立ち止まったルシファーへ、リリスは「パパが一緒じゃないわけないじゃん」と返して大いに喜ばせた。
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