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12章 ワイバーンが拉致りました

146. なんでコレも連れて来た!?

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※多少血生臭い残酷表現があります。
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 アスタロトが魔力の網で確保したワイバーンの群れは、ぐちゃぐちゃに絡まっていた。翼を仕舞えない翼竜の類なので仕方ないが、互いの爪が互いの翼を傷つけあう最悪の状況だ。

 投網の中の魚をイメージすると分かりやすいかも知れない。

 網を広場の中央に置くと、アスタロトは捕らえていた網を消した。とたんに翼が無事で飛べるワイバーンが浮かび上がる。目の前にいる膨大な魔力の持ち主に怯える魔物はそのまま逃走を図り……すぐに透明な壁にぶつかった。

「バカですね、逃がすわけがないでしょう」

 苦笑いするアスタロトだが、結界を張ったのは彼ではない。ご機嫌で鼻歌を歌うルキフェルだった。竜族ドラゴンの中でも高い魔力を誇る子供は、子供ゆえの残酷さで無邪気に力を揮う。

 逃げられぬ透明の虫篭の中で、トカゲは弱そうな者を選んで襲い掛かった。

 成人男性のアスタロトより小柄な女性であるベルゼビュート、久しぶりに保護者ベールに抱っこされてご機嫌の子供ルキフェル、魔王の腕にいる幼女リリス。一般的に狙いは間違っていないが、それぞれが弱いかと問われたら否だ。

「あたくしを狙うなんて、目の悪いトカゲね」

 くすくす笑うベルゼビュートの手が振られると、目の前のワイバーンが刻まれていく。何も持っていないように見えるが、彼女の手には光を弾く透明の刃があった。ニンフの最上位種である彼女は、風と水に愛されている。白い手の延長となる透明の刃は、ワイバーンの翼を徹底的に痛めつけた。

「私の出番がなくなりそうですが」

 ワイバーンに避けられたアスタロトが獲物を横取りする。ベルゼビュートの刃は2mほど、範囲の外で羽ばたくワイバーンの翼をアスタロトの剣が付け根から切り落とした。愛用の銀の剣が陽光に照らされ、虹色の輝きを放つ。四大属性に類さない剣は、返り血を弾いて美しい姿を見せ付けた。

「僕はね、妹のリリスを苛める奴は許さないんだよ。あと僕を見くびる子も嫌い」

 以前より達者になった話し方で、ルキフェルは残酷な子供の振る舞いで手を伸ばす。ワイバーンと同じ竜の翼を背負い、ふわりと浮き上がって翼竜に肉薄した。

 目の前のトカゲを掴むと顔を近づけ、可愛らしい顔に残忍な笑みを浮かべる。怯えるワイバーンを素手で引き裂き、手についた返り血をぺろりと舐めた。息の根を止めるような親切な真似はしない。

「……自動的に役割が決まってしまいましたね」

 諦めの表情でベールが魔法陣を展開する。淡い緑の魔法陣が広場全体をカバーした。透明の籠の中を飛び回る獲物すべてを癒す魔法陣は、加害者が飽きるまで被害者が死ぬことを許さない呪縛だった。死ねない以上、一定の傷を受けると癒されてしまう。

 引き千切られようと、切り刻まれようと、即死しない限りループし続けるのだ。残酷な饗宴を前に、ルシファーは別の魔物に気を取られていた。

 足元をするすると移動するコブラに似た細長い身体は、赤と黒の縞模様だ。

「ひっ……あ、アスタロト! なんでコレも連れて来た!?」

「生きた魔物すべてを指定したからでしょうね」

 大嫌いな猛毒サーペントの存在に、ワイバーンそっちのけでルシファーが後退る。威嚇するように広げた翼に、リリスは目を輝かせた。

「パパ、こっちのきれい」

 普段と違う2対の翼を1枚掴むと、ぶちっと羽根を1枚引き抜いた。

「痛っ、なに? 噛まれた!?」

 パニックになったルシファーの足元に魔法陣が浮かぶ。周囲を結界で包んでいたことも忘れ、反射的に攻撃した。立ち上がったサーペントの首を風が切り裂く。そのまま残った胴体も丁寧に輪切りにして転がした。

「……あ」

 黒い羽根を掴んで喜ぶリリスの姿に、先ほどの痛みが噛まれたわけじゃないと気付く。ほっと安堵の息をついたルシファーへ、ベールが怒りを浮かべて近づいた。
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