131 / 1,397
11章 即位記念祭は危険がいっぱい
128. 細々した準備に追われる
しおりを挟む
侍従のベリアルが忙しくメモを取り、注文書を発行した。金額に糸目をつけず仕立てられるドレスやジュエリー類は、すべてリリスの分のみだ。自分の服はすっかり忘れている魔王は、腕の中の幼女の頬にキスを降らせた。
「ルシファー様、次が待っています」
アスタロトの指摘に、慌てて緩んだ顔を引き締める。
「王族に相応しい品格のマントと杖でしたら、こちらなどいかがでしょう」
リリスに必要かと問われたら、正直まだ要らないと思う。振り回してあちこちぶつける未来が見えるし、杖やマントを今のサイズで仕立てても、来年にはサイズが小さくなってしまうのだ。それでも王族の席、魔王の膝の上に座る以上手ぶらと言うわけにもいかず……。
「マントの赤はもう少し暗く、杖はトネリコの枝を使え」
世界の中心と言われる大樹の枝を指示して、詳細にマント生地の打ち合わせをする。将来的に作り直すとしても、適当なものをリリスに与える気はなかった。細かくデザインにも口出しして、ようやく満足した。
「ルシファー様、多少予算と時間がオーバーしております」
恭しく告げるアスタロトの目が笑っていない。予定されていた予算も、決められた時間もオーバーしたということは、彼の機嫌もその分だけ下降したはずだ。
「足りない予算はオレの金を使えばいいだろ。宝石も出すし」
ベリアルが差し出した支払いの書類へ、ルシファーは確認せずサインした。にっこり笑ったアスタロトが「そうですか? 陛下の個人資産を使えるなら問題ありませんね」と柔らかく締めくくる。
そう……側近の恐怖の笑みにつられてサインした書類の金額は、予想外の高額であり……引き出された金額に気付いたルシファーが悲鳴をあげるのは、わずか数日後の出来事だった。
リリスに関する予算をすべてルシファーの資産から引き出した側近は、その辣腕を別の場所で揮っていた。ルシファーは忘れているが、彼自身の衣装や装備…という名の装飾品も必要なのだ。幸いにしてサイズがほとんど変わらない主君の装いを一式注文し、アスタロトは次の仕事に移った。
祝いの品として届けられた物をチェックし、会場の装飾や飲食物の手配を行う。簡単そうだが、意外と面倒な仕事だった。即位記念祭は10年ごとに行われるため、前回の仕様を確認して装飾の手配をしなくてはならない。種族によって好む飲食物が違うので、ありとあらゆる種類が取り揃えられた。
各種族から届けられる祝いの品も、すべて確認しなくてはならない。後日礼状を発送する都合上、分類して誰から貰ったか記録をつけながら、アスタロトは淡々と自らの仕事を片付けていった。
その頃のベールは警備手配を一手に引き受け、人族や魔物の襲撃も想定して結界の準備を行う。毎回騒動が起きるため、騒動が起きることを予防するより対策を考える方が一般的だった。
過去の記録を探して、式典の詳細を各部署に通達するルキフェルも、休み返上で働いていた。忙しく動き回る侍従達に指示を出しながら、記憶を頼りに過去の式典の作法や手順を書き出すのだ。
会計担当のベルゼビュートは予算のやりくりの合間に、小さな紙に何かを書き込んでいた。様々な予想と金額を記した数枚の紙をハイエルフの側近へ手渡す。続いて豊満な胸元に隠していた金貨の袋も取り出した。
「これらをバアルに渡して。きちんと引き換えの半券を受け取るのよ」
今回の賭け予想は『即位記念祭で襲撃事件は何回起きるか?』『魔王陛下が襲撃犯を撃退するとしたら、その所要時間は?』の2本立てだった。金貨10枚という大枚をはたいたベルゼビュートの賭けは、今回も危険な橋を渡るギリギリの設定だ。彼女の金貨が増えるかどうかは、神のみぞ知る。
「ルシファー様、次が待っています」
アスタロトの指摘に、慌てて緩んだ顔を引き締める。
「王族に相応しい品格のマントと杖でしたら、こちらなどいかがでしょう」
リリスに必要かと問われたら、正直まだ要らないと思う。振り回してあちこちぶつける未来が見えるし、杖やマントを今のサイズで仕立てても、来年にはサイズが小さくなってしまうのだ。それでも王族の席、魔王の膝の上に座る以上手ぶらと言うわけにもいかず……。
「マントの赤はもう少し暗く、杖はトネリコの枝を使え」
世界の中心と言われる大樹の枝を指示して、詳細にマント生地の打ち合わせをする。将来的に作り直すとしても、適当なものをリリスに与える気はなかった。細かくデザインにも口出しして、ようやく満足した。
「ルシファー様、多少予算と時間がオーバーしております」
恭しく告げるアスタロトの目が笑っていない。予定されていた予算も、決められた時間もオーバーしたということは、彼の機嫌もその分だけ下降したはずだ。
「足りない予算はオレの金を使えばいいだろ。宝石も出すし」
ベリアルが差し出した支払いの書類へ、ルシファーは確認せずサインした。にっこり笑ったアスタロトが「そうですか? 陛下の個人資産を使えるなら問題ありませんね」と柔らかく締めくくる。
そう……側近の恐怖の笑みにつられてサインした書類の金額は、予想外の高額であり……引き出された金額に気付いたルシファーが悲鳴をあげるのは、わずか数日後の出来事だった。
リリスに関する予算をすべてルシファーの資産から引き出した側近は、その辣腕を別の場所で揮っていた。ルシファーは忘れているが、彼自身の衣装や装備…という名の装飾品も必要なのだ。幸いにしてサイズがほとんど変わらない主君の装いを一式注文し、アスタロトは次の仕事に移った。
祝いの品として届けられた物をチェックし、会場の装飾や飲食物の手配を行う。簡単そうだが、意外と面倒な仕事だった。即位記念祭は10年ごとに行われるため、前回の仕様を確認して装飾の手配をしなくてはならない。種族によって好む飲食物が違うので、ありとあらゆる種類が取り揃えられた。
各種族から届けられる祝いの品も、すべて確認しなくてはならない。後日礼状を発送する都合上、分類して誰から貰ったか記録をつけながら、アスタロトは淡々と自らの仕事を片付けていった。
その頃のベールは警備手配を一手に引き受け、人族や魔物の襲撃も想定して結界の準備を行う。毎回騒動が起きるため、騒動が起きることを予防するより対策を考える方が一般的だった。
過去の記録を探して、式典の詳細を各部署に通達するルキフェルも、休み返上で働いていた。忙しく動き回る侍従達に指示を出しながら、記憶を頼りに過去の式典の作法や手順を書き出すのだ。
会計担当のベルゼビュートは予算のやりくりの合間に、小さな紙に何かを書き込んでいた。様々な予想と金額を記した数枚の紙をハイエルフの側近へ手渡す。続いて豊満な胸元に隠していた金貨の袋も取り出した。
「これらをバアルに渡して。きちんと引き換えの半券を受け取るのよ」
今回の賭け予想は『即位記念祭で襲撃事件は何回起きるか?』『魔王陛下が襲撃犯を撃退するとしたら、その所要時間は?』の2本立てだった。金貨10枚という大枚をはたいたベルゼビュートの賭けは、今回も危険な橋を渡るギリギリの設定だ。彼女の金貨が増えるかどうかは、神のみぞ知る。
39
お気に入りに追加
5,069
あなたにおすすめの小説
魔王様、逃がすわけないでしょう?
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「あの人はどこに逃げやがりましたか」
怒りを滲ませて、私アスタロトは魔王を捜しまくる。毎日懲りることなく、仕事を放り出して単独で出歩く魔王ルシファー様を追いかけた。
魔王即位から千年余り。魔王の地位を争った実力者は、全員、ルシファー様の部下となった。魔王を支える大公の地位を得て、ベールやベルゼビュートと並び称される私は彼の補佐官をしている。
実力はあるが、どこか抜けている主君は今日も騒動を引き寄せる。後始末ばかり押し付けて、あなたという人は! 捕まえて、今日こそ反省していただきます。
※魔王様シリーズの最新話ですが、時間軸は初期になります。外伝に近い形で、主役はアスタロトです。リリスやルキフェルは出てきません。単独で楽しめるよう頑張ります(´▽`*)ゞヶィレィッッ!! シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2025/03/14……エブリスタ、トレンド1位
2025/03/13……連載開始

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる