上 下
98 / 1,397
8章 魔王陛下の嫁取り騒動勃発

95. 久しぶりの魔王城

しおりを挟む
 魔王城の中庭に踏み込むと、見上げるサイズの巨石がごろごろしていた。

「きらきらの石」

 リリスは目を輝かせるが、子供の遊び道具ではないのでスルーする。なんとか手を伸ばして触れようとするリリスを掴まえたまま、出迎えにきた大公達に向き直った。

「魔王陛下、ご帰城お待ち申し上げておりました」

「陛下には、しばらくご不便をおかけします」

「ああ、ご苦労。どこまで出来た?」

 一部、城の修繕を手伝いに来ていた諸侯も並んでいるため、ルシファーは大仰に頷いて挨拶を受ける。その頭によじ登ろうとする幼女に、肩を足蹴にされているとしても……誰もが見ていないフリで目をそらした。ルシファーの頭の上から雲母煌く石へ触れて満足したのか、リリスは大人しく降りてくる。

「陛下の居室でございますが、やっと完成しました。本日からお使いいただけます。リリス嬢のお部屋はしばらくかかりそうです」

 ベールが一礼して案内をかってでる。後ろをついて歩き出したルシファーの腕に落ち着いたリリスは、今度はヤンを探してきょろきょろし始めた。

「どうした? リリス」

「ヤンは?」

 一緒に転移したヤンは城門で寝そべっていた。最近は昼寝の時間を削って警護していたため、ゆっくり休ませてやった方がいいだろう。苦笑いしたルシファーがリリスの黒髪を撫でながら言い聞かせる。

「ヤンは疲れたからお休みだ。門にいるから、後で焼き鳥を運んでやろう」

 昨日リリスが撃ち落したコカトリスは、まだ大量に残っている。魔族でもコカトリスは毒抜きしたら食べられる認識があるので、食材としてアスタロトが運んだのだ。城の建設作業に従事するドワーフなどにも振舞われる予定だった。

「わかった」

 手をあげて笑う幼子に、後ろをついていく貴族達がほんわかする。久しぶりの魔王との対面で緊張した人々を、彼女は意図せず癒していた。

「パパ、リリスの(お部屋)は?」

「今作ってる」

 小声で会話しながらベールの背中についていくと、廊下が工事中の区間にはいった。正面の城門から見える壁は最優先で作ったらしいが、奥に入るに従い、焼け焦げた壁や修繕前の穴が目立つ。完成に10年と見積もっていたが、本当に10年で間に合うのか。

 工事の進行状況を検分しながら歩くルシファー達は、荷運びを担当するゴーレムとすれ違った。稀に人族に使役されることもあるが、基本的に彼らは大人しい。人型のゴーレム以外にも、大型犬のような四足のタイプも見受けられた。岩で出来たような身体をしている。

「あれも、わんわん?」

「ゴーレムだ」

「ふーん」

 リリスが「ばいばい」と手を振ると、手が空いているゴーレムが一斉に手を振り返した。にこにこご機嫌のリリスは、その後もドワーフや首なし騎士デュラハン相手に手を振っている。おかげでルシファーの魔王城帰還は、彼らの口経由であっという間に知れ渡った。

 ふと、先導していたベールが止まる。

「こちらです」

 城を建て直す勢いで設計変更した結果、居室はすべて奥へ纏められた。警護の関係を考えれば、確かに魔王や関係者の居住スペースは城の奥が向いている。入り口に執務関係の部屋をまとめ、中央に中庭と謁見関連の広間を作るらしい。

 開かれた扉の先はすでに人が住める状態に整えられていた。他の貴族を置き去りに、さっさと部屋に入ったルシファーに続いて、後ろ手にアスタロトがドアを閉める。新しい家具が並ぶ室内を見回し、とりあえずソファに落ち着いた。

「なんで大名行列しなきゃいけないんだ?」

「仕方ありませんね。民を庇った行為は有名ですから、心酔する貴族が増えていまして」

 断りきれなかったとアスタロトは笑う。大げさにしたくなかったと嘆くルシファーをよそに、いろいろな種族を見たリリスは指を折って数えていた。

「石のわんわんと、小さいおじちゃん、ライン君のパパ、兎さん、首取れた人」

 見かけた中で興味を惹かれた種族を並べるリリスの頭を撫でる。それだけで癒されるルシファーの前に、アスタロトが紅茶を用意した。ベールは書類と図面を手に戻ってくる。

「このお部屋は今日からお使いいただけますが、隣室は家具がまだです。あとこの辺りもまだ使えません」

 地図や図面を広げて説明され、頷きながら記憶していく。工事区域にリリスが迷い込むと危険だ。ふと気になる部屋を見つけた。ルシファーの部屋から扉経由で繋がっているが、クローゼットではなかった。

「この部屋、なんだ?」
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?! 異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。 #日常系、ほのぼの、ハッピーエンド 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/08/13……完結 2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位 2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位 2024/07/01……連載開始

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...