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7章 療養という名の隔離

91. 朝食はベーコンにしましょう

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「眷属に始末させましょう」

 アスタロトが魔法陣で呼び出したのは、大量の巨大なコウモリだった。ミミズを捕食する姿は、ちょっと映像に出来ないグロさがある。しかし確実に数を減らすミミズと、突かれて苦しむワームに対して適切な対処だった。

「うん、帰ろう。グロいし臭い」

 鼻がいいだけにヤンも顔を顰めている。彼の背に乗せてもらって踵を返したところに、今度は城門脇の森からミノタウロスやオークが雄たけび上げて走ってきた。森の王者フェンリルを前に怯んだ様子はなく、やはり操られている可能性が高かった。

 アスタロトが感じた気配は、ワームじゃなくこちらだったかも知れない。

「ヤン、任せる」

「承知しました」

 直後、ヤンの魔力を込めた遠吠えが響く。すると呼び寄せられたのか、コボルトや魔狼が大量に駆け寄ってきた。足の速い彼らはヤンの前に陣を敷くと、ミノタウロスやオークの連合に勢いよく立ち向かう。

「……任せたら混戦になってしまった」

 正直、面倒くさい。オレの魔力が使えれば、一瞬で片がつく話なのに。そう思うから余計に苛立つ。

「パパ、リリスもアオーンって、してもいい?」

 ヤンの遠吠えの真似事だろう。両手で口元にホーンを作る仕草が可愛くて、黒髪に頬ずりしながら頷いて許可を出した。

「いいよ」

 本当に可愛いな……リリスは。駄々漏れの感情を滲ませただらしない顔で、幼女を自分の前に座らせる。ヤンの毛皮に沈み込みそうなリリスが大きく息を吸い込み、アオーンと遠吠えの真似をした。

「はあ?!」

 間抜けな声が漏れる。リリスの放った魔力を込めた遠吠えは、棍棒を振り上げたミノタウロスを吹き飛ばし、オークやオーガも襲った。彼女が手で作ったホーンの先で、魔物が真っ二つに割れている。群れの中央を吹き飛ばしたことで、司令塔不在の群れが混乱をきたした。

 あちこちから逃げ出すゴブリンやオークが見られ、オーガも不安そうにきょろきょろしている。リリスが吹き飛ばした中央部は、魔物の死体すら残っていなかった。

「今の魔力は……陛下、ではない?」

 慌てて駆け寄ったアスタロトが首をかしげ、得意げに幼い胸をそらしたリリスと崩れた魔物の群れを交互に確認する。そっと手を伸ばしてリリスの頭を撫でると、アスタロトの手を無邪気に喜ぶリリスがはしゃいだ。

「アシュタの撫で撫で! パパ、リリスすごい?」

「あ……ああ、凄いな」

 ほかに言葉が見つからないルシファーと、困惑したヤンが顔を見合わせる。

「凄いですね、リリス嬢に陛下を守ってもらえそうです」

 アスタロトのとんでもない発言に、リリスは赤い瞳を輝かせた。両手を精一杯あげて、自己主張する。

「あい! リリスがパパを守る!!」

「頑張ってくださいね」

 撫でてもらってご機嫌のリリスに対し、ルシファーは複雑そうな声で呟いた。

「……パパ、情けない」

「おや。愛されている証拠でしょう。素直に守られておきなさい」

 あと数年したら近づかないでと言われるでしょうし。不吉な予想を笑顔に隠し、アスタロトは残った魔物を風で切り裂いた。台風並みの風が魔物を巻き上げ、切り刻み、大地に降り注ぐ。

「本当にお前は容赦ない」

「とっくにご存知でしたでしょう」

 嫌味を笑ってやり過ごしたアスタロトは、汚れた城門前の大地を眺めた。ワームが掘り起こした土が盛り上がり、中身を撒き散らしたワームが散らばる。少し離れた場所は風に刻まれた豚や牛が転がっていた。いや、魔物なので家畜扱いは失礼だろう。

 ミノタウロスやオークの欠片は、ヤンが呼び寄せたコボルトや魔狼達が有り難く頂戴するらしい。元の形を知らなければ、豚肉であり牛肉だった。彼らにとってご馳走だ。

 平伏して敬意を示してから、それぞれの群れが獲物を分配して運んでいく。弱肉強食の彼らを見送っていると、一匹がヤンの前に獲物を献上した。すると他の群れの長も獲物を選んで運んでくる。

「豚さん! ベーコン!」

 オーク肉の塊を指差すリリスに「やめなさい」と諭すルシファーだが、彼女は興奮してベーコンと繰り返す。そのはしゃいだ姿に肉を運んだ魔狼が得意げに鼻を鳴らした。悔しいのか、他の群れからもオーク肉が献上される。大量に詰まれた肉を見ながら、アスタロトが残酷な決断をした。

「朝食はベーコンにしましょう」
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