77 / 1,397
6章 まさかの女勇者誕生?!
74. ゆーしゃなんていなければいい
しおりを挟む
パパが変なこと言い出した。よく読んでくれた絵本を見せて、「ゆーしゃになるか?」って聞く。あの絵本は好きだったけど、今は好きじゃないのに。
だってパパが負けちゃう。ばさっと斬られて消えてしまったから。この絵本を見ると悲しくなる。パパがいなくなるなら、ゆーしゃなんていなければいい。
じわりと目に涙が浮かんだ。ご飯も美味しくなくなった。もう食べたくない。フォークを放り出して、頬を膨らませた。
パパはリリスがゆーしゃになると思ったの? そうしたらパパとケンカしなきゃいけないのに。
「パパ死んじゃう……やだ」
ぽろりと頬を涙が零れると、我慢できなくなった。うわあああ…と声を上げて泣く。抱っこしているパパの方を向いて、手当たり次第に叩いた。
困ったような顔をして、おろおろしているパパの姿にまた涙が零れる。パパがいなくなるのが嫌なのに、どうして伝わらないんだろう。もっと言葉が上手なら、パパも分かってくれるの?
いきなり泣き出したリリスの頬を大粒の涙が伝う。膝の上で泣きながら叩いて抗議する幼子の姿は、ひどく可哀相で……庇護欲をかきたてた。
「ごめんな、勇者にも負けないから泣かないで」
小さな身体を抱き寄せれば、叩く手が顔や首にあたる。それでも、そのまま抱き締めた。ぎゅっと強く抱いて頬や額にキスをすれば、少し大人しくなる。まだぽかぽか叩いているが、機嫌はちょっと上昇したらしい。尖った唇が元に戻っていた。
食事を途中で放り出してしまったが、リリスに食べる気はもうない。白い髪を掴んだまま、うとうとし始めた。泣き疲れてしまったのだろう。こんなに泣かせてしまうと思わなかった。これは反省しなくてはならない。
「大丈夫、パパがリリスを守るから。もっと強くなるよ」
黒髪を何度も撫でてやる。このまま寝かせてしまおうと思ったのに、盛大に邪魔が入った。バタンと扉を開けて入ってきたのは、表情を消したアスタロトだ。黒い笑みを浮かべているのも怖いが、違う意味で無表情はヤバイ。何をするかわからなかった。
「アスタロト? ノックくらい……」
「緊急事態です」
私室に乱入されたのに、反論を封じられてしまう。よく見れば分厚い本を手にしていた。開いたページに栞を挟んでいる様子から、何か発見したのか。古い文献の黒革の背表紙は見覚えがあった。魔族の歴史を記した、現在8000冊に至る歴史書の1冊だ。
「何があった?」
「ここをご覧ください」
食卓の料理を避けたアスタロトが本を広げる。高さ50cmほどの大きな本を開くと、テーブルはいっぱいになった。開いたページには、種族を区別する特徴が書かれているようだ。
「ここです」
一覧表になった種族の一番下に追記された人族の欄を指差す。抱き着いて眠りかけたリリスの背をぽんぽん叩きながら、あまり揺らさないように覗き込んだ。
人族の区分は、魔族以外と大雑把に示されている。逆を言えば、魔族のどの種族の特徴も持たない者を人族と呼んできた。角や翼、変身能力、魔力などがなければ「人族」なのだ。
「これがどうした?」
「リリス嬢ですが、魔族ではありませんか?」
きょとんとしてルシファーは側近を見上げる。淡い金の髪をかき上げたアスタロトは真顔で、冗談を言ったわけじゃなかった。だが理解が追いつかない。
「何の話だ?」
「ですから、リリス嬢の種族です。今まで人族と魔族のハーフは人族に分類してきました。その一番の理由が特徴がなく魔力がないからです。彼女は強大な魔力を秘めている。そこは誰も異存がありません。過去の実例と比較して、リリス嬢は魔族に分類されます」
「はあ……」
だってパパが負けちゃう。ばさっと斬られて消えてしまったから。この絵本を見ると悲しくなる。パパがいなくなるなら、ゆーしゃなんていなければいい。
じわりと目に涙が浮かんだ。ご飯も美味しくなくなった。もう食べたくない。フォークを放り出して、頬を膨らませた。
パパはリリスがゆーしゃになると思ったの? そうしたらパパとケンカしなきゃいけないのに。
「パパ死んじゃう……やだ」
ぽろりと頬を涙が零れると、我慢できなくなった。うわあああ…と声を上げて泣く。抱っこしているパパの方を向いて、手当たり次第に叩いた。
困ったような顔をして、おろおろしているパパの姿にまた涙が零れる。パパがいなくなるのが嫌なのに、どうして伝わらないんだろう。もっと言葉が上手なら、パパも分かってくれるの?
いきなり泣き出したリリスの頬を大粒の涙が伝う。膝の上で泣きながら叩いて抗議する幼子の姿は、ひどく可哀相で……庇護欲をかきたてた。
「ごめんな、勇者にも負けないから泣かないで」
小さな身体を抱き寄せれば、叩く手が顔や首にあたる。それでも、そのまま抱き締めた。ぎゅっと強く抱いて頬や額にキスをすれば、少し大人しくなる。まだぽかぽか叩いているが、機嫌はちょっと上昇したらしい。尖った唇が元に戻っていた。
食事を途中で放り出してしまったが、リリスに食べる気はもうない。白い髪を掴んだまま、うとうとし始めた。泣き疲れてしまったのだろう。こんなに泣かせてしまうと思わなかった。これは反省しなくてはならない。
「大丈夫、パパがリリスを守るから。もっと強くなるよ」
黒髪を何度も撫でてやる。このまま寝かせてしまおうと思ったのに、盛大に邪魔が入った。バタンと扉を開けて入ってきたのは、表情を消したアスタロトだ。黒い笑みを浮かべているのも怖いが、違う意味で無表情はヤバイ。何をするかわからなかった。
「アスタロト? ノックくらい……」
「緊急事態です」
私室に乱入されたのに、反論を封じられてしまう。よく見れば分厚い本を手にしていた。開いたページに栞を挟んでいる様子から、何か発見したのか。古い文献の黒革の背表紙は見覚えがあった。魔族の歴史を記した、現在8000冊に至る歴史書の1冊だ。
「何があった?」
「ここをご覧ください」
食卓の料理を避けたアスタロトが本を広げる。高さ50cmほどの大きな本を開くと、テーブルはいっぱいになった。開いたページには、種族を区別する特徴が書かれているようだ。
「ここです」
一覧表になった種族の一番下に追記された人族の欄を指差す。抱き着いて眠りかけたリリスの背をぽんぽん叩きながら、あまり揺らさないように覗き込んだ。
人族の区分は、魔族以外と大雑把に示されている。逆を言えば、魔族のどの種族の特徴も持たない者を人族と呼んできた。角や翼、変身能力、魔力などがなければ「人族」なのだ。
「これがどうした?」
「リリス嬢ですが、魔族ではありませんか?」
きょとんとしてルシファーは側近を見上げる。淡い金の髪をかき上げたアスタロトは真顔で、冗談を言ったわけじゃなかった。だが理解が追いつかない。
「何の話だ?」
「ですから、リリス嬢の種族です。今まで人族と魔族のハーフは人族に分類してきました。その一番の理由が特徴がなく魔力がないからです。彼女は強大な魔力を秘めている。そこは誰も異存がありません。過去の実例と比較して、リリス嬢は魔族に分類されます」
「はあ……」
32
お気に入りに追加
4,905
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~
鐘ケ江 しのぶ
ファンタジー
第15回ファンタジー大賞、奨励賞頂きました。
投票していただいた皆さん、ありがとうございます。
励みになりましたので、感想欄は受け付けのままにします。基本的には返信しませんので、ご了承ください。
「あんたいいかげんにせんねっ」
異世界にある大国ディレナスの王子が聖女召喚を行った。呼ばれたのは聖女の称号をもつ華憐と、派手な母親と、華憐の弟と妹。テンプレートのように巻き込まれたのは、聖女華憐に散々迷惑をかけられてきた、水澤一家。
ディレナスの大臣の1人が申し訳ないからと、世話をしてくれるが、絶対にあの華憐が何かやらかすに決まっている。一番の被害者である水澤家長女優衣には、新種のスキルが異世界転移特典のようにあった。『ルーム』だ。
一緒に巻き込まれた両親と弟にもそれぞれスキルがあるが、優衣のスキルだけ異質に思えた。だが、当人はこれでどうにかして、家族と溺愛している愛犬花を守れないかと思う。
まずは、聖女となった華憐から逃げることだ。
聖女召喚に巻き込まれた4人家族+愛犬の、のんびりで、もふもふな生活のつもりが……………
ゆるっと設定、方言がちらほら出ますので、読みにくい解釈しにくい箇所があるかと思いますが、ご了承頂けたら幸いです。
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 11/22ノベル5巻、コミックス1巻刊行予定☆】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる