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4章 報復は計画的に、忘れずに

57. 予定は未定、作戦終了のお知らせ

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 毛をむしらなければいいかと頷いたセーレが己の身体を小さく縮める。大型犬くらいまでサイズダウンしたセーレの上にリリスを座らせた。以前と違い毛を静かに撫でるリリスの小さな手に、セーレは強張った身体の力を抜く。

「わんわん! ルーファ、アシュタ。これ、わんわん」

 指差して喜ぶリリスに、セーレは複雑そうな声を出す。

「犬じゃないんですがね」

「悪いな。リリスは狼も犬もわんわんなんだよ」

 小声で謝るルシファーの後ろから「隠さなくても別に叱ったりしませんよ」とアスタロトが声をかけた。セーレの背に乗ったリリスはご機嫌で、ルシファーとアスタロトへ手を振る。ひらひら振り返すアスタロトは存外優しい顔をしていた。

 ウォーン! 一際高い遠吠えが響き、続いて別の狼の声が混じる。呼応するように広がる遠吠えに、寝転がって腹を見せていたセーレが耳を澄ませた。すぐに転がって起き上がるフェンリルは、元の大きさに戻ると大きく息を吸い込む。

 ウォオーン! 周囲の木々が震える大きな声に、リリスがびくりと震えた。泣き出すかと心配になったルシファーが抱き寄せると、目を輝かせたリリスが「おーおお」と真似している。

「やだ、なにこの可愛いいきもの……」

 口元を押さえて悶絶する魔王をよそに、アスタロトは魔力を辿って首をかしげた。何かおかしい。まだ第二陣の熊や妖精族が参戦していないのに、敵である人族の数が少ない気がした。だが人族の魔力が小さすぎて感じないだけという可能性もある。

「陛下」

 偵察を出そうと振り返ったアスタロトの目に飛び込んだのは、「とうとい」と呟きながらリリスを撫でるルシファーの姿だった。両手に御守りをつけてはしゃぐ幼女は確かに可愛いが、ここは戦場である。

「へ、い、か」

 区切って呼びかけると、慌てて表情を引き締めたルシファーが「なんだ?」と何もなかったように応じる。そこへセーレが割って入った。

「我が君、大変な事態となりました」

「ケガ人でも出たか?」

 正確には狼なので、ケガ狼の心配である。セーレの言う大変な事態がほかに思いつかないルシファーへ、予想外の答えが返って来た。

「いえ、人族の制圧が終わりました」

「は?」

「ですから、砦周辺の制圧が終了しております」

「はぁああ?」

 思わず耳を疑う報告に、ルシファーは大声を出す。かろうじて被っていた威厳とやらも放り出し、驚きに目を見開いて砦方向を指差した。

「終わっちゃったの?」

「はい」

 褒めてもらえると思っているらしく、セーレの尻尾は大きく左右に振られていた。アスタロトも驚きに目を瞠るが、すぐに空へ飛びたつ。上空から塀の内側の状況を確認して、頭を抱えてしまった。

「どうなってる? アスタロト」

「確かに砦周辺は制圧完了ですね」

 アスタロトの目に映った光景は、圧倒的な戦力差による結果だった。牛より大きな魔狼族はそれぞれに人族を捕まえて押さえつけ、それを器用な魔犬族が縛り上げていく。一箇所に纏める手はずを整える彼らの届く範囲に、動く敵は見当たらなかった。

 作戦では第一陣の魔狼族と魔犬族が砦の兵を押し込み、第二陣の妖精族や魔熊族が街に残る兵や冒険者と戦う予定だった。しかし砦から逃げた兵達は、街の別戦力である冒険者達と合流して攻めて来たようだ。嬉々として迎え撃ったフェンリル率いる第一陣は、勢いのまま制圧してしまった。

「何のための作戦だったのか」

 ぼやくアスタロトの立場も理解できるルシファーは、遠吠えを真似るリリスを撫でながら呟く。

「まあ、予定は未定というか。仕方ないだろ、もう制圧しちゃったんだから」
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