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3章 リリス嬢、保育園でお友達作り

41. 約束は守られるためにあります

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 お風呂でしっかり指きりをしたルシファーとリリスは、翌朝も仲良く城門を出た。今日は水色のワンピースで、リボンは少なめだ。ケンカをした際にリボンを引っ張られたらしい。引っ張られて転ぶと危ないし、今日も派手にケンカするだろうと予測出来たため、簡素なデザインを選んだ。

 黒髪は小さなおさげにして、ワンピースと同色のリボンを飾る。

「リリス、お友達とケンカしないようにな。引っ張ったり噛んだりしちゃダメだぞ」

 ダメと言う単語は理解しているので、少し渋りながらも頷いてくれる。

「いい子だったら、ずっと一番でお迎えに行けるから」

 一番のフレーズが気に入ったらしい。この単語はしばらく使えそうだ。大きな赤い目を輝かせるリリスの頬にキスした。愛情を伝える行為は遠慮しない。叱るときもしっかり叱る。メリハリが大事だと学んだ魔王様である。

「リリスはパパの大切な宝物だよ。だから他の子と仲良くな」

 何度も「仲良く」を言い聞かせて、玄関でユニコーンの青年が今朝も待っていた。どうやら年少組は彼が担当らしい。昨日は気にしなかったが、名札には『ガミジン』と書かれていた。子供にはちょっと発音しづらい名前だ。

「ガミジンさん、よろしくお願いします」

 挨拶してからリリスを渡す……つもりが、両手でルシファーのローブを握って離さない。保育園内をちらりと見て、すぐに目をそらす様子は気まずそうな雰囲気が伝わってきた。

 約束だから行かなければならない。だが離れる段階になって怖くなったのだろうか。昨日のケンカを思い出したのかも知れない。心を鬼にして引き剥がそうとしたルシファーだが、その前にドライアドのミュルミュール先生が手を伸ばした。

「はい、リリスちゃんはお預かりします」

 くるりと踵を返し、さっさと中へ連れて行ってしまう。鮮やかな手並みに、思わず両手を引っ込めるタイミングを逃したルシファーと、置いていかれたガミジンが顔を見合わせた。

「ではお預かり、します」

「はあ、よろしく」

 気の抜けた挨拶の直後、後ろ髪を引くリリスの泣き声が聞こえた。禁止されているのを承知で、中庭に転移して逃げる。

「おや、きちんと子離れの努力をしておられるのですね」

 鉢合わせしたベールは転移を咎めず、抱えた書類をもって歩き出す。ほっとしながら自室へ向かい……彼が詰んだ大量の書類に溜め息を吐いた。

「昨日より多くないか?」

「昨日ほど複雑な書類はありませんよ」

 日常の簡単な決裁ばかりですと笑顔で書類を置いたベールが、執務室に入ってきたアスタロトへ声をかけた。

「今日は1番に迎えに行く約束をしたそうですから、午後のお茶の時間を切り上げて迎えに行かせてください。書類が残った場合は、帰ってから明日の朝までに処理すれば構いません」

 重要書類は上に積んであると説明したベールは、後ろから飛んできた「ありがとう」の声に表情を和らげた。本来、魔王ルシファーは王として立派に責務をこなせる。一時的にリリス嬢にかまけて、あれこれ放り出したが……軌道修正は間に合ったらしい。

「では上から処理していきましょう。私が要点を伝えますので、判断と署名をお願いします」

 すでに暗記した内容を要約しながら読み上げるアスタロトの有能さに助けられ、お昼を抜いて午後のお茶をすっ飛ばし、ルシファーは背の翼で文字通り飛んで迎えにいった。ちなみに窓から飛び出した姿を目撃され、ベールに叱られたのは帰城後のことである。
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