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1章 魔王様、ただいま育児奮闘中!
12. 甘やかしすぎた幼子は成長しない
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「飽きずに面倒見ていますよ」
珍しいこともあるものだと呟くベールに、ルキフェルは水色の髪を揺らしながら首をかしげた。幼子を抱き上げて膝の上に座らせるベールの姿に、向かい側でアスタロトが呟く。
「あなたも大概ですけどね」
「一緒にしないでください。魔王様の酔狂と、私がルキフェルを可愛がるのは違います」
「同じよ」
ベルゼビュートが不機嫌そうに溜め息を吐いた。1ヶ月と見積もった賭けの期限はとうに過ぎ、気付けば3ヶ月目に突入しようとしていた。いつもなら飽きてアスタロトに押し付ける頃なのだが、そんな様子は欠片もない。
1ヶ月を過ぎて負けたところで、さらに1ヶ月の追加に賭けたベルゼビュートの悩みは深い。最初は金貨1枚、次こそは負けを取り戻すと息巻いて金貨2枚を払った。このままでは金貨3枚は戻ってこない。
「ルキフェルは大公です」
だから人族の捨て子とは違う。そう言い切ったベールへ、ルキフェルは小さな手を伸ばして頬を叩いた。ぺちんと可愛らしい音がする。驚いて目を見開く保護者に、幼子は尖らせた唇で文句をつけた。
「ぼくもリリスもいっしょ。おやがいないから、ひろわれたんだもん」
「わかりました。もう言いませんよ」
機嫌を取るようにルキフェルに微笑んで髪を撫でるベールの手に、幼子の表情は和らいだ。例によってルキフェルを拾ったのは魔王ルシファーだが、育てたのはベールである。厳格なベールの性格を厭うことなく、素直に懐いた幼子を彼は『舐めるように』可愛がった。
年の離れた兄のような溺愛ぶりを、アスタロトは呆れ半分で見守る。魔王が拾ってきた中で、一番手がかからなかったのがルキフェルだった。すぐにベールが引き取ったため、ほとんど面倒を見ていない。
白い肌や薄い水色の髪から魔力が多いと判明したため、彼が望むままベールに教育を任せたのだが……まさか幼子から成長しないとは予想外だった。甘やかしすぎて、ルキフェルが成長する余地がない。外見は魔力量の所為だとしても、内面はもっと成長してしかるべきだった。
「甘やかしすぎですよ、ベール」
魔王陛下も同じように育ててしまったら……そう考えると頭を抱えるアスタロトだが、当人同士は気にしていない。ひたすら可愛がるベールと、子供のまま成長を止めるルキフェル――嫌な予感が過ぎった。
「まさかとは思いますが、リリス嬢もルキフェルのようになったら」
アスタロトの指摘に、ベールは「何が悪い」と怪訝そうな顔をする。まったく自覚がないらしい。腕の中でルキフェルも無邪気に首をかしげた。
「いいじゃない」
無責任極まりない発言をぶちかます。そんなルキフェルの髪を撫でるベールも「そうですよね」と相槌を打っていた。この場で良識を求められる相手がベルゼビュートしかおらず、アスタロトは縋るような目を向けた。
「どうしよう、あと3日で負けちゃう」
真剣に日付を数えているベルゼビュートの姿に、アスタロトは諦めた。まともな人はいなかったのだ。期待した自分が間違っていた…と。
愛用のカップを空中から取り出し、濃い目に淹れた珈琲を注ぐ。当然のように目の前に並べられた3つのカップにも注いでいくアスタロトは、まさに四大公のお母さん的立ち位置だった。
本人は全力で否定するだろう。
「ルキフェル、ミルクを淹れないと」
ベールが取り出したミルクで、明らかに色が違う飲み物になるほど注ぐ。動物の形の砂糖を取り出して渡し、ルキフェルが金色のスプーンでゆっくり沈めた。微笑ましい親子の姿に見えるが、これでも魔族の頂点に立つ大公なのだ。
苦い珈琲を一気に飲み干したアスタロトは、がくりと項垂れた。
珍しいこともあるものだと呟くベールに、ルキフェルは水色の髪を揺らしながら首をかしげた。幼子を抱き上げて膝の上に座らせるベールの姿に、向かい側でアスタロトが呟く。
「あなたも大概ですけどね」
「一緒にしないでください。魔王様の酔狂と、私がルキフェルを可愛がるのは違います」
「同じよ」
ベルゼビュートが不機嫌そうに溜め息を吐いた。1ヶ月と見積もった賭けの期限はとうに過ぎ、気付けば3ヶ月目に突入しようとしていた。いつもなら飽きてアスタロトに押し付ける頃なのだが、そんな様子は欠片もない。
1ヶ月を過ぎて負けたところで、さらに1ヶ月の追加に賭けたベルゼビュートの悩みは深い。最初は金貨1枚、次こそは負けを取り戻すと息巻いて金貨2枚を払った。このままでは金貨3枚は戻ってこない。
「ルキフェルは大公です」
だから人族の捨て子とは違う。そう言い切ったベールへ、ルキフェルは小さな手を伸ばして頬を叩いた。ぺちんと可愛らしい音がする。驚いて目を見開く保護者に、幼子は尖らせた唇で文句をつけた。
「ぼくもリリスもいっしょ。おやがいないから、ひろわれたんだもん」
「わかりました。もう言いませんよ」
機嫌を取るようにルキフェルに微笑んで髪を撫でるベールの手に、幼子の表情は和らいだ。例によってルキフェルを拾ったのは魔王ルシファーだが、育てたのはベールである。厳格なベールの性格を厭うことなく、素直に懐いた幼子を彼は『舐めるように』可愛がった。
年の離れた兄のような溺愛ぶりを、アスタロトは呆れ半分で見守る。魔王が拾ってきた中で、一番手がかからなかったのがルキフェルだった。すぐにベールが引き取ったため、ほとんど面倒を見ていない。
白い肌や薄い水色の髪から魔力が多いと判明したため、彼が望むままベールに教育を任せたのだが……まさか幼子から成長しないとは予想外だった。甘やかしすぎて、ルキフェルが成長する余地がない。外見は魔力量の所為だとしても、内面はもっと成長してしかるべきだった。
「甘やかしすぎですよ、ベール」
魔王陛下も同じように育ててしまったら……そう考えると頭を抱えるアスタロトだが、当人同士は気にしていない。ひたすら可愛がるベールと、子供のまま成長を止めるルキフェル――嫌な予感が過ぎった。
「まさかとは思いますが、リリス嬢もルキフェルのようになったら」
アスタロトの指摘に、ベールは「何が悪い」と怪訝そうな顔をする。まったく自覚がないらしい。腕の中でルキフェルも無邪気に首をかしげた。
「いいじゃない」
無責任極まりない発言をぶちかます。そんなルキフェルの髪を撫でるベールも「そうですよね」と相槌を打っていた。この場で良識を求められる相手がベルゼビュートしかおらず、アスタロトは縋るような目を向けた。
「どうしよう、あと3日で負けちゃう」
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愛用のカップを空中から取り出し、濃い目に淹れた珈琲を注ぐ。当然のように目の前に並べられた3つのカップにも注いでいくアスタロトは、まさに四大公のお母さん的立ち位置だった。
本人は全力で否定するだろう。
「ルキフェル、ミルクを淹れないと」
ベールが取り出したミルクで、明らかに色が違う飲み物になるほど注ぐ。動物の形の砂糖を取り出して渡し、ルキフェルが金色のスプーンでゆっくり沈めた。微笑ましい親子の姿に見えるが、これでも魔族の頂点に立つ大公なのだ。
苦い珈琲を一気に飲み干したアスタロトは、がくりと項垂れた。
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