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79.結婚式の準備が早すぎて

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 結婚式を行うと周知したら、なんと準備は整っていた。ドレスや宝飾品、会場の手配など……数ヶ月は覚悟したのに。地下にワインは眠っているから、食べ物だけ集めたら済むらしいわ。

 ドレスはいつの間にかレオが手配していて、試着したらサイズもぴったりだった。宝飾品は、ヴァレス聖王国の王妃だったセレーヌ叔母様が提供してくれる。嫁ぐ際に持参したけれど、夫がアレだったので使わずに保管していたそうよ。

 ほぼ未使用で、若い頃のデザインだから似合うわと、豪華な一粒サファイアのネックレスを頂いた。借りるだけでよかったんだけれど、青は縁起がいいからとプレゼントされたの。いつかお礼をしないと。

 ドレスは美しいラベンダー色だ。薄紫の絹を何枚も重ねた、すごく品のいいデザインだった。これは意外なことに、レオが注文したの。私に似合うと思って用意してくれた。すごく嬉しいわ。

 ユーグ叔父様は屋敷の使用人達を集め、準備を指示する。ヴェールはなんと街の奥様達のお手製よ。皆で少しずつ編んだレースを差し出され、涙ぐんでしまう。

「女王陛下の結婚式には、すこしばかり粗末かもしれないけどねぇ」

 そう笑うのは、肉屋の奥さんだ。いつも大きな声を張り上げ、店頭で働く。隣でパン屋のおかみさんが「あたしも手伝ったんだよ」と胸を叩いた。結婚式の噂はあっという間に城下に広まり、皆が手土産を持ってくる。

 肉や魚、野菜にパン。料理人が手伝いを申し出て、宿や店の給仕達が駆けつけた。あっという間に、立派な会場が作られていく。

「……手際、よすぎない?」

「あなたがぐずぐずしている間、ヤキモキしていたのよ」

 セレーヌ叔母様がくすくす笑いながら、種明かしをする。女王になって一年もすれば、結婚すると思っていたらしい。それが半年、また半年と伸びた。心配しながら準備を始めた。今度こそと思いながら季節を越え、その度にプレゼントが大きくなっていく。

「そのヴェールだって、あたしらが作り始めたときは、こんなんだったのさ」

 宿屋のおかみさんが手のひらを示す。この大きさのレースを作り、数人分を繋げてテーブルクロスにしようと始まった。それが伸びていく間に参加者が増え、作ったレースの量が増えていく。こうなったらヴェールにしようと頑張った。

 驚く真相に、申し訳なさより笑いが込み上げた。堪えようとしたのに、くくっと肩が震えたら終わり。吹き出してしまい、周囲も一緒になって声を上げて笑った。

 民のお陰で、結婚式は最短で準備ができる。僅か三日の出来事だった。逆に参列する人が間に合わないくらい。お父様やお母様を見つけた花婿レオは、ぎりぎり滑り込んだ。本国の貴族や親戚は当然間に合わないとして、一部の国内貴族も連絡が遅れて残念な結果に。

 人前式で誓いを述べたのに、もう一度やり直しとなる。一週間後、用意された二度目の式を挙げるのは、少し恥ずかしかったわね。もう初夜も済ませた後だったんですもの。
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