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70.うっかり突起を押したら

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 渡り鳥の魔法道具が飛来し、お父様達の船が無事に本国へ着いたことを知る。ついでに、雨の魔法道具をすぐに作動させた情報も付いていた。面倒なので、船から降さずに利用したみたいね。

「いずれは降さないと、船が腐るわ」

 海水での腐食を心配していると、発掘中の遺跡内から人が飛び出してきた。

「魔法道具らしき品を発見した!」

 まだ作動させていないので、何かわからない。逆に使い道のわからない物は、魔法道具なのでは? と判断された。ある意味、正しいわ。頭の上に手を当てた間抜け顔の土人形、どう見たって役立ちそうな感じしないもの。実際は海水の塩抜きで、すごく重要だったけれど。

 ご先祖様のセンスは微妙なのよね。魔法道具を作れるほど賢い人がおかしいのか、おかしいから立派な道具を作るのか。悩ましいところだわ。

「大きいの?」

「いいえ、片手で持てる大きさです」

 重さも大したことがない。ならば、携帯する目的で作られた可能性がある。また一人出てきたが、彼は手ぶらだった。三人目の女性は、農家のおかみさん風だ。彼女がしっかり握って運んできた。

「これですよ、姫様」

「ありがとう。姫ではなくてよ」

 伯父様の娘である王女なら、姫様でいいけれど。私は大公家の娘だから王族とは違う。そんな説明をしても、彼女はからりと明るく笑い飛ばした。

「関係ありませんや。あたしらにとって、姫様ですから」

 好きに呼んでいいわと微笑んで、魔法道具を眺める。最初に似ていると感じたのは、器だった。スープ皿より深くて、片手で掴める小ぶりサイズだ。深いが、紅茶のカップより深い。

「飲み物用かしら」

「食事の器かと思ったんですよ。あたしらは一皿で済ませるから」

 農家の奥さん曰く、ごった煮にしたスープを入れるのに、ちょうどいいサイズのようだ。大きめの具も問題なくよそえる。

「それなら、食事用かもしれないわ」

 同調しながら器をひっくり返したところ……小さな突起があった。つい、出来心で押してしまう。カチッと音がしたものの、作動した様子は見られない。

「なぜか失敗した気がするの」

 押し込んだ突起が戻らない。つまり作動しっぱなしの状態よね。作動して戻るタイプのボタンなら……途中で中断する方法がないわ。

「シャル、どちらにしろ動かしてみないとわからないんだ。いいんじゃないか?」

「……そう思うことにするわ」

 嫌な予感がするのよね。眉を寄せたものの、駆け寄ってきた研究者に引き継いだ。その際にスイッチらしき突起を押し込んだことを伝える。興奮した研究者達が議論を始めると、皆は苦笑いして解散となった。

 専門用語が飛び交う現場には、研究者だけが残る。夕飯まで待っても変化は感じられず、寝ることにした。街の灯りが一つ、また一つと消えて……暗さが勝る夜更け。大きな爆発音と地響き、続けて大地が揺れる。

「地震?」

「噴火です!」

 どこがと問うまでもない。赤いドラゴンが踊るように飛ぶ山が、真っ赤な火柱をあげていた。
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