60 / 80
60.嘘から出た実(まこと)
しおりを挟む
一人の子爵令嬢が国王に愛された。この事実を否定する必要はない。だけれど、彼女は結婚していない。子爵令嬢で居続けるなら、未婚の女性だった。そう、婚姻関係で束縛されない……自由な立場の貴族令嬢。
ここまで説明された時点で、察しのいい数人がにやりと笑った。
「まだ難しいかしら。条件を足しましょうか」
私達が仕掛けた罠はここからだ。レオが説明を引き継いだ。
子爵家には、様々な人間が出入りする。行商人、使用人の家族、ジュアン公爵家の馬車、王家の馬車、そして……紋章を隠した馬車。王家とジュアン公爵家に関しては、周囲も納得するだろう。
子爵令嬢の恋人である国王陛下の迎えも、将来赤子を引き取り保護する公爵家も、違和感は少ない。事情を知った後なら、高貴な方々の馬車が出入りすることは理解できた。ただ、そこに紋章を隠した馬車がいたら?
紋章は身分を示す。誇るべき紋章があるにも関わらず、覆って隠す不自然さは人々の目に留まる。噂になって民の間に広がった。オータン子爵家のご令嬢は、他にも恋人がいるのではないか。
こういった噂話は密やかに、けれど根強く広がっていく。ましてや王族が堂々と浮気している状況で、愛人の立場にいる未婚令嬢だ。他に愛する人がいても、国王の手前、こっそり会うしかない。そんな噂が流れたら……人々は面白おかしく広める。
愛する人がいたのに、国王が横恋慕したのではないか。そんな憶測まで生まれた。噂は一度種を蒔き、その後も丹精込めて育てれば太く大きく育つ。麦と同じだった。
「つまり、もう仕掛けた後ですか」
驚きに声を上げた初老のル・カリエ侯爵に、ル・ノートル伯爵が大きく頷いた。彼も噂を流す際に協力してもらったわ。
「オータン子爵令嬢が存命のうちから、姫様は手を打っておられた。先見の明のある方だ」
誇る様に言われ、ちょっと恥ずかしくなる。これって策としては下の下だと思うの。噂話で他人を貶める類の、品のない行為だわ。自覚はあっても、提案したのは私自身よ。もしオータン子爵令嬢に男児が生まれたら……と不安になってレオを動かした。
亡くなられた令嬢の名誉を傷つける策だけれど、今後のルフォルの繁栄に必要なら泥は私が被る。
「その馬車以外にも、不審な貴族の出入りがありましたよ」
思わぬ情報が舞い込んだ。私が秘密の恋人作戦で噂を流したため、一部の貴族や平民が注目した。特に商人はこういった出来事に敏感だ。商機になる可能性はもちろん、重要な顧客の浮き沈みに関わる危険もある。
商人から入った情報によれば、実際に秘密の恋人は存在していた。それも幼馴染みの子爵家嫡男だとか。まんざら嘘でもなかったのね。
ここまで説明された時点で、察しのいい数人がにやりと笑った。
「まだ難しいかしら。条件を足しましょうか」
私達が仕掛けた罠はここからだ。レオが説明を引き継いだ。
子爵家には、様々な人間が出入りする。行商人、使用人の家族、ジュアン公爵家の馬車、王家の馬車、そして……紋章を隠した馬車。王家とジュアン公爵家に関しては、周囲も納得するだろう。
子爵令嬢の恋人である国王陛下の迎えも、将来赤子を引き取り保護する公爵家も、違和感は少ない。事情を知った後なら、高貴な方々の馬車が出入りすることは理解できた。ただ、そこに紋章を隠した馬車がいたら?
紋章は身分を示す。誇るべき紋章があるにも関わらず、覆って隠す不自然さは人々の目に留まる。噂になって民の間に広がった。オータン子爵家のご令嬢は、他にも恋人がいるのではないか。
こういった噂話は密やかに、けれど根強く広がっていく。ましてや王族が堂々と浮気している状況で、愛人の立場にいる未婚令嬢だ。他に愛する人がいても、国王の手前、こっそり会うしかない。そんな噂が流れたら……人々は面白おかしく広める。
愛する人がいたのに、国王が横恋慕したのではないか。そんな憶測まで生まれた。噂は一度種を蒔き、その後も丹精込めて育てれば太く大きく育つ。麦と同じだった。
「つまり、もう仕掛けた後ですか」
驚きに声を上げた初老のル・カリエ侯爵に、ル・ノートル伯爵が大きく頷いた。彼も噂を流す際に協力してもらったわ。
「オータン子爵令嬢が存命のうちから、姫様は手を打っておられた。先見の明のある方だ」
誇る様に言われ、ちょっと恥ずかしくなる。これって策としては下の下だと思うの。噂話で他人を貶める類の、品のない行為だわ。自覚はあっても、提案したのは私自身よ。もしオータン子爵令嬢に男児が生まれたら……と不安になってレオを動かした。
亡くなられた令嬢の名誉を傷つける策だけれど、今後のルフォルの繁栄に必要なら泥は私が被る。
「その馬車以外にも、不審な貴族の出入りがありましたよ」
思わぬ情報が舞い込んだ。私が秘密の恋人作戦で噂を流したため、一部の貴族や平民が注目した。特に商人はこういった出来事に敏感だ。商機になる可能性はもちろん、重要な顧客の浮き沈みに関わる危険もある。
商人から入った情報によれば、実際に秘密の恋人は存在していた。それも幼馴染みの子爵家嫡男だとか。まんざら嘘でもなかったのね。
258
お気に入りに追加
1,169
あなたにおすすめの小説
貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。
蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。
「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」
王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。
形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。
お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。
しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。
純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。
※小説家になろう様にも掲載しています。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる