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42.安心できない約束

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 遥々、公海を越えてきた皆を休ませる。職人達はタフで、大騒ぎしながら酒を瓶で飲み干した。最後は足りずに、ワイン樽を空けたとか。請求書の処理はお母様の仕事ね。

 同行する侍従や侍女が、荷物を船に運び入れる。普段は交易品を積む船倉に、大量の武器が並んだ。伯父様は簡単に玉座を明け渡さないだろう。私の予想にお父様も頷いた。実際に戦う必要はないが、民の本気を見せつける必要がある。

 運んだ武器は民に渡され、武装した上でどちらにつくか決めてもらう予定だった。もし帰れと言われるなら、それも一つの選択だ。お父様はそう言って豪快に笑うけれど……その状況だと私達が処刑されちゃう気がするわ。

「安心してくれ、シャルは俺が綺麗に痛くなく殺すから」

「全然安心できないわ」

 晒されて殺されるくらいなら、俺が自ら手を下して綺麗に楽に死なせる。そんな確約をする婚約者がどこにいるのよ。ご令嬢をときめかせるつもりなら、俺が守るって言い切りなさい。

 しかも殺した後で死体になった私に何をされるのか。想像するだけでゾッとするじゃない。レオの変態さを考えると、綺麗に死んだ後も綺麗な状態で埋葬してもらえないと思う。

 甲板で私達が交わす物騒な会話も、使用人は慣れた様子で放置する。食糧や水も補充され、魔法道具の調整も始まった。酒樽を空けるほどの大騒ぎも、翌日になれば職人達はけろりとしていた。二日酔いは恥なんですって。

 船長によれば明後日には出発可能、荷の積み込みも明日終わる。出発が明後日なら、明日はお母様や叔母様と過ごそう。あ、でもお母様はお父様と過ごす方がいいかしら。叔母様はユーグ様と一緒だから問題ないわね。

 甲板から見下ろす港町は、多くの人で賑わっていた。この国の大地に根付いた民も、元からの住人も……合わせて、ル・フォール大公領の大切な民だ。本国の旱魃への対策ができればよし、出来なければ本国の民が流入する。

 混乱は必至だろう。

「私って、まだ成人前よね」

「そうだな」

「心労で早く老けそうよ」

「老いても君は美しいさ」

 そうじゃないの、振り返って口に出そうとした言葉を呑み込む。わかっていて茶化したのね。レオの優しい眼差しに、こういう男だったと苦笑いが浮かんだ。

 くよくよ考えるなんて私らしくないわ。どんとぶつかって砕けても、レオにまた組み立てもらえばいい。全力で一つずつ片付けよう。そう決意した。

「レオ、シャル……降りてきて」

 呼びかけるお母様に手を振り返し、私達は下船した。皆で食事をするから、手伝ってほしい。ということは、いつもの野外料理ね。豚や鳥を丸焼きにして、皆で取り分けて食べる。上品な晩餐会ではなく、カトラリーの作法すら無視して。

 平民も貴族も王族も、その垣根のない食事会だ。ルフォルらしい見送りの会になりそう。私は着替えて腕まくりをし、鶏を捌く手伝いに入った。レオは豚の腹に香草や調味料を塗り込む。汚れた姿のお互いを見て、ぷっと吹き出した。

 楽しい食事会になりそうだわ。
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