41 / 80
41.懐かしい顔がずらり
しおりを挟む
本国から到着した船は、帆を畳んでいた。港に佇む姿は優美で、隣大陸から旅をして来たとは思えない。推進力と結界、二つの魔法道具を使った効果だった。結界をもつ船は二隻のみ。より安全な船を派遣した貴族達に感謝だった。
こちらの大陸から、本国側へ向かう交易船は存在しない。主要動力が帆であるため、本国側から吹く風に押されて進めない。過酷な旅の途中で食糧や水が尽きて、難破船になる確率が高すぎた。人力で漕いで進もうとすれば、船が大きくなり到着までの生存率が下がる。
船を大きく動力を人に変更するなら、それに見合う食糧や水の保存方法が必要なのだ。それらの心配が不要なのが、魔法道具による動力船だった。本国からは常に追い風が吹くため、帆も兼用して三割の時短も可能となる。
予定した時刻に到着した船から降りたのは、若者より年配者が多かった。出迎えで港に立つお父様やセレーヌ叔母様を見るなり、泣き崩れる。鼻を啜り、顔をくしゃくしゃに歪めて、震える声で必死に訴えた。
少し離れた私とレオに声は届いても、内容は聞き取れない。ただ、苦労したことを訴えたのではなく、待たせてしまったと詫びる言葉のように思われた。お父様は彼ら一人一人の肩を叩いて、苦労を労う。セレーヌ叔母様は微笑んで、彼らの言い分を受け止めた。
慈愛の光景は美しいのだけれど……ユーグ叔父様は通常運転だった。感極まって叔母様の手に唇を押し当てようとした男性を、さりげなく牽制して遠ざける。飛びつこうとした者を、容赦なく蹴飛ばした。
叔母様に群がる貴族は、ユーグ叔父様の前に倒れていく。お父様ったら見ないフリをなさったわ。お母様も一緒に出迎えた。一族の者だろうか、膝をついて手を握る老人に優しく声をかける。お父様が嫉妬しているから早めに離した方がよさそう。
私はあの年代との接点が少ないため、のんびりと眺めていた。
「レオ、船酔いの薬を仕入れた方が良くてよ」
「安心してくれ、大量に購入した」
得意げに見せたのは、巾着にぱんぱんに詰め込まれた薬だった。それ、全部飲む気なの? 過剰摂取だと思うけれど。一応、私が預かって与えた方がよさそうね。そんな相談をする間に、船から全員降りたようだ。
船を整備して、魔法道具を動かすのは職人の一族だ。平民だが、準男爵と同じ扱いだった。お父様達が手いっぱいなので、代わりに私が労う。手配した宿を教えると、彼らは港町を歩き出した。
ほぼ漁港しかないヴァレス聖王国だが、このル・フォール大公領は大型船を複数停留できるだけの港を整備していた。もちろん、本国からの船を受け入れるためだ。両手を広げて抱え込むような形の湾を利用し、海底を深く掘って作りあげた。
「お嬢! 久しぶり……っちゅうか。綺麗になっててびっくりじゃ」
気安い口調の船長は、日焼けして黒い顔でにやっと笑う。白い歯がやたらと眩しかった。もう孫がいてもおかしくない年齢だが、いまだに独身を通している。手紙のやり取りもあった彼と軽いハグをするも、レオが唸るようにして間に割り込んだ。
「ちょっと、大人げないわよ」
「シャルは俺のです」
「相変わらずじゃ! 仲が良くて何より。酒は用意してもらったかの?」
酒が足りないと暴れるぞ。船乗りらしい豪快な笑い方で、船長はレオの肩を叩いた。まったく気にしてないところが、すごいわ。
こちらの大陸から、本国側へ向かう交易船は存在しない。主要動力が帆であるため、本国側から吹く風に押されて進めない。過酷な旅の途中で食糧や水が尽きて、難破船になる確率が高すぎた。人力で漕いで進もうとすれば、船が大きくなり到着までの生存率が下がる。
船を大きく動力を人に変更するなら、それに見合う食糧や水の保存方法が必要なのだ。それらの心配が不要なのが、魔法道具による動力船だった。本国からは常に追い風が吹くため、帆も兼用して三割の時短も可能となる。
予定した時刻に到着した船から降りたのは、若者より年配者が多かった。出迎えで港に立つお父様やセレーヌ叔母様を見るなり、泣き崩れる。鼻を啜り、顔をくしゃくしゃに歪めて、震える声で必死に訴えた。
少し離れた私とレオに声は届いても、内容は聞き取れない。ただ、苦労したことを訴えたのではなく、待たせてしまったと詫びる言葉のように思われた。お父様は彼ら一人一人の肩を叩いて、苦労を労う。セレーヌ叔母様は微笑んで、彼らの言い分を受け止めた。
慈愛の光景は美しいのだけれど……ユーグ叔父様は通常運転だった。感極まって叔母様の手に唇を押し当てようとした男性を、さりげなく牽制して遠ざける。飛びつこうとした者を、容赦なく蹴飛ばした。
叔母様に群がる貴族は、ユーグ叔父様の前に倒れていく。お父様ったら見ないフリをなさったわ。お母様も一緒に出迎えた。一族の者だろうか、膝をついて手を握る老人に優しく声をかける。お父様が嫉妬しているから早めに離した方がよさそう。
私はあの年代との接点が少ないため、のんびりと眺めていた。
「レオ、船酔いの薬を仕入れた方が良くてよ」
「安心してくれ、大量に購入した」
得意げに見せたのは、巾着にぱんぱんに詰め込まれた薬だった。それ、全部飲む気なの? 過剰摂取だと思うけれど。一応、私が預かって与えた方がよさそうね。そんな相談をする間に、船から全員降りたようだ。
船を整備して、魔法道具を動かすのは職人の一族だ。平民だが、準男爵と同じ扱いだった。お父様達が手いっぱいなので、代わりに私が労う。手配した宿を教えると、彼らは港町を歩き出した。
ほぼ漁港しかないヴァレス聖王国だが、このル・フォール大公領は大型船を複数停留できるだけの港を整備していた。もちろん、本国からの船を受け入れるためだ。両手を広げて抱え込むような形の湾を利用し、海底を深く掘って作りあげた。
「お嬢! 久しぶり……っちゅうか。綺麗になっててびっくりじゃ」
気安い口調の船長は、日焼けして黒い顔でにやっと笑う。白い歯がやたらと眩しかった。もう孫がいてもおかしくない年齢だが、いまだに独身を通している。手紙のやり取りもあった彼と軽いハグをするも、レオが唸るようにして間に割り込んだ。
「ちょっと、大人げないわよ」
「シャルは俺のです」
「相変わらずじゃ! 仲が良くて何より。酒は用意してもらったかの?」
酒が足りないと暴れるぞ。船乗りらしい豪快な笑い方で、船長はレオの肩を叩いた。まったく気にしてないところが、すごいわ。
409
お気に入りに追加
1,259
あなたにおすすめの小説

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる