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40.女三人、覚悟の表明

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「私も反対したのよ。実家も頼ったのに、ダメだったわ」

 本国にある実家の侯爵家を通じて、抗議した。お母様はそう口にして悲しそうな顔で俯いた。私の顔立ちはお母様に似ている。お父様が私を溺愛する理由の一つが、お母様によく似た顔立ちだったこと。髪色はお父様から受け継いだ。

「助けてあげて、と何度も頼まれたけれど……力が足りなくてごめんなさいね」

 セレーヌ叔母様が申し訳なさそうに付け足した。お互いに困ったような顔をするけれど、実力行使に出ない。なぜなら、複雑な状況だったから。叔母様は王妃の地位にあっても、夫だったアシル王を動かせる力はない。お母様も、お父様に時期が早いと言われれば……待つしかなかった。

「気にしておりませんわ。だって自分のことは自分で出来ますもの。レオもおりますし」

 私はヴァロワ王家に嫁いで生贄になる気はなかった。叔母様の忠告もきちんと聞いて、自分の進む道を決めている。ヴァレス聖王国を滅ぼしてでも、己の人生を取り戻す算段をつけた。

 すぐに動けなかったのは、あの頃はまだルフォル貴族の力が弱かったから。子供である私を使うと宣言することで、皆は一気に侵食を進めた。犠牲になる前に私を解放し、叔母様を無事に救出する。そのための力が結集した。

 本国と離れていることを利用し、分家とも連絡をつけて力を蓄えた。民を味方につけ、来るべき決戦に備えたのは……誰しも同じ。私は最前線に立ったが、常に皆に守られてきた。旗頭として先導する役目を果たしたの。

「間に合ってよかったわ」

 セレーヌ叔母様の一言は、とても重い。まだ根付く前だったこの土地で、貴族達の援護もないまま嫁ぐ。それは敵陣へ丸腰で、人質として引き渡されたも同然だった。その献身があったからこそ、私は間に合った。

 貴族の奮起も、叔母様の境遇への怒りと悲しみの影響が深かったと思う。

 庭に用意したテーブルの上から、カップを手に取る。添えられた砂糖を一つ、ゆっくりと沈めた。溶け切る前にくるりとスプーンを回す。人の気持ちは複雑で、確執もこんなに簡単に溶けたりしない。

「本国からの迎えがもうすぐ来ます。私とお父様は間違いを正しに向かいます。レオも同行させます。ですから……叔母様とお母様に帰る場所を守っていただきたいのです」

「もちろんよ」

「全力を尽くすわ」

 女性二人残して、何の防衛か。外から見れば、不自然な頼みだろう。だがお母様の剣術はお父様を凌ぐし、叔母様を守る剣は折れない。最強の騎士と呼ばれたユーグ叔父様を筆頭に、ルフォルの騎士と貴族が立ちはだかるのだ。

「必ず勝利するのよ、シャル」

 母の言葉を胸に刻み、叔母様の微笑みに頷く。庭の薔薇を眺める私達の耳に、岩を砕く音が届いた。魔法道具捜索の発掘は、順調らしい。何が出てくるにしても、私達が出発するまでに間に合わないでしょうね。出てくるところを見たかったわ。

 明るい話題で場の空気を変え、私はほんのり甘いお茶に口をつけた。そこからは伴侶の話題で盛り上がり、お父様の意外な一面を聞いてしまう。船旅の間にからかう材料ができたわ。
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