上 下
27 / 80

27.こちらが終われば本国を

しおりを挟む
 離婚? 怪訝な顔をするアシル王に、私は静かに説明を始めた。こういう阿呆には、噛み砕いて理解させなくては、ね。

 王妃は実家に帰っただけ。そう認識していたのでしょう? 叔母様の話から、私は先を読んで動いた。ルフォルの貴族に、大急ぎで離婚の手続きを進めさせたの。

「王宮からお戻りになった時点で、セレスティーヌ・ル・フォール様は一族の姫に戻っていますわ。離婚の手続きは滞りなく進み、問題なく受理されて届出もされています」

 神に愛を誓った証拠として、婚姻の書類が届けられる。王宮に待機した文官が受け取り、受理の印を押してから辞職したはずだった。本当は離婚届だけでいいのだけれど、言いがかりの余地を残すのも腹立たしいわ。

 叔母様はこのヴァレス聖王国内においても、離婚が成立して再婚なさったの。ルフォルだったら、離婚後一年間は再婚できない。その意味では、ヴァレス聖王国内で結婚式をすることに意味があるわ。

 他国で結婚していれば、叔母様は既婚者だった。二度と本国に利用させない。その意思表示も兼ねて、事前に根回しは済んでいた。当然でしょう。それだけの長い年月、叔母様は苦労なさったし、私も拘束されたのだから。

「民のいない王など、砂漠の黄金ですわ。お戻りになって、砂漠で枯れ果ててくださいな」

「シャルリーヌお嬢様、勝手に処分されては困ります。我が姫は、僕に処分を任せると仰せでした」

 にっこり笑うユーグ叔父様が、処分とか……恐ろしい単語を口にしたのだけれど。セレーヌ叔母様の表情を窺うと、軽く首を横に振っている。別に許可は与えていないのね。

「エナン様、勝手に処分されては困りますぞ。我らにも権利がございますゆえ」

 本来の主人でもない王に、長年仕えた鬱積を晴らすとき! ル・ノーブル伯爵の発言に、周囲の貴族も頷く。なんてことかしら、一人しかいないのに大人気じゃないの。

 布を詰められた口でふごふごと騒ぐ王様は、もう臣下も民もいない。街の住人は国を捨てて逃げた。その動きを察して、まともな貴族も後を追った。残っているのは、情報に疎く逃げ場のない愚者のみ。

 愚者の代表である王アシルを眺め、私はぱちんと扇を鳴らした。

「ではこういたしましょう。ユーグ叔父様はセレーヌ叔母様の警護、ル・ノーブル伯爵を含む皆様には……この愚か者を進呈いたしますわ。結婚式の引き出物になさって」

 持ち帰って好きに調理していい。許可を与えられたことで、貴族はわっと盛り上がった。数ヶ月は手を出さずに幽閉する案が浮上し、ひとまず会場から引きずり出された。アシル王に会うのは、これが最後であってほしいわ。

「シャル、そんな決断は義父上に任せればよかったのに」

「あちらでお母様と仲良くしていらっしゃるのに、邪魔をするのは嫌よ。恨まれてしまうわ」

 レオにもたれかかりながら、甘えるように見上げる。額と頬に口付けをもらい、私は甘い吐息を漏らした。最後に唇が重なる。

 この国の処分が終わったら、次は本国ね。私や叔母様に苦労を強いた伯父様を許す気はない。貴族の政略結婚は理解するけれど、支援や監視も必要だわ。最低限の扱いを保証されない政略結婚は、ただの奴隷契約だもの。そのツケは伯父様に払っていただきましょう。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。

蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。 「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」 王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。 形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。 お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。 しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。 純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【本編完結】独りよがりの初恋でした

須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。  それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。 アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。 #ほろ苦い初恋 #それぞれにハッピーエンド 特にざまぁなどはありません。 小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

処理中です...