上 下
5 / 80

05.判断を間違えたか ***SIDE国王

しおりを挟む
「なんということをしでかしたのだ!!」

 叱りつけても遅い。わかっているが、口に出さずにいられなかった。

 考えなしで軽はずみな言動が多い息子だが、唯一の王子だ。それゆえに王太子にするための手段を講じた。有能で血筋の確かなル・フォール大公家の一人娘を婚約者に据える。大公家の嫡子だが、幸いにしてあの家は養子を得た。

 義理の息子に継がせるつもりなのだろう。ならば、一人娘は王家が貰うと突きつけた。かなり抵抗されたが、王命を使って無理やり婚約させる。王となる息子が馬鹿でも、有能な王妃がサポートすれば問題ないはず。

 次の世代まで血を繋ぐだけでいい。孫は私も含めた周囲がきっちり教育する。正妃である妻の実家から二人目の王妃を得ることで、大公家の地位が高まるが……今さらだった。問題ない、そう考えたのに……。

「俺はナディアと結婚します! 政略結婚で、父上達のような冷たい家庭を築くのはごめんだ」

 どこで教育を間違えた? いや……有能な教師を選んだのだ。きっとそれ以前の部分がおかしい。元から出来が悪いことに気づいていれば、側妃を娶って産ませたものを。悔しさで歯が軋むほど噛み締めた。

 ぎりりと嫌な音がして、血が滲む。口の中の鉄錆びた味を飲み込み、バカ息子を睨んだ。

「もういい。好きにしろ、お前は廃嫡とする」

 絶縁を突きつけた。唯一の王子だが、唯一の我が子ではない。成長過程で心配になり、数年前にもう一人子を産ませていた。まだ幼いが、逆に今からきちんと教育すれば間に合う。

 私の退位が遅くなるだけだ。婚外子のため、現在はある公爵家に預けていた。女児だが公爵家辺りから婿を取ればいい。血を繋ぐだけなら、一時的に女王でも構わない。王家の血が途切れなければ、なんとかなる。

「父上?! 俺以外、王家の血を引く者はいないんですよ?」

「子など作れば済む。いっそお前以外なら誰でもいい」

 横暴だなんだと騒ぐ息子を、騎士に拘束させた。外へ放り出すにしても、子作り出来ぬように処置しなくてはならん。うっかり外でばら撒かれたら、のちの災いの種になる。

 子供の頃に祖父から聞いたのは、ヴァロワの本家だったヴァレス王家の末路だ。正妃のみに頼り、側妃を拒んだ結果……血が細くなりすぎた。生まれる子が減り、女性ばかりになり、最後はヴァロワに嫁いだ曽祖母のみとなる。

 曽祖父が立ち上がらなければ、ヴァレス聖王国は滅亡していたのだ。同じ悲劇を僅か三代で繰り返す気はなかった。ル・フォール大公家はヴァロワの血を受け継いでいない。ならば王家の血を受け継ぐ娘を王女として認め、引き取るのが正しい。

 正妃セレスティーヌの承諾を取らねば。急いで彼女に事情を説明した。冷たい表情で私を一瞥し「お好きになさればいいでしょう」と吐き捨てる。冷たい家庭と言われようが、これが王家の政略結婚だ。

「わたくしは実家に戻らせて頂きますわ。よその女に産ませた婚外子を引き取るんですもの。ご理解いただけますわね?」

 居心地が悪いだろうし、虐められても困る。もう子を産む気のない妻は不要だった。構わないと許可を出した途端、彼女は蕾が綻ぶように微笑む。その美しさと妖艶さに息を呑んだ。

 手放してはならない何かを……失った気がした。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。

蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。 「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」 王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。 形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。 お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。 しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。 純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【本編完結】独りよがりの初恋でした

須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。  それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。 アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。 #ほろ苦い初恋 #それぞれにハッピーエンド 特にざまぁなどはありません。 小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

処理中です...