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余談
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魔王アザゼルは圧倒的な強さを誇る。魔族最強の存在だった。誰にも頭を下げず、媚びず、冷酷さと非情さが際立つ人だ。それでいて、愚鈍でもない。
強さがすべての魔族にあって、アザゼルという王は過去に類を見ない支持率を叩き出した。それだけの強さを見せつけてきた王が、突然……伴侶を得た。
人間が勝手に異世界から攫ってくる者は、魔族へのご機嫌取りの贄として捧げられる。弱者である人間が考えた生き残り策であろう。
魔王に次ぐ実力を誇るこのアスモダイを持ってしても、魔王アザゼルと並ぶことはできなかった。それほどの男が、贄を選んで愛でる。違和感しかない。気に入らねば一瞬で首を刎ね、叩き潰す魔王が贄を殺すのも近いと思っていた。だからのめり込む様子を見せても、何も感じなかったのだが。
贄を害したと罪状を付けて、部下のフラウロスを排除した。あれは罠に掛けられたのだが、私には関係ない。美味しい獲物を譲られたのだから、文句もなかった。優秀な将軍であろうと、すぐに空席は埋まる。失えないほど大切な存在は、魔王アザゼルのみなのだから。
忠実なる臣下である私にも、伴侶と呼ぶ贄の顔を見せないほど溺愛する。それでも構わなかった。アザゼル様の強さは変わらない。弱点を持てば誰しも弱くなるが、その弱さを感じさせぬほど強かった。
逆らった夢魔を見せしめにした頃から、アザゼル様に変化が見られた。贄のことを考えていると口元が緩む。わずか数ミリの話だが、長年側仕えをした私が見間違うことはない。それほどに愛される贄が気になり、男を送り込んだが……あっさり消滅させられた。
「アスモダイ、余は寛大な王だ。そうであろう?」
「仰せの通りでございます」
私の不徳を、不忠と断じなかった。わかっている、これは愛情でも馴れ合いでもない。かの人にとって、私以上に役立つ駒が手元にないからだ。だがこれ以上贄に近づけば、容赦なく処断される。釘を刺された形だった。
贄が気になり、フラウロスの記憶を吸い出した。脳を分解するのは手間がかかる上、生かして行うので煩い。頭の中を弄られる苦痛に泣き叫んだが、フラウロスに死は許されていない。必要な記憶を選び取り、ぺろりと舐めて味わう。ああ、なるほど。黒髪のほっそりした青年ですね。これが魔王のお好みですか。
贄の状態が落ち着いたのか、数年経って突然アザゼル様は動いた。人間の住む都を滅ぼし、王城を焼き払ったのだ。誰も生存者はいなかっただろう。あっという間の惨劇だった。理由を問うた私に、あの方はうっそりと笑う。
「我が伴侶を召喚した功績に、寿命を数年伸ばしてやった。だが……最愛の者が苦しんだ罰は与えねばなるまい」
自分勝手な理論だ。暴論と呼ぶに相応しい。これでこそ魔族の王、力ですべてを捩じ伏せる残虐さは、ゾクゾクするほど好ましかった。弱点を抱えたからこそ、その強さはさらに際立つ。このお方に仕えることができた私は、なんと恵まれているのだろう。
――今後も、身命を賭してお仕えしよう。
THE END.
約一ヶ月、短かったです。お付き合いいただき、ありがとうございました(o´-ω-)o)ペコッ なんとか完結しました。最初のHで美味しく頂かれた時点で、タイトル回収していたので(´∀`*)どこで終わりにしようか悩んでおりましたが、ちょうどよくカットできました。
出番が少ないけどお気に入りなので、アスモダイに「余談」への友情出演をお願いしています。最後に侵入した男は、彼の刺客(?)だったのですね( ̄ー ̄)ニヤ...
二度目はないので、命は大切にね。アスモダイ。
また新作を予定しております。
BLじゃなく、今度は恋愛かな? あちこちかき散らしますが、今後も綾雅(りょうが)をよろしくお願いいたします。
強さがすべての魔族にあって、アザゼルという王は過去に類を見ない支持率を叩き出した。それだけの強さを見せつけてきた王が、突然……伴侶を得た。
人間が勝手に異世界から攫ってくる者は、魔族へのご機嫌取りの贄として捧げられる。弱者である人間が考えた生き残り策であろう。
魔王に次ぐ実力を誇るこのアスモダイを持ってしても、魔王アザゼルと並ぶことはできなかった。それほどの男が、贄を選んで愛でる。違和感しかない。気に入らねば一瞬で首を刎ね、叩き潰す魔王が贄を殺すのも近いと思っていた。だからのめり込む様子を見せても、何も感じなかったのだが。
贄を害したと罪状を付けて、部下のフラウロスを排除した。あれは罠に掛けられたのだが、私には関係ない。美味しい獲物を譲られたのだから、文句もなかった。優秀な将軍であろうと、すぐに空席は埋まる。失えないほど大切な存在は、魔王アザゼルのみなのだから。
忠実なる臣下である私にも、伴侶と呼ぶ贄の顔を見せないほど溺愛する。それでも構わなかった。アザゼル様の強さは変わらない。弱点を持てば誰しも弱くなるが、その弱さを感じさせぬほど強かった。
逆らった夢魔を見せしめにした頃から、アザゼル様に変化が見られた。贄のことを考えていると口元が緩む。わずか数ミリの話だが、長年側仕えをした私が見間違うことはない。それほどに愛される贄が気になり、男を送り込んだが……あっさり消滅させられた。
「アスモダイ、余は寛大な王だ。そうであろう?」
「仰せの通りでございます」
私の不徳を、不忠と断じなかった。わかっている、これは愛情でも馴れ合いでもない。かの人にとって、私以上に役立つ駒が手元にないからだ。だがこれ以上贄に近づけば、容赦なく処断される。釘を刺された形だった。
贄が気になり、フラウロスの記憶を吸い出した。脳を分解するのは手間がかかる上、生かして行うので煩い。頭の中を弄られる苦痛に泣き叫んだが、フラウロスに死は許されていない。必要な記憶を選び取り、ぺろりと舐めて味わう。ああ、なるほど。黒髪のほっそりした青年ですね。これが魔王のお好みですか。
贄の状態が落ち着いたのか、数年経って突然アザゼル様は動いた。人間の住む都を滅ぼし、王城を焼き払ったのだ。誰も生存者はいなかっただろう。あっという間の惨劇だった。理由を問うた私に、あの方はうっそりと笑う。
「我が伴侶を召喚した功績に、寿命を数年伸ばしてやった。だが……最愛の者が苦しんだ罰は与えねばなるまい」
自分勝手な理論だ。暴論と呼ぶに相応しい。これでこそ魔族の王、力ですべてを捩じ伏せる残虐さは、ゾクゾクするほど好ましかった。弱点を抱えたからこそ、その強さはさらに際立つ。このお方に仕えることができた私は、なんと恵まれているのだろう。
――今後も、身命を賭してお仕えしよう。
THE END.
約一ヶ月、短かったです。お付き合いいただき、ありがとうございました(o´-ω-)o)ペコッ なんとか完結しました。最初のHで美味しく頂かれた時点で、タイトル回収していたので(´∀`*)どこで終わりにしようか悩んでおりましたが、ちょうどよくカットできました。
出番が少ないけどお気に入りなので、アスモダイに「余談」への友情出演をお願いしています。最後に侵入した男は、彼の刺客(?)だったのですね( ̄ー ̄)ニヤ...
二度目はないので、命は大切にね。アスモダイ。
また新作を予定しております。
BLじゃなく、今度は恋愛かな? あちこちかき散らしますが、今後も綾雅(りょうが)をよろしくお願いいたします。
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とても美味しかったです…!
余談も楽しみにしてます~
応援&最後までお付き合いいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ
アスモダイの裏話、お楽しみいただけましたか? また新しい作品でお目にかかれることを祈っております。
あー依存させるためかー
そういうの大好きです良いぞもっとやれ
めっちゃ病んでる人(?)でした_( _*´ ꒳ `*)_ でも幸せになれると思う。愛されてるからw
安心 安全のアザゼル様に ほだされてきましたね。 ニャァ
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下手な奴に誘拐されるより、アザゼルの側が安全だと気づいてしまった……今後はもう食われ放題です←