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35.愛されてる間は愛するからさ

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 一度見えるようになった結界は、ずっと視界に残った。どうやら体内に注がれた魔力が一定量に達したので、アザゼルの結界を認知できるようになったらしい。

 どんどん人間から離れていくが、そのうちアザゼルみたいに尻尾や鱗が生えてくるんだろうか。

 あの日侵入した男は、誰かに頼まれて俺を攫いに来たという。侵入する方法は用意されていたようで、本人はさほど能力が高くない。つまり使い捨ての駒だった。アザゼルに差し向けられた時の俺よりマシだけど。あの時は完全に「帰ってくるな」だったし。

「何を考えているのだ?」

 俺の黒髪を弄りながら、アザゼルは目を細める。

「昨日の侵入者、どうしたの?」

「……気になるか?」

 普通は気になるだろ。罰せられたとか牢に入れられる程度ならいいけど、アザゼルだから殺した可能性もある。単純に好奇心で尋ねた俺に、アザゼルの目が細められた。

「余と過ごす時間に他の男の名を口にするとは、よほど気に入ったらしい。目の前で引き裂いてやろうか」

「そういうのは要らない。それより俺に謝ることあるだろ?」

「……囮にしたことか」

 監禁してるのも謝罪案件だと思うけど、今は横に置いておこう。囮にしたってことは、俺に危険が迫る可能性を考慮していた。なのに事前の相談もなく実行するのは、ちょっと愛が薄いんじゃないか?

「愛は薄れてなどおらぬぞ」

「勝手に俺の心を読むのも禁止」

「無理だな。そなたから一方的に流れてくるのだ。繋がりを深くするとは、そういうことでもある」

 ちっ、確信犯か。分かってて、俺の怯えを利用して繋がりやがったな。狡くて手段を選ばない最低な奴で、俺を監禁してるくせに……髪に触れてるその指は優しい。抱くときは容赦なく鳴かせるのに、涙を拭う指先やキスは甘い。

「どっちが本当のお前なんだ?」

「さて」

 区別したことはないと微笑むアザゼルは、俺に嘘を吐かない。代わりに口にしたくないことは誤魔化し、濁す。だったら言葉にして約束させればいいんだよ。

「次に俺を騙したら、二度と抱かせない」

「出来るのか?」

「アザゼルを心の底から嫌いになる。触れたら吐くくらいにな」

 最愛の伴侶が吐いて嫌悪を露わにしても、お前は俺を抱けるのか? 内心で問いかけて待つ。わずかな時間がとても長く感じられた。

「余に取引を持ちかけて勝つのは、ハヤトくらいであろうな。余の負けだ、すまなかった」

 長い寿命を分かち合う存在に、そこまで嫌われる覚悟はないらしい。俺はにっこりと笑う。満面の笑みを浮かべた頬に、冷たい指先が触れた。形を確かめるようになぞる。

「俺は贄だったけど、今はアザゼルと対等なんだろ? 伴侶だもんな。だから……大切にしろよ。愛されてる間は、愛するからさ」

 別にこの部屋から出られなくてもいい。常に一緒にいて、たまに外で気分転換をする。そんな退屈な日常でも、誰かに嬲り殺されるよりマシだと思うから。

「愛を取引に使うとは」

「俺を閉じ込めてるくせによく言うよ。俺が一番大切なのは自分で、そんな俺を大切にしてくれる奴が二番目なだけ。それじゃ不満か?」

 俺自身より愛されないと足りないとでも? 問うた俺の唇を塞ぎ、貪った後にアザゼルは美しい顔を笑みで彩った。どうやらお気に召したらしい。
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